2022年8月20日土曜日

読了メモ「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年」、「ナイン・ストーリーズ」J.D.サリンジャー



読了。

サリンジャーの本を2冊読みました。
どちらも短編集ですが、前者の方は連続短編という感じ。

翻訳者が違うので、読み応えはどうかなと思ったけれど
さすがに、評判の高いお二人なので、大変読みやすかったです。
ただ、前者の本の最後のお話は、手紙形式なのですが、
とても分かりにくかったし、あまりに長すぎるのが玉に瑕です。

サリンジャーといえば、「ライ麦畑で捕まえて」が有名で、
逆にそれを読んでしまうともう読む機会はないくらいだったのですが、
今回、思い切って2冊読み切ってみました。

どちらも、時代背景は、第二次世界大戦前あるいは戦中の頃で、
前者の本では、戦場の生々しい話があったり、
兵士の悲しさや寂しさ、故郷を想う心情が描かれています。
日本兵と戦う話や、ヨーロッパ戦線の話も出てきて、
話の広がりがワールドワイドで、思わずのめり込んでしまいます。

後者は、戦場がでてくるところはないですが、
逆に、それぞれのお話の最後の部分で、
背筋に冷たいものが走るようなゾワッとする形で終わる話や、
悲鳴をあげそうになる話が多いです。
このような展開が多かったのは少々意外でした。

おすすめとしては、最後にビックリさせてくれる部分もあるから
後者の本を推すかな。

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このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年
J.D.サリンジャー 金原瑞人訳
新潮社 2021年

ナイン・ストーリーズ
J.D.サリンジャー 柴田元幸訳
ヴィレッジ・ブックス 2009年

 




2022年8月12日金曜日

読了メモ「草枕」夏目漱石、「『草枕』変奏曲 夏目漱石とグレン・グールド」横田庄一郎



読了。

「草枕」は、有名なこの文章で始まります。

 山路を登りながら、こう考えた。
 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
 意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

また、続いてこうある。

 住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて、
 有難い世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。
 あるは音楽と彫刻である。

この本を愛読した音楽家がいる。
バッハのゴールドベルグ変奏曲で有名な
カナダのピアニスト、グレン・グールドだ。
クラシックに詳しい人の間では
このことは有名らしいが自分は初めて知った。
彼はこの草枕を「二十世紀の小説の最高傑作の一つ」と評価し、
死に至るまで手元に置いて愛読していたそうである。

まず、その草枕であるが、不思議な小説だ。
筋らしい筋がない。
読み終えて感じたのは、これは小説というよりも
夏目漱石の芸術観の一端を表現したものかもしれないと。
主人公は山奥の温泉場に出向いた
画工(えかき)なのだが、一向に画は描かない。
周りの豊かな自然や風景に心を寄せて詩情を抱き、
那美という宿の出戻り娘に温泉場の人々や
お寺の坊主が翻弄される様を見ては斜に構えていたりする。
最後は、出征する青年と、那美に起きた意外な事件で
画が描けそうな雰囲気になるところでおわる。

一方、グレン・グールドは、草枕を英語版と日本語版で
保存用と読書用に合計4冊も持っていたそうだ。
グレン・グールドと夏目漱石は偶然にも同じ50歳で生涯を閉じる。
草枕をグレン・グールドが読んだのは、
1966年から67年だが、草枕を読む前と後の
彼のゴールドベルグ変奏曲の演奏が
こんなにも違うのかと素人の自分が聴いても驚くほどである。
まだ、ネット上で聴きかじっただけだが
ちょうど聴き比べのできるCDが販売されているので
今度、じっくり聴き比べてみたい。

また、草枕以外にもう一つ、グレン・グールドに影響を与えた
日本芸術の記載があった。
安部公房原作の映画「砂の女」である。
勅使河原宏監督、岸田今日子主演の1964年のモノクロ映画。
グレン・グールドが草枕を読む前になるが
彼はこの映画を100回以上は観たという。
ちなみに、この映画の音楽は、武満徹が担当していた。

グレン・グールドは、人前での生演奏をやめて、スタジオに篭り
ひたすらスタジオの中で演奏、録音や、ラジオ制作をするという生涯を送る。
ミキサーの前に座っている彼は、
スタジオの中は子宮の中にいるようだとも言っていたという。

草枕、砂の女という日本の芸術に影響を受けた
カナダのクラッシックピアニストの生涯。
言葉の壁はもちろんあった筈だが、
グレン・グールドの心底に流れ通じたものはどんな感慨だったのだろうか。

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草枕
夏目漱石
新潮社 2021年

草枕変奏曲 夏目漱石とグレン・グールド
横田庄一郎
朔北社 1998年

2022年8月8日月曜日

読了メモ「人間の証明」森村誠一




読了。

 母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
 ええ、夏 碓井から霧積へ行くみちで、
 渓谷へ落としたあの麦稈帽子ですよ。

 母さん、あれは好きな帽子でしたよ。

 (西條八十・作 「帽子」より抜粋)

一世を風靡したミステリー小説。
書影の竹野内豊は、2004年TVドラマでの刑事役ですが、
自分には、1977年の角川映画で刑事を演じた松田優作と、
ジョー山中が歌う主題歌しか記憶にありません。
前年の角川映画は「犬神家の一族」でしたね。

ストーリーは、ご存知のお方も多いと思います。
フィクションとはいえ、戦争という災いに端を発する
一つの事件だったのかと思います。

こうやってあらためて小説として読んでみると
あの時に観た映画のシーンやそれこそ主題歌が再生され、
脳内で原作の形で映画がリメイクされる感じです。

あまり多くを語る必要もないので、
お約束の動画を貼り付けておきます。


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人間の証明
森村誠一
角川書店 2004年