2024年は、こちらにもアップします。

2022年12月31日土曜日

2022年 読了本一覧

早いもので、2022年も大晦日となりました。
今年は、ちょい少なめではあるものの
区切りよく50冊を読みました。
来年も、たくさん読みたいなぁの一心です。

では、2022年の読了本は以下になります。

🔳菊と刀
    ルース・ベネディクト
    読了日:2022年1月9日

🔳象は鼻が長い
    三上 章 
    読了日:2022年1月13日

🔳アルケミスト 夢を旅した少年
    パウロ・コエーリョ
    読了日:2022年1月22日

🔳時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体
    松浦 壮
    読了日:2022年1月26日

🔳コンビニ人間
    村田 沙耶香
    読了日:2022年1月31日

🔳鏡のなかの鏡 迷宮
    ミヒャエル・エンデ
    読了日:2022年2月9日

🔳悲鳴をあげる身体
    鷲田 清一
 読了日:2022年2月16日

🔳マクベス 
    ウィリアム・シェイクスピア
    読了日:2022年2月22日

🔳アポロってほんとうに月に行ったの?
    エムハーガ
    読了日:2022年2月23日

🔳シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱
    高殿 円
    読了日:2022年3月6日

🔳容疑者Xの献身
    東野 圭吾
    読了日:2022年3月14日

🔳幸福論
    アラン(エミール=オーギュスト・シャルティエ)
    読了日:2022年3月29日

🔳人間の証明
    森村 誠一 
    読了日:2022年4月6日

🔳芥川龍之介短篇集
    芥川 龍之介
    読了日:2022年4月22日

🔳アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
    フィリップ・K・ディック
    読了日:2022年4月30日

🔳ジーノの家
    内田 洋子
    読了日:2022年5月4日

🔳ザリガニの鳴くところ
    ディーリア・オーエンズ
    読了日:2022年5月12日

🔳十角館の殺人
    綾辻 行人
    読了日:2022年5月19日

🔳春琴抄
    谷崎 潤一郎
    読了日:2022年5月22日

🔳野生の思考
    クロード・レヴィ=ストロース 
    読了日:2022年5月28日

🔳「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか
    馬場 悠男
    読了日:2022年6月8日

🔳侍女の物語
    マーガレット・アトウッド
    読了日:2022年6月19日

🔳誓願
    マーガレット・アトウッド
    読了日:2022年7月3日

🔳山月記・李陵 他九篇
    中島 敦
    読了日:2022年7月14日

🔳友情
    武者小路 実篤
    読了日:2022年7月18日

🔳ゲルハルト・リヒター写真論/絵画論
    ゲルハルト・リヒター
    読了日:2022年7月25日

🔳草枕
    夏目 漱石
    読了日:2022年8月3日

🔳「草枕」変奏曲 夏目漱石とグレン・グールド
    横田 庄一郎
    読了日:2022年8月7日

🔳ケーキの切れない非行少年たち
    宮口 幸治
    読了日:2022年8月11日

🔳夜市
    恒川 光太郎
    読了日:2022年8月13日

🔳このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年
    ・D・サリンジャー 
    読了日:2022年8月16日

🔳ナイン・ストーリーズ
    J・D・サリンジャー 
    読了日:2022年8月20日

🔳構造と力 記号論を超えて
    浅田 彰
    読了日2022年8月28日

🔳火車
    宮部 みゆき
    読了日:2022年9月4日

🔳なつかしい時間
    長田 弘
 読了日:2022年9月13日

🔳新自由主義の廃墟で:真実の終わりと民主主義の未来
    ウェンディ・ブラウン
    読了日:2022年9月19日

🔳インプロ 自由自在な行動表現
    キース・ジョンストン
    読了日:2022年9月28日

🔳マダム・エドワルダ/目玉の話
    ジョルジュ・バタイユ
    読了日:2022年9月29日

🔳ルビンの壺が割れた
    宿野 かほる
    読了日:2022年10月12日

🔳虐殺器官
    伊藤 計劃
    読了日:2022年10月25日

🔳しき
    町屋 良平
    読了日:2022年10月28日

🔳一汁一菜でよいという提案
    土井 善晴
    読了日:2022年11月1日

🔳読書について
    アルトゥール・ショーペンハウアー
    読了日:2022年11月3日

🔳戦争と平和1
    レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ
    読了日:2022年11月10日

🔳戦争と平和2
    レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ 
    読了日:2022年11月18日

🔳戦争と平和3
    レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ 
    読了日:2022年11月25日

🔳戦争と平和4
    レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ 
    読了日:2022年12月9日

🔳戦争と平和5
    レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ 
    読了日:2022年12月16日

🔳戦争と平和6
    レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ 
    読了日:2022年12月25日

🔳大坊珈琲店
    大坊 勝次
    読了日:2022年12月28日


一冊一冊を読み終えたのが、つい昨日のようです。
では、また来年。

2022年11月3日木曜日

ご報告

まことに勝手ながら、「読了メモ」の本ブログへの投稿を
当面の間、お休みします。

それでも、節目の時や、気が向いた時には
何か書いて更新するかもしれません。


読書は懲りずに続けており、
定常的な読了記録は何らかの形で残しておきたいので
Instagramの方で、書影はアップしてまいります。

取り急ぎ、ご報告でした。


2022年10月12日水曜日

読了メモ「ルビンの壺が割れた」宿野かほる



読了。

みなさんは、「ルビンの壺」ってご存知ですか。
壺の外形を横からみると、
丁度、男女の顔が向かい合ってるようにみえる壺の絵です。

本書は、男女間での書簡形式でかかれています。
メディアは、フェイスブックのメッセンジャー。
今風ですな。

メッセージの始まりは、男性がフェイスブックで、
確実に知り合いであろうと思う女性を見つけて
彼女におそるおそるメッセージを送ることから始まります。

当然ながら、最初は一方通行なのですが、
そのうち、女性からも返事をするようになり
昔話に花が咲いて、なごやかな雰囲気なのですが。。。。

時々、相手を非難するようなワードが出始めて
だんだんと嫌な方向に話が進んでいきます。
言ってみれば、暴露試合。

ちまたでは「どんでん返し」と評されているようです。
確かに、最後の一行はびっくりしますけど、
自分の読後感としては、あんまりすっきりしないなぁ。
モヤモヤして途方に暮れますね、こういう話は。

一時期、話題にもなったようなので
読んだ方もおられるのではないでしょうか。
170頁ほどなので、すぐに読めちゃいますよ。

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ルビンの壺が割れた
宿野かほる
新潮社 2022年

2022年9月29日木曜日

読了メモ「夜市」恒川光太郎




読了。

ホラー小説。短編が2篇。
と言っても、ド派手なスプラッターなものではない。
言ってみれば、日本風の穏やかだがゾクっとする
どちらも「異世界」の不思議な話。

一つは、書名にもなっている「夜市」。
妖怪が集まる夜市に、人間が入っていく。
望むものは何でも手に入る。モノとは限らない。
頭が良くなったり、運動神経を良くしたりすることもできる。
言ってみれば、夢が買える場所だ。
ただ、お金では買えない。
物々交換なのだ。妖怪が交換相応と納得したものでないと
欲しいものに交換してもらえない。
夜市に迷い込んだ裕司は、とんでもないものと
欲しい力を交換してしまう。

