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2021年11月21日日曜日

読了メモ「妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方」暦本純一



読了。

著者の暦本さんは、ソニーの研究者。
東京大学にも自分の研究室を持っていて
ユーザーインターフェイスの研究開発をしている。

皆さんはスマホで写真を拡大して観る際に
二本の指で広げるようにして写真を大きくするでしょう。
ピンチングというあの技術を研究開発した人です。
初代iPhoneが発売されるのが2007年。
この技術を暦本さんが発表したのは2001年とのこと。

スマホの登場を予測せずに、こんな技術を開発したのは
なんともすごいが、その源泉は「妄想」にあるのだという。

 アイデアの源泉は、いつも「自分」だ。
 誰に頼まれたわけでもなく、
 むりやり絞り出したわけでもなく、
 自分の中から勝手に生まれてくるのだ。
 そう、それは「妄想」である。(p5)

また、北大路魯山人の文章を例にあげて
料理と同じく研究開発にも素材が大事であり
具体的な実験や試作の作業に入る前に
論文のあらすじを書いてみて、素材の良し悪しを判断するそうだ。

 ・課題は何か? それは誰にとって必要なものか?
 ・その課題はなぜ難しいのか? あるいはなぜ面白いか?
 ・その課題をどう解決するのか? 〜中略〜
 ・その手法で解決できることをどう立証するか? どう決着をつけるか?
 ・その解決手法のもたらす効果、さらなる発展の可能性。(p73)

料理で言えばレシピみたいなものだろうと、
素材が良いと苦労せずに概要も書けるはずだと言っている。

その他にも、

 ブレストはワークしない。
 多数決ではジャッジできない。
 アイデアには孤独なプロセスが不可欠。
 一回やってみて失敗するくらいがいい。
 そもそも何をしたかったのか。

など、暦本さんの持論が展開される。
特に、失敗は
 
 自分が取り組んでいる課題の構造を明らかにするプロセス(p109)

と言ってその重要性を説いている。
そして

 大事なのはこの「発汗」だ。
 「このアイデアは面白そうだけど、本当にうまくいくだろうか」などと、
 じっと熟考するのではない。
 ダメ元ででもいいのでまず手を動かしてみる。(p116)

これは、エジソンの99%の努力と1%の閃きの裏返しとなっている。


このように、難しい技術用語は使わず、料理や普段の暮らしの一面を
例えにあげながら、わかりやすくアイデアの作り方を解説してくれている。

自分にとっては、暦本さんが学生時代に
よく読んだというSF小説の紹介の章などはわくわくしてしまった。
で、はたまた積読が増えてしまったわけだが。。。
ちなみに、暦本さんの研究室には、
漫画「ドラえもん」が全巻揃っているそうだ。
経理からこれは何?と聞かれて、
研究のための参考図書ですと胸をはって答えたとか。

一番最後にはしっかり警鐘を鳴らしている。
よく言われる「選択と集中」だけでは未来に対応できないと。


久しぶりに自己啓発書系を読んだけれども
しっかり啓発されたように思います。
技術系の方でなくともお勧めの本です。

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妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方
暦本純一
祥伝社 2021年


2021年11月13日土曜日

読了メモ「縦横無尽の文章レッスン」村田喜代子



読了。

文章を書くための大学生向け講義をまとめた勉強本です。

良い文章を書くためには、読むことも大切と言われていますが、
その比率はどのくらいでしょうか。
本書によれば、読むことが六、書くことが四だそうです。

まずは、小学生の作文を例にあげて解説していく。
大学生には、まずはこの小学生くらいには書けて欲しいという。
例にあがっているのは、海水浴の作文だが、
とてもシンプルであり、海水浴の楽しい情景が目に浮かんでくる。
が、はたもすると、何時に起きて、お弁当は何で、
どこを車で走って、何時に着いて、誰と会って、
ややもすると、海洋汚染とか海面上昇とか、地球を守らなきゃ。。。。
と頭の中がパンクしそうになってくる。