もう一つは、「風の古道」
みなさんも、あれ?この小さい路地に入ったことないな。
と思ったところとかありませんか。
今まで、気がつかなかった路地や草むらの中を入っていくと
人通りのない知らない道に出てしまった。
迷い込んだ少年は、通りすがりの青年と一緒に歩き始める。
その道の本性がだんだんとわかってくる。
命の危険を感じることもあったし、
何か懐かしい風を肌に感じることもあった。
ただ、元の世界へ通じる出入り口は、
閉じられているところもあって、なかなか元の世界に戻れない。
でも、最後はちょっと切ない終わり方。
ホラーというわりには、安心したかな。

2篇で200ページほどの分量です。
ちょっとした隙間に異世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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夜市
恒川光太郎
角川書店 2008年



2022年9月14日水曜日

読了メモ「構造と力 記号論を超えて」浅田 彰



読了。

読んでみたかった作家の一人。
理解できないだろうと敬遠していたきらいはあるが、
案の定、難解であった。

序の部分は、大学生へのエールから始まる。
このあたりは余裕のよっちゃんである。
教養課程の重要性を紐解きながらも
浅田節に引き込まれていく。

例えば、読書について。

 入門書を精読して手がたく出発しようなどという
 小心さは、あえて捨てたい。〜(中略)〜
 せっかく受験勉強というインスタント公害食品から解放されたのだ。
 知のジャングルをさまよって、毒でも薬でも
 どんどんつまみ食いしてみればいい。(P20〜)

と。

で、問題はここから先の本章からなのだが、
いきなり最初からつまずく。
一つ一つのパラグラフが短いのが幸いではあるものの
解らない言葉が否応なく出て来る。
人間の存在が有機的な自然界の秩序からのズレを生じさせており
このズレがいかに帰結するかを論じている。
と思う。確信は持てないが。

また、国家を論ずる章では、金(Gold)に替わって
貨幣が象徴中の象徴で、象徴的価値体型を吊り支える中心であると言う。
いわば地上に現れたブラックホールとして、
欲望の流れを一方的に吸引し続けるらしい。

だからなんだと言わんとすることを纏め上げる理解力を
自分は持てていないので、このあたりでやめておく。

ちょっと救いだったのは、数多の経済学者や
思想家の名前が噴出する本書の中で
ジョン・ケージやグレン・グールドという音楽家の
名前が登場してきたことに一抹の親近感を覚えたのは確か。

著者の本はもう一冊、積んであるので
本書も併せて再読をしたい。

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構造と力 記号論を超えて
浅田 彰
勁草書房 2021年


2022年9月4日日曜日

読了メモ「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ




読了。

2021年の本屋大賞、翻訳小説部門1位の作品。
話題にもなったので、読まれた方も多いのではないでしょうか。
翻訳モノに苦手意識のある自分でしたが
本書は、ストーリーも情景も人物の心の動きも
すっと入ってきました。
読みやすかったですね。

読みやすかったことの反面、
内容は切なく、アメリカの格差社会を
浮き彫りにする物語でもありました。

場所は、それこそザリガニが鳴きだしそうな
深淵な湿地・沼地で水上生活をする少女。
きちんと、水上集落らしきものもあって
お店もあり、交通手段はもちろんボートです。

一方、対する街には、お決まりではありますが
彼女にちょっかいを出す輩がいれば
彼女を守ろうとする若者もいます。
また、役所は、彼女を「保護」し
里親に預けようとしますが、
ザリガニの鳴くような沼地の奥地にいれば安全です。
母親は彼女を捨てて沼地を去ってしまっているのです。

そこで一つの事件がおこり、彼女に容疑がかかります。
真偽の程は読んでみていただきたいのですけれど
入り組んだ水路や、鬱蒼とする水草や木々の中での水上生活者と、
クルーザーを乗り回し、彼女を見下す人々や警官の姿が
鮮明すぎるほどに対照的です。
法廷では、人種差別に関する記述もあり
アメリカ社会のそれこそ奥深い沼のような慣習が綴られています。

舞台となった湿地は実際のモデルがあり、
今では、開発でかなり縮小されてしまったようです。
ザリガニの鳴くところは、どこかにまだ残っているのでしょうか。

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ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ
友廣 純訳
早川書房 2021年


2022年8月20日土曜日

読了メモ「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年」、「ナイン・ストーリーズ」J.D.サリンジャー



読了。

サリンジャーの本を2冊読みました。
どちらも短編集ですが、前者の方は連続短編という感じ。

翻訳者が違うので、読み応えはどうかなと思ったけれど
さすがに、評判の高いお二人なので、大変読みやすかったです。
ただ、前者の本の最後のお話は、手紙形式なのですが、
とても分かりにくかったし、あまりに長すぎるのが玉に瑕です。

サリンジャーといえば、「ライ麦畑で捕まえて」が有名で、
逆にそれを読んでしまうともう読む機会はないくらいだったのですが、
今回、思い切って2冊読み切ってみました。

どちらも、時代背景は、第二次世界大戦前あるいは戦中の頃で、
前者の本では、戦場の生々しい話があったり、
兵士の悲しさや寂しさ、故郷を想う心情が描かれています。
日本兵と戦う話や、ヨーロッパ戦線の話も出てきて、
話の広がりがワールドワイドで、思わずのめり込んでしまいます。

後者は、戦場がでてくるところはないですが、
逆に、それぞれのお話の最後の部分で、
背筋に冷たいものが走るようなゾワッとする形で終わる話や、
悲鳴をあげそうになる話が多いです。
このような展開が多かったのは少々意外でした。

おすすめとしては、最後にビックリさせてくれる部分もあるから
後者の本を推すかな。

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このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年
J.D.サリンジャー 金原瑞人訳
新潮社 2021年

ナイン・ストーリーズ
J.D.サリンジャー 柴田元幸訳
ヴィレッジ・ブックス 2009年

 




2022年8月12日金曜日

読了メモ「草枕」夏目漱石、「『草枕』変奏曲 夏目漱石とグレン・グールド」横田庄一郎



読了。

「草枕」は、有名なこの文章で始まります。

 山路を登りながら、こう考えた。
 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
 意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

また、続いてこうある。

 住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて、
 有難い世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。
 あるは音楽と彫刻である。

この本を愛読した音楽家がいる。
バッハのゴールドベルグ変奏曲で有名な
カナダのピアニスト、グレン・グールドだ。
クラシックに詳しい人の間では
このことは有名らしいが自分は初めて知った。
彼はこの草枕を「二十世紀の小説の最高傑作の一つ」と評価し、
死に至るまで手元に置いて愛読していたそうである。

まず、その草枕であるが、不思議な小説だ。
筋らしい筋がない。
読み終えて感じたのは、これは小説というよりも
夏目漱石の芸術観の一端を表現したものかもしれないと。
主人公は山奥の温泉場に出向いた
画工(えかき)なのだが、一向に画は描かない。
周りの豊かな自然や風景に心を寄せて詩情を抱き、
那美という宿の出戻り娘に温泉場の人々や
お寺の坊主が翻弄される様を見ては斜に構えていたりする。
最後は、出征する青年と、那美に起きた意外な事件で
画が描けそうな雰囲気になるところでおわる。

一方、グレン・グールドは、草枕を英語版と日本語版で
保存用と読書用に合計4冊も持っていたそうだ。
グレン・グールドと夏目漱石は偶然にも同じ50歳で生涯を閉じる。
草枕をグレン・グールドが読んだのは、
1966年から67年だが、草枕を読む前と後の
彼のゴールドベルグ変奏曲の演奏が
こんなにも違うのかと素人の自分が聴いても驚くほどである。
まだ、ネット上で聴きかじっただけだが
ちょうど聴き比べのできるCDが販売されているので
今度、じっくり聴き比べてみたい。

また、草枕以外にもう一つ、グレン・グールドに影響を与えた
日本芸術の記載があった。
安部公房原作の映画「砂の女」である。
勅使河原宏監督、岸田今日子主演の1964年のモノクロ映画。
グレン・グールドが草枕を読む前になるが
彼はこの映画を100回以上は観たという。
ちなみに、この映画の音楽は、武満徹が担当していた。

グレン・グールドは、人前での生演奏をやめて、スタジオに篭り
ひたすらスタジオの中で演奏、録音や、ラジオ制作をするという生涯を送る。
ミキサーの前に座っている彼は、
スタジオの中は子宮の中にいるようだとも言っていたという。

草枕、砂の女という日本の芸術に影響を受けた
カナダのクラッシックピアニストの生涯。
言葉の壁はもちろんあった筈だが、
グレン・グールドの心底に流れ通じたものはどんな感慨だったのだろうか。

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草枕
夏目漱石
新潮社 2021年

草枕変奏曲 夏目漱石とグレン・グールド
横田庄一郎
朔北社 1998年

2022年8月8日月曜日

読了メモ「人間の証明」森村誠一




読了。

 母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
 ええ、夏 碓井から霧積へ行くみちで、
 渓谷へ落としたあの麦稈帽子ですよ。

 母さん、あれは好きな帽子でしたよ。

 (西條八十・作 「帽子」より抜粋)

一世を風靡したミステリー小説。
書影の竹野内豊は、2004年TVドラマでの刑事役ですが、
自分には、1977年の角川映画で刑事を演じた松田優作と、
ジョー山中が歌う主題歌しか記憶にありません。
前年の角川映画は「犬神家の一族」でしたね。

ストーリーは、ご存知のお方も多いと思います。
フィクションとはいえ、戦争という災いに端を発する
一つの事件だったのかと思います。

こうやってあらためて小説として読んでみると
あの時に観た映画のシーンやそれこそ主題歌が再生され、
脳内で原作の形で映画がリメイクされる感じです。

あまり多くを語る必要もないので、
お約束の動画を貼り付けておきます。


===================
人間の証明
森村誠一
角川書店 2004年


2022年7月31日日曜日

読了メモ「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」フィリップ・K ・ディック




読了。

さて、いきなり問題です。
本書は、何の映画の原作でしょうか。

書影にも書いてあるし、有名なので
ご存じのお方もござりましょうが。。。
答えは「ブレードランナー」です。

ここでいうアンドロイドが、
映画上ではレプリカントになるわけですが、
本書を読むと、あまりに映画とのひらきがあって
あの映画の壮大なスケール感と映像世界を生み出した
リドリー・スコット監督の凄さを感じます。

環境破壊により、火星に移住した人類は、
労役を人間型ヒューマノイド、
つまりアンドロイドにさせるのだが、
アンドロイドの中には地球に逃亡する者がでてくる。
主人公のリックは、そのアンドロイドハンター。
しかし、地球には、人間世界そっくりの
アンドロイドの警察機構ができあがっているし
骨髄検査までしないと正確には
アンドロイドか人間かがわからない。
一時は、リックもアンドロイドと疑われ
殺人罪で拘束されたりもする。

指令されていた、アンドロイドを処理して
リックは山羊のいる自宅に帰るが、処理されていた。
本物の山羊ではなかったのだ。

アンドロイドは電気羊を夢を見るか?
最後にきて、ようやく不思議なタイトルの意味の深さが
わかってきました。

=======================
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フリップ・K ・ディック 浅倉久志訳
早川書房 2020年



2022年7月26日火曜日

読了メモ「ゲルハルト・リヒター 写真論/絵画論」 ゲルハルト・リヒター他



読了。

今年の10月2日(日)まで、国立近代美術館で開催されている
ゲルハルト・リヒター展に行ってきました。

ミュージアムショップで図録を買おうと思ったんだけど、
デカいし、せっかく買ってもパラ見で終わって、
本棚の肥やしになってしまう気がしたので、
絵のサンプルはポストカードで気に入ったものを選び、
書籍として、本書を購入しました。

アブストラクト・ペインティングと言われる抽象絵画が代表的で、
自分の目で見ただけでは、その素晴らしさがちょっとわかりません。
何か感じるものは確かにあったんだけど。。。
その点、本書は活字だし、なおかつインタビュー集なので
少しは理解が進むのではないかと密かに期待もしたのでした。

果たして、知らない画家の名前はたくさん出てくるはで、
やはり難しくはあったものの、
それはどちらかというとインタビュアーの質問の方で
リヒター自身が語る言葉はシンプルで平易だったと思います。
トンガってる話も多くありましたが。

写真を模写する絵画の話になった時、

 「写真を書きうつす場合は、(中略)、
  いわば自分の意志に逆らって書くことができるのです。
  そして、それは自分を豊かにしてくれると感じました。」

と述べています。我々が見ている現実はあてにならず、
自分の見方を客観的に訂正するには、写真が必要だというのでした。
なるほど、写真を撮るのが好きな自分には通じるものがありました。

ベルリンの壁ができる頃
1961年にリヒターは西ドイツに逃れてきます。
この頃の話は、過去のドイツに対する熱のこもった話になり
ページが燃え上がりそうな雰囲気にもなります。
リヒターの絵の前で、ひざまづいて人が涙を流すかという問いに対しては、
絵画にはそんな力はなく、むしろ音楽が向いていると言います。

そして、形式をもたらす偶然性を大いに信頼しているとして
手本となるのは、音楽家のジョン・ケージだと言っています。
雑然とした音響世界から音楽の構造を漉し分け、
一つの形式を与えるのだと。
不意に音楽とのつながりがでてきて、ここは面白いところでした。


最後には、日記のような自筆のノートを掲載しています。
アカデミーという名の芸術大学を猛烈に批判し、
芸術とは、真理と幸福と生命への最高の憧憬として働きつづけ、
一方で、自分が欲している映像とは何なのかと自問し続ける。

そして、イデオロギー、政治家、支配者に対する
異常なまでの嫌悪を粛々と述べて本書は終わっています。

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ゲルハルト・リヒター 写真論/絵画論
ゲルハルト・リヒター他 清水 穣訳
淡交社 2011年