そう、小学生の作文には字数制限があるのが普通だ。
このブログのようにダラダラと書き連ねていくものではない。
何を書くかということは、何を書かないかということ。

次に学生たちに「二〇〇〇年間で最大の発明は何か」という問いで
作文を書かせる。字数は無制限だ。
提出された作文を一つ一つ取り上げて解説してくれる。
これが自分にとっても大変良い勉強になった。
学生のみなさんどうもありがとう。

例えば、日本人は物事を抽象的に考えるのが苦手のようです。
抽象的な話は理屈であり、
理屈は中身がない空虚なものと思ってしまうそうだ。
しかし、理屈は理論であって、理屈や理論なくしては
ものごとを結論に結びつけることはできない。
もっというと、ストーリーとして筋が通っているとか言うけれど
文章の筋を通すとは、論理的であるということなんです。
理屈っぽいっとか嫌われるけれど、
納得してもらうには大切なことなんです。

そして、文章を書く前には考察が必要。
「文章の作り方」=「物事の考え方」だそうである。
このことを、小説、エッセイ、ノンフィクションなど
さまざまな文章を取り上げて解説してくれている。
偏食があると健康に良くないが、文章を書くためにも
さまざまな分野の文章を読むことが大切だと
自分は背中を押されたようで大変嬉しかった。

最後はこんな一文で講義を締め括っている。

 書いて、指摘を受け、そのたびごとに傷つくのはやめよう。
 文章は自分の充実のために書くもので、
 自分のもう一つの実現のために書くものである。(p219)


本書はずいぶんと以前に買って、
ずっと積読状態になっていた。
もっと早く読んでおけば良かったなと。

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縦横無尽の文章レッスン
村田喜代子
朝日新聞出版 2011年

※下記は文庫版でのご案内です。


2021年11月7日日曜日

読了メモ「僕のトルネード戦記」野茂英雄



読了。

彼より以前、メジャーリーグに
チャレンジした選手はもちろんいた。

しかし、実績、彼個人の応援歌ができるほどの人気、
そしてなんといっても、日本人選手の
メジャーリーグへの道の開拓者としての存在は大きい。

以前より読みたい本だったところ
やっとこさ見つけて読むことができた。

当初、日本野球界やマスコミとの葛藤や摩擦の
裏話が載っているのではと半ば期待してた。
でも、それは前書きの二行足らずで書き終えていた。
そんな野次馬妄想を抱いていた自分が恥ずかしくなった。
本書は、野茂英雄という野球選手の野球への熱い思いを綴った一冊でした。

 僕はひとりの野球人であり、
 野茂英雄という一人の人間に過ぎないんです。(p193)

日本プロ野球界の経験至上主義への反発。
世界の選手と試合ができなくなるとプロ入りを拒否したアマチュア選手の存在。
最初は、協定破り、永久追放とか言いながら、
手のひらを返して、野茂の活躍は日本人に勇気を与えたというマスコミ。
そして、チャレンジ精神を前向きに迎え入れてくれるアメリカの風土。

 スタジアムの視線をすべて独り占めするようなピッチングがしてみたい。
 攻めて攻めて、バッターを牛耳るようなピッチングを。
 クレメンスはそれを実践している。
 だから、見るものを引きずり込む魅力があるんです。(p29)

本書の中では朴訥とした言い方で、
自分の言いたいことをうまく言えないと
苦虫を潰している野茂英雄自身がいて、
読んでいてとても親近感も湧きました。

彼が本書で言いたかったことは、
観客を酔わせる、魅せるピッチャーになること。

 「今日は野茂が投げるから見に行きたい」
 とお客さんに思ってもらえたら、
 これほど嬉しいことはありません。(p197)

彼は、日本人野球選手のメジャーリーグへの道の開拓者と同時に
野球が好きであることと、マウンドで好投することの素晴らしさを
本当に大切にしている選手だったんだと思います。

好い本なので、チャンスがあれば是非。

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僕のトルネード戦記
野茂英雄
集英社 1995年

※下記は文庫版でのご案内です。