2022年7月15日金曜日

読了メモ「山月記・李陵 他九篇」中島 敦




読了。

ちょっと、今までに読んだことのない傾向の本を読んでみた。
中国の古典や、漢文調のリズムの良さを活かしながら
読みやすい文体で書かれた作品11篇からなる。

どれも人間の浅はかな考えや思慮の無さ、
自己中心な生き方に流れがちなところを
ビシッと打ち止めて、改心を促す作品ばかりである。

本書のような作品は、正直、読めない漢字が多い。
ルビがふってあっても、遡って読み方を確認することもざらだ。
筆順辞典を持っているので、読めなくとも調べることはすぐにできるが
そのまま飛ばして読んでしまうことも多い。
一つ一つ確認し、意味を理解して読むのがよいと思う一方で
文体の流れやリズム感も楽しみたいとも思ってしまう。

タイトルになっている「山月記」は、
詩人の主人公がなんと虎になってしまう話である。
自分の欲するがままに生活をし、
口先ばかりの生活をしていたら、
いつのまにか、毛が生え、四つ足で走りはじめ、
兎を食い殺していたという。
山中で、主人公は友人に会い、虎の姿のまま人間の心を取り戻し
これまで、己が評価されることしか考えず
残した妻子のことを二の次にしていたことなどを悔やみ、
丘の上で咆哮するという話。

西遊記に絡んだ話が二篇あって、
どちらも、沙悟浄の話である。
この沙悟浄が、もうクズで小心者。
何をするにも躊躇し、失敗への危惧から努力を放棄していた生き方を
玄奘三蔵や孫悟空、猪八戒と遭遇して
特に、悟空の思い切りの良さ、自分が決めた道を
まっしぐらに進む生き方に心を動かされる。
時には、悟空と罵り合いもするようになり
身を持って悟空から学びを得ようとする。

西遊記といえば、堺正章が主演のあのテレビドラマを思い出すけれど
ちょうど、岸部シロー演じる沙悟浄の雰囲気がマッチしていて
読んでいてとても面白かった。
ということで、懐かしいオープニングです。


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山月記・李陵 他九篇
中島 敦
岩波書店 2021年



2022年7月5日火曜日

読了メモ 「侍女の物語」「誓願」 マーガレット・アトウッド



読了。

「誓願」は「侍女の物語」の続編です。
いわゆる、ディストピア小説と言われるお話を
一気読みしてみました。

男女別階層社会、同性間でも階級があって
侍女はその最下位にあたります。
階層別に服も決まっていて、侍女は赤い服です。

物語は、二十二世紀初めに学会か大学のようなところで
議論されるギレアデという共和国に関する話です。
読み進めていくと、このギレアデという国は、
不思議なことに、アメリカ合衆国の中にあるようで、
しかも、存在していた時代は、現代とほぼ近い時代のようです。
1970年代のことを70年代と呼んでいましたから。

侍女は、言ってみれば子どもを産むための存在でしかありません。
食事や洗濯などをする召使の階層もありますが、侍女はさらにその下。
いつぞや、日本の社会的地位のある方が、
女性は「子供を産む機械」という発言をして大問題になりましたが、
ギレアデ共和国ではそれを地で行っています。
本書の中でも、侍女は二本の足をもった子宮にすぎないと書かれており、
女性らしい振る舞いも化粧も禁じられています。

大きな権力を持っているのは、富裕層ではありますが
社会生活の実質的な権限を掌握しているのは「小母」と呼ばれる女性たち。
戒律といいつつ実態は、自分達に都合の良い生活環境を構築しています。
男性の方はというと、司令官という階層が上層にあり、
正妻を持つが、ほとんど夫婦らしい会話もしない。
侍女の名前も、仕える司令官の名前によって変わる。
例えば、グレン司令官の侍女なら、オブグレンというように。
そして、側女として侍女が司令官の子どもを産む。
子どもを産めば、昇進もするし昇級の機会も与えられる。
でも、出産に失敗し続けた侍女の行く末は。。。

続編の「誓願」の後半では、10代の異父姉妹の侍女二人が
隣国カナダへ脱出する話があるのでまだ救われます。
「侍女の物語」は読んでいて、本当にいやな気分になった。

ディストピア小説として有名なのは
ジョージ・オーウェルの「1984」ですが、
これは高校生の頃だかに読んだけれど、
すっかり忘れてしまっており、再読しようと思っています。
ただ、本書2冊を読んだあとすぐには、ちょっと勘弁かな。

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侍女の物語
マーガレット・アトウッド 斉藤英治訳
早川書房 2020年

誓願
マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子訳
早川書房 2020年


2022年6月8日水曜日

読了メモ「容疑者Xの献身」東野圭吾




読了。

東野圭吾さんの作品を読むのは初めてでした。
テレビドラマでは、いろいろ見たことあるけれど。
本書はその代表作ですね。
福山雅治さん演じる物理学者の湯川 学が出てきますし。

話が出来すぎているといえば
もう小説なんで、それまでですけれど、
クライマックスに向かっての
たたみかけはさすがですね。

スタイルとしては、
最初から犯人がわかっているという
倒叙式ではあるんですが、
単に犯人を追い詰めていくだけじゃない
二重のストーリーがあるわけです。
まぁ、ミステリーでもあるし
有名な作品とはいえ、
この程度にしておきましょう。

ちなみに、テレビドラマでは
湯川氏の相方にあたる刑事は女性でしたが、
原作では、同じ大学の友人の男性刑事です。
柴咲コウさんとかは出てきませんのであしからず。

おかげさまで、東野圭吾さん以外の
ミステリー作家さんの本も
結構、積読になってます。

関東地方も梅雨に入ったみたいだし、
雨の日は外に出ないで
読み耽るようにしょうかなっと。

====================
容疑者Xの献身
東野圭吾
文藝春秋 2006年

※下記は、文庫本でのご案内です


2022年5月30日月曜日

読了メモ「野生の思考」クロード・レヴィ=ストロース



読了。

正直、難しかった。
レヴィ=ストロースを一度は読んでみたいと思っていたが、
たいした予備知識もなく、対抗馬のサルトルのことも
よく理解していないうちに、勢いだけで読むのは厳しかった。

レヴィ=ストロースと言えば、構造主義とよく言われ、
どんなものかと構えていたら、本書は、文化人類学や民俗学の本であった。
オーストラリア北部やソロモン諸島、ニューヘブリデス諸島にある
小さな島々の一つ一つの部族単位ごとの習慣や信仰、習癖などが
こと細かに検証されている。
タブーとされている食べ物や、婚姻にまつわる規定、
これらの掟を犯した場合の罪などは代表的な事例である。
罪を犯した者は、集団の中で食べられてしまうという部族もあるそうだ。
また、動物や植物を思考の象徴に置いた習慣の披瀝が面白い。
あらゆる動物が慣例の象徴であり、タブーの監視役であり、
一方、植物はいつも人間の味方であったりする。

日本はよく多神教といって、山や川、草木、住宅や家具、
あらゆるものに神様が宿っているという話を聞く。
本書に出てくる各部族もはたしてそうであった。
その多神教の考え方が、出生と死、部内の階級に影響しており、
その典型的な型として、インドでは職業カーストとして
民族を分離してしまうという抗えない事例にいきつく。

興味深い教えとして、未開民族は農耕や畜農に無頓着だ
という通念のもとになっているのは、
旅行者が訪れる幹線道路や都市のそばに住んでいて
伝統文化の破壊が最もひどい土地の人間のことを言うそうである。

たとえば、ある部族に自分の氏族神として誰に祈ればよいかと尋ねると
タイプライターや紙やトラックがよいと勧められたという。
それは我々がいつも御厄介になっているものだし、
自分達の先祖から受け継いだものだからではないだろうか。


そして最後の章では、徹底的にサルトルの考え方を批判して終わっている。
この章の意味するところは、サルトルの考えを
少しでも理解しないとわからない部分だ。
今度は、是非ともサルトルの実存主義を一読してみたくなった。

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野生の思考
クロード・レヴィ=ストロース
大橋保夫訳
みすず書房 2016年

2022年5月23日月曜日

読了メモ「アポロって本当に月に行ったの?」エム・ハーガ




読了。

時々、この話を耳にするけれど、
みなさんはどう思いますか。

思い起こせば、
「この一歩は一人の人間にとっては小さな一歩だが、
 人類にとっては偉大な一歩である」
とは、アポロ11号のアームストロング船長の言葉。
翌年の大阪万博での「月の石」の展示。
月着陸船や母船とのドッキングの映像。
そして、月面での活動の様子。
星条旗が立てられた写真もありましたね。

しかし、これらは本当のことなのか。
米国国民の20%は月面着陸を信じていないとか。
本書では、当時のさまざまな写真をもとに
月面での不可解な現象を指摘しています。
はためく星条旗、向きや大きさの違う影、
逆光なのに鮮明に写る飛行士や着陸船のパネル、
星一つ写っていない真っ暗な宇宙。
などなど、他にも言われてみれば。。。。
という写真や映像の解説があります。
もちろん、写真や映像はNASAが公表したものです。

また、アポロ計画の背景にあった
旧ソ連との関係についても触れています。
当時、宇宙開発においては、旧ソ連が優勢でした。
1961年に旧ソ連は人類初の有人宇宙飛行に成功し、
「地球は青かった」
というガガーリン少佐が残した言葉は有名です。

現在、無人ですが火星への探索が開始され、
日本も「はやぶさ1号」「2号」で、
太陽系の探索を始めています。

アポロが月面に着陸したのが50年前。
それを信じるも信じないのも読者が決めることと
都市伝説のようなことを著者は言っていますが、
宇宙への夢を持って生きようと締めくくっています。

ちなみに、著者のエム・ハーガは、
芳賀正光という日本人で
本書を英語で出版し、自身で日本語訳したものです。
さらに、著者は月に土地を持っているらしいです。

本書に結論はありません。

もう一度お尋ねします。
みなさんは、どう思いますか。

私は行ったと思います。

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アポロって本当に月に行ったの?
エム・ハーガ
芳賀正光訳
朝日新聞社 

※下記は文庫本でのご紹介です。


2022年5月15日日曜日

読了メモ「マクベス」シェイクスピア




以前の読了メモから、随分と間があいてしまいました。
これに懲りずにアップを続けられればと思います。


で、読了。

もちろん翻訳本ですが、
初めてシェイクスピアを読みました。

戯曲なので、小説のような地の説明文がありません。
宮殿の広場とか、人物が登場するや退場するとかその程度で
その他は全てセリフです。
ですから、それこそ宮殿の華やかな装飾や
荘厳な雰囲気、セリフに込められた感情や表情を、
自分の脳みそをフル稼働し想像して
頭の中にマクベスの舞台を作る必要があります。
戯曲を読む面白さかもしれません。

スコットランドの王位を巡る話であり、
大きな転換点は「魔女の予言」ですが
マクベスの心のあまりの変わり様、
なぜこんなにまでにマクベスを変えてしまい
惨劇を引き起こす事態にまでなったのかが
なかなか理解できなかった。
自分の頭の中の演出家が頼りなかったかな。

ストーリーはもちろん、
人物の発するセリフの一つ一つに趣と勢いがあって、
シェイクスピアの戯曲ならではの
雰囲気を味わえた気分になれたのはよかった。

でもやっぱり、ゴリゴリに演出の効いた
舞台劇を観賞してみたいと
最後は思ったのでした。

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マクベス
シェイクスピア
安西徹雄訳
光文社 2020年

2022年4月25日月曜日

読了メモ「悲鳴をあげる身体」鷲田清一




読了。

体が軋む音をあげるほど痛いとかそういう話ではありません。
たしかにフィジカルな影響は出てくるのかもしれませんが、
社会的、精神的な側面からの要請やストレス対して、
身体とは誰のもので、どう扱われるのか。
果ては命とはという倫理的、哲学的なお話です。

まず、身体は誰のものなのか。
もちろん、自分のものとは言えますが、
現代ではもはや自分の所有物と豪語する身体を
自分でコントロールすることはできなくなっている。
何か調子がおかしいと思えば医者に行き、その処置に身を委ね、
いくつもの薬を処方され、手術台でメスを入れられることもある。
そんな状態になったのは、身体を管理することを怠るからだ
という自分の身体を客観視する観念も一方にはある。
もっと言うと臓器移植にあたっては、自分の臓器が他人の身体の一部になる。
他人の身体の中にある臓器は誰のものなのなのだろうか。
となると、そもそも「私」って何?
という根源的な問いに突き当たってくる。

では、自分の身体を感じる時とは。
人から見られている時、
介護を受けている時、
母親から見られていることを感じる時。。。。
誰の前での私の命なのか。
私の身体は完全に自分の所有物として自由であるのか。

そして「私」が、私でなくなる臨界とは。
それは死であるが、私の身体が死体になった時、
脳死の状態を私の死とする時、
身体の他の部位はどうなるのか。
私の人称は消滅し、非人称になるというのか。

こう考えてくると、身体って誰のものなのかが
うすぼんやりとしてくるように感じる。
少なくとも、自分の意のままになるものではない。
というのは確かなようだ。

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悲鳴をあげる身体
鷲田清一
PHP研究所 2021年


2022年4月8日金曜日

読了メモ「コンビニ人間」村田沙耶香



読了。

2016年第155回の芥川賞受賞作。
読まれた方も多いのでは。

タイトルから、コンビニみたいな便利な人間が引き起こす
コミカルな話かなと勝手に思っていたら全く違った。
とても不器用な人たちの話であった。

コンビニの制服を着たAI アンドロイドみたいな人たち。
研修や実習を重ねながら、人間らしく振る舞うようになり、
同僚やお客さんの素振りに感情を揺さぶられたりする。
しかし、一般の会社ではダメなんだと。
主人公はコンビニのアルバイト店員でないと働けないという。
店舗周辺を調査し、マーケットニーズを敏感に把握し
お弁当や軽食の発注量に気を配ったり、
値札や商品の向きを揃えたり、
コンビニの仕事に正面から向き合っている。
世界の歯車になって動いていると実感している。

一方で、コンビニのアルバイト店員をクビになる青年もいる。
一人で世間や体制を批判し、真摯な姿勢が仕事に見えない。
目の前の主人公に毒づきながら、いつのまにか
主人公の家に隠れるようにして生活する逃避者。

主人公はもし自分がクビになっても、
すぐに人員は補充され、お店はまわっていくと
自分の人生に思い馳せる。
でも、やっぱり自分はコンビニ店員じゃないと
やっていけないことに気づく。

これって、一般の会社に勤めている自分もそうで
自分がいなくても、別に会社がどうこうなるわけでもない。
ちゃんと会社は動き続けていくんですよね。

自分が精一杯、活き活きできる時間や空間ってなんだろう。
そんなことを思う一冊でした。

====================
コンビニ人間
村田沙耶香
文藝春秋 2016年

※下記は文庫版でのご案内です。


2022年4月2日土曜日

読了メモ「鏡のなかの鏡 迷宮」ミヒャエル・エンデ



読了。

著者は、あの「モモ」や
映画にもなった「はてしない物語(The Never Ending Story)」の
ミヒャエル・エンデ。

30編にも渡るファンタジー短編集。
特徴的なのは、それぞれのお話にはタイトルがない。
目次には、冒頭一行の文言が書かれている。

一つ一つを読みすすめて感じるのは
すべての話がどこかで繋がっているような気がしてならない。
教室、舞台、絵画、砂漠、暗闇のような空間と
それを隔てた、こちら側と向こう側で
登場人物たちが会話を交わしていくのだが
物別れになったり、きちんと理解しあう前に
終わってしまう話が多い。

子ども向けの童話なのであろうが、
なかなか奥が深い。たとえば。。。

 一生懸命、セリフや立ち回りを本番舞台の上で思い巡らしているのに
 上がるはずの幕がいつまでたっても上がらない。
 誰かに声をかけた方がいいのか。幕はただ左右に揺れているだけ。


 世界は断片からなりたっているが、
 断片はどんどん壊れ続け、お互いをつなぐものが少なくなっている。
 あらゆるものを結びつける言葉を見つけなければならない。
 その言葉が見つかることを信じれば、時事刻々と世界は変化し
 自分たちはその証人になれる。


 「落ちることを学べ!」
 「おまえは自由になるのだ。」
 「さもなければ、おまえはもはや存在しなくなるだろう。」


断片的に紹介してしまったが
なにか考えさせられるお話ばかり。
ゆっくりと時間をかけて読みたい一冊である。


=====================
鏡なかの鏡 迷宮
ミヒャエル・エンデ
丘沢静也訳
岩波書店 1986年


※下記は文庫本でのご紹介です。


2022年3月20日日曜日

読了メモ「時間とはなんだろう 最新物理学でさぐる「時」の正体」松浦 壮



読了。

とんと縁がなかった物理学の本を読んでみました。
Time is Money.ではないですよ。大喜利じゃないんだから。

結論からいうと、私たちが期待するような
正確な答えが書かれているわけではありません。

自分自身の感覚からすると、地球の公転と自転を組み合わせて
細分化していったのが時間なのかなと漠然と思ってました。

でも、1秒というのは、ちゃんとした定義があるようです。

 「セシウム133原子の基底状態のふたつの超微細構造順位の間の
  遷移に対応する放射の周期の91億9,263万1,770倍」(p20)

なんだそうです。なんのこっちゃですが。

昔から、太陽や月の影で時間を測ったりするだけでなく
ある特定の人が毎日出かけるのをみて何時かを知ったり
腹時計でも時間があらかたわかりますね。

ここで著者は、我々はモノが動いていることを捉えているだけであって
時間そのものをとらえているわけではないということを示しています。
なるほど。つまり、

 「物体の存在とは無関係に「時間」が存在していて、
  物体の運動はその時間に沿って起こる」(p30)

というわけです。

ここから、お話は、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイと
万有引力の法則を導いたアイザック・ニュートンの話につながり
例えば、乗っている電車が動いているのか景色の方が動いているのかなど
相対的に運動をとらえる我々の感覚についての考察が続きます。
そして、私見としながらこう述べています。

 「(私たちは、)メモリーに蓄えられた情報量の一方的な増加を
  時間経過と判定しているのではないか」(p74)


そして、二十世紀に新たな時間の姿を示したのが
アルバート・アインシュタインでした。
なにしろ、動くと時間の流れがゆっくりになるという
衝撃的な事実を示してしまったからです。
逆を言えば、

 「物体は何もしなければ時空の最短ルートを進む」(p133)

ということになりますが
物体には外からさまざまな力が働き
時空が歪むことになります。
では、私たちの周りにはどんな「力」があるのか。
それは、重力と電気・磁気の力であり、これは
原子や電子の特性に由来する力も含まれます。

話は、この先、光子力、量子力学まで及ぶのですが、
私たちが感じている「時間」とは、
空間、物質、あらゆる力、果ては宇宙をも含む
巨大な構造の一部を構成しているようです。

とても、ぼんくらな小生のブログではまとめられないので
ここらあたりでやめておきます。
詳しくは本書で。

======================
時間とはなんだろう 最新物理学でさぐる「時」の正体
松浦 壮
講談社 2019年

2022年3月9日水曜日

読了メモ「アルケミスト 夢を旅した少年」パウロ・コエーリョ




読了。

著者は、ブラジルの作家。
一方、物語は、スペインのアンダルシア地方から、
エジプトはギザのピラミッドにまたがる
夢見る少年の冒険譚です。

少年の名前はサンチャゴといい、羊飼いを生業としています。
放牧をしながら旅していくことを夢みており、
父親からわずかのお金と羊を元手に旅立ちます。

途中、占い師に会って、エジプト行きを勧められ
セイラムという国の年老いた王様と出会い
自分の運命に気付きます。
エジプトのピラミッドの宝物を目指せというのです。

しかし、エジプトに行くには、広大なサハラ砂漠を
横断しなければなりません。
そのためには、お金が必要です。
途中、騙されて一文なしになったりしますが
それでもサンチャゴは、クリスタルガラスのお店で
一生懸命働き、お金を貯めて、あらためて出発します。

サハラ砂漠を渡るキャラバンのメンバーになり、
進む途中で大きなオアシスにたどり着きます。
そこで、運命的な女性と巡り合い、
また、ここから先の苦難の旅を共にする
勇猛果敢な錬金術師と出逢います。

風と砂と太陽を味方につけて
最後はピラミッドにたどり着くのですが
果たしてサンチャゴは宝物を見つけることができたのか。

少年の冒険物語ですが、人生は過去も未来もなく、
今この時を精一杯生きることの大切さを教えてくれて、
必ずその中に、「前兆」がある。
その前兆を見逃さないようにすれば、
自ずと人生は開けていくというのです。
錬金術師は、鉛から金を創り出すだけでなく、
以前の人生より、更に良くなることを目指し、
常に今の自分より良いものになろうと努力すれば
周りもよくなっていくという話であったり。
そして、夢を追求している時は決して傷つかない。
追求の一瞬一瞬が神との出会いであり
永遠との出会いであるから自信を持てと。
などなど勇気づけられるメッセージが
ふんだんに盛り込まれています。

本文は、文庫本でわずか196ページと薄いですが、
学ぶべき人生の知恵、夢を追い求める勇気、
今を生きることの大切さを読んで感じ取ることができます。

ちょっと時間があいていたら
サンチャゴと一緒に夢見る冒険に出てみてください。

===================
アルケミスト 夢を旅した少年
パウロ・コエーリョ
山川絋矢/山川亜希子 訳
角川書店 2010年

2022年2月28日月曜日

読了メモ「象は鼻が長い 日本文法入門」三上 章



読了。

以前も日本語文法の本を読んだことがありましたが、
これはなかなか面白かった。
こんな議論があるんだということとともに
日本語の難しさを痛感してしまう。
ちなみに、本書の初版は1960年です。

本書のタイトルにもなっている

「象は鼻が長い」

主語はなんだと思いますか。。。。
実は、この問いかけ自体が間違っていると本書は指摘しています。

中学校の英語の授業を思い出すと
主語はSubjectのS、述語はVerbのV、目的語はObjectのO
と習って、SVO構文とか、SVOC、SVOOとか習いました。
実は、日本語の文法も当初はこの英語の文法に当てはめていたようなんです。

ところが、この括りでは説明ができない文章がでてきてしまった。
それが、象は鼻が長い。です。

細かいところは本書に譲りますが、
日本語において、〜〜は、の「は」は、
非常に強力な力を持っているということのようです。
〜〜の、を代行する 〜〜は、の用例はかなりたくさんあります。
一方で、〜〜が〜〜が、とダブってしまうのは日本語として落ち着きません。
〜〜は、に、〜〜が、〜〜の、〜〜に、〜〜をの代行を認めているというのです。
混み入っている文章でも、〜〜は、を用いることで
すっきりとした文章になったりする事例もあります。

本書では、日本語の 〜〜は、には主述関係は成立しないということが説かれ、
主語という言葉の使用までを否定しています。

ちなみに、日本語には主語がないとか省略されているとかよく聞きますが
それと本書の文法論とは全く違う話です。

少々、論理的になる本ですが、日本語の奥深さを知ることができますので
ご興味のあるかたは、お手にとってみてください。

====================
象は鼻が長い
三上 章
くろしお出版 2011年

2022年2月18日金曜日

読了メモ「菊と刀」ルース・ベネディクト



読了。

といいつつ、だいぶ間が空いてしまって、
もう2月も後半です。今年も時の経つのは早そうです。

そんな久しぶりのメモは「菊と刀」
菊は天皇制を、刀は武士道を表していると解釈しています。

著者のベネディクトは、米国の文化人類学者で
太平洋戦争も末期に、情報局から
日本人の国民性、精神、思考、習性、慣習などの調査を命じられます。
なぜなら、米国人には日本人が全く理解できない民族だったから。

時はまだまだ戦時中。
とても日本人にヒアリングできる状況ではありません。
そこで、どんな手法をとったかというと、
日系2世や、かつて日本に住んでいたことのある
米国人に話を聞いてまとめ上げたのが、
本書の原稿となった「日本人の行動パターン」です。

これが、すごい。
見事に日本人のものの考え方、思考の仕組みを掘り出し、
日本が日本人の国であることを論じています。

例えば、

 空襲にさらされたからといって、
 日本人の力が衰えることはない。
 「なぜなら、日本人は心構えができているから」(p54)

つまり、

 「守勢に立たされているのではなく、
  積極的に敵をわが方に引っ張り込んでいると
  考えるべきである。」(p55)

背筋が凍るような発想ではないだろうか。

またこうもあった。

 B29爆撃機や戦闘機の、たとえば防弾鋼板のような安全装置ですら、
 「臆病風に吹かれている」と、日本人の罵声を浴びた。
 〜中略〜 生死にかかわる危険に身をゆだねてこそ潔い。(p68)

狂っているとしか言いようがない。

戦時中のことなので、百歩譲ったとしても
これら以外にも、日本人の日常生活における精神感などについて
見事にレポートしている。
例えば、「義理」。義務ではなく、義理である。
義理は、逃れようのない返済のしきたりで、
正義感を犠牲にし、守護者への謀反をせざるをえない場合もある。
義理に迫られてとか、義理を立てるために精一杯尽力するなどは
現在の我々の心情の深いところにも根ざしているのではないだろうか。

死んだと思って頑張る。や、
恥を排除することを目的として修練を積むなど
他にも極めて日本人的な言動について、鋭い考察がまとめられている。

外国人からみた日本人の姿。
時代こそ違うが、日本人は一読をして欲しい一冊です。

==================
菊と刀
ルース・ベネディクト 角田安正 訳
光文社 2013年



2022年1月28日金曜日

読了本 2021年


1月も末の今さらではございますが
2021年に読了しました本を一覧に、
また、ブログに貼り付けた表紙の写真を
スライドショーにしました。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが
先日アップした「逃亡者」が、2021年の最後に読了した本なのでした。
なんか、ブログを書く筆が遅くなってしまったと反省しきりです。

2022年も昨年以上に読み進めてまいりたいと思います

では、どぞ。



さよなら、ニッポン
高橋源一郎
読了日:2021年1月2日

エジソン ネズミの海底大冒険
トーベン・クールマン
読了日:2021年1月4日

パイドロス
プラトン
読了日:2021年1月4日

スプートニクの恋人
村上春樹
読了日:2021年1月13日

大人のための残酷童話
倉橋由美子
読了日:2021年1月20日

会社の人事 中桐雅夫詩集
中桐雅夫
読了日:2021年1月20日

随想―2011
日本経済新聞社編
読了日:2021年1月27日

キャラ立ち民俗学
みうらじゅん
読了日:2021年1月30日

開口閉口(1)
開高健
読了日:2021年2月5日

“私”はなぜカウンセリングを受けたのか 「いい人、やめた!」母と娘の挑戦
東ちづる
読了日:2021年2月11日

坊っちゃん
夏目漱石
読了日:2021年2月15日

上を向いて話そう
桝井論平
読了日:2021年2月21日

隠された悲鳴
ユニティ・ダウ
読了日:2021年2月24日

死体の解釈学 埋葬に脅える都市空間
原 克
読了日:2021年3月1日

種の起源(上)
チャールズ・ダーウィン
読了日:2021年3月14日

種の起源(下)
チャールズ・ダーウィン
読了日:2021年3月14日

ステラと未来
種田陽平
読了日:2021年3月17日

洋食屋から歩いて5分
片岡義男
読了日:2021年3月22日

水の巡礼
田口ランディ
読了日:2021年3月30日

金田一耕助探偵小説選(第5)本陣殺人事件
横溝正史
読了日:2021年4月1日

ドグラ・マグラ
夢野久作
読了日:2021年4月13日

たんぽぽ娘
ロバート・F・ヤング
読了日:2021年4月24日

天体議会(プラネット・ブルー)
長野まゆみ
読了日:2021年4月29日

知的な距離感
前田知洋
読了日:2021年5月4日

JR上野駅公園口
柳美里
読了日:2021年5月11日

人新世の「資本論」
斎藤幸平
読了日:2021年5月20日

若きウェルテルの悩み
ゲーテ
読了日:2021年5月31日

蚕の城 明治近代産業の核
馬場明子
読了日:2021年6月7日

東京奇譚集
村上春樹
読了日:2021年6月10日

ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか 新美南吉の小さな世界
畑中章宏
読了日:2021年6月15日

ハトはなぜ首を振って歩くのか
藤田祐樹
読了日:2021年6月18日

わたしはこうして執事になった
ロジーナ・ハリソン
読了日:2021年6月27日

スター・ウォーズ ジェダイの哲学 フォースの導きで運命を全うせよ
ジャン=クー・ヤーガ
読了日:2021年7月6日

罪と罰(1)
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
読了日:2021年7月14日

罪と罰(2)
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
読了日:2021年7月19日

罪と罰(3)
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
読了日:2021年7月26日

日本のいちばん長い日 決定版
半藤一利
読了日:2021年8月2日

ダイナソー・ブルース 恐竜絶滅の謎と科学者たちの戦い
尾上哲治
読了日:2021年8月8日

リトル・ピープル:ピクシー、ブラウニー、精霊たちとその他の妖精
ポール・ジョンソン
読了日:2021年8月9日

ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた
青山 通
読了日:2021年8月10日

あひる
今村夏子
読了日:2021年8月11日

夢先案内猫
レオノール・フィニ
読了日:2021年8月13日

変身
フランツ・カフカ
読了日:2021年8月15日

利己的な遺伝子 40周年記念版
リチャード・ドーキンス
読了日:2021年8月26日

人形の家
イプセン
読了日:2021年8月27日

フランケンシュタイン
メアリー・シェリー
読了日:2021年8月31日

批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義
廣野由美子
読了日:2021年9月3日

希望が死んだ夜に
天祢 涼
読了日:2021年9月5日

僕のトルネード戦記
野茂英雄
読了日:2021年9月8日

縦横無尽の文章レッスン
村田喜代子
読了日:2021年9月9日

妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方
暦本純一
読了日:2021年9月17日

すべて真夜中の恋人たち
川上未映子
読了日:2021年9月21日

国家(上)
プラトン
読了日:2021年9月28日

国家(下)
プラトン
読了日:2021年10月6日

海と毒薬
遠藤周作
読了日:2021年10月11日

文鳥・夢十夜
夏目漱石
読了日:2021年10月25日

漱石文明論集
夏目漱石
読了日:2021年11月4日

「原因」と「結果」の法則
ジェームズ・アレン
読了日:2021年11月14日

カラスの親指
道尾秀介
読了日:2021年11月19日

図鑑少年
大竹昭子
読了日:2021年11月23日

堕落論
坂口安吾
読了日:2021年12月4日

逃亡者
中村文則
読了日:2021年12月30日

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2022年1月26日水曜日

読了メモ「逃亡者」中村文則




読了。

非常に情報量が多く、時間軸も前後に揺さぶられる、
密度の濃く難しい小説だった。
話の中心となるのは、太平洋戦争中に
日本の軍楽隊で使われ、”神の楽器”と言わしめたトランペット。
そして、そのトランペット吹きの鈴木という軍楽兵士。
このトランペットをジャーナリストの主人公が手にするのだが、
話はトランペットの経緯にとどまらない。

幕末の隠れキリシタン弾圧による市民への圧制。
広島、長崎の原爆投下、特に長崎の浦上天主堂と
そこのマリア像を隠すアメリカ。
日本の降伏を決定づけたのはその原爆ではなく
ソ連が満州に進駐したこと。
フィリピンでの日本人慰安婦が紙屑同然の軍票を抱えて
川の中で溺れ沈んでいく姿。
ベトナムで出会う愛する女性が、
ヘイトスピーチのデモの中で不慮の事故で死亡。
そのベトナムも終戦後は再び、フランスの進駐を受け
再び戦火が広がる事態に陥る。

いずれも罪のない市民が尊い犠牲を強いられる話がつながっていく。
トランペット吹きの鈴木兵士の手記があり、これも心が痛む。
戦場の兵士を鼓舞するための演奏、
天皇陛下を崇めるための演奏、
現地の住民を慰めるための楽曲も演奏するという。
時には銃弾が飛び交う中でも吹いたという。

もともとは、このトランペットの所有権を巡って、
鈴木兵士の遺族が名乗り出るところから話が
始まっていくのだが、最後は寂しい病室で話は結末を迎える。

途中にあった、下記に大衆市民についてのくだりが心に刺さる。

 君達は、このまま敗北し続けていくだろう。
 人権や多様性と言いながら、敗北していくだろう。
 黒人達のために立ち上がった、キング牧師の言葉を知ってるだろう?
 『最大の悲劇は、悪人達の圧制や残酷さではなく、
  善人達の沈黙である』・・・・・
 君たちは善人達の沈黙に負けるだろう。
 〜中略〜 大衆を愛することができるか?」(p450)

日本とは何だろう? という問いが頭の中を巡る。
設定が複雑なので、好みの分かれる小説ですが
ご興味のある方はぜひ。

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逃亡者
中村文則
幻冬舎 2020年



2022年1月21日金曜日

読了メモ「堕落論」坂口安吾




読了。

昔、読みかけて放っておいた記憶がある。
是非とも読んでおきたいと思っていた。

角川文庫の本書は、堕落論の他に12の論文が収録されている。
論文というより、エッセイと解説されている。

堕落論は、太平洋戦争が終わって、
世間の風潮が大きく変わっていく様を追っていく。
まずは、天皇崇拝、靖国崇拝に対する持論の展開と
一方で、他の事柄については馬鹿げたことをやっていて
それに全く気づかない日本人の愚かさを嘆いている。
終戦直後の日本人は虚脱し放心しているとアメリカ人は言ったそうだが、
本論には、世情がはっきりと語られている。

 笑っているのは、常に十五六、十六七の娘達であった。
 彼女達の笑顔は爽やかだった。〜中略〜
 この年頃の娘達は未来の夢でいっぱいで
 現実などは苦にならないのであろうか。(p115)

終戦後の日本人の精神の変化を、
忠臣蔵の四十七士や武士道を批判的に引き合いに出しながら
論じているのは、痛快でもある。
そして、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要と説き、
それによって、自分自身を発見し、救わなければならないという。
政治による救いなどは上皮だけの愚にもつかない物だと。

これに続く、続堕落論でも
戦中の耐乏、忍苦の精神を否定し
 
 義理人情というニセの着物をぬぎさり、
 赤裸々な心になろう、
 この赤裸々な姿を突きとめ見つめることが
 先ず人間の復活の第一条件だ。(p126)

当時ばかりでなく、今でも通ずる筋を感じてしまう。

こんな話以外にも、太宰治の自殺を扱うマスコミを
手に取る話など、なかなかに面白い話がもりだくさんである。
文化論、文学論、青春論、悪妻論などいろいろ楽しめる。

タイトルに惑わされずに、一読をお勧めしたい。

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堕落論
坂口安吾
KADOKAWA 2016年



2022年1月13日木曜日

読了メモ「図鑑少年」大竹昭子




読了。

二十四篇からなるショートストーリー&エッセイ集。
どれも、都市や街並み、近所の住人や
すれ違う人たちとの出会いや交流を描いている。

のだけれど、どれも切なく寂しくて、儚いイメージを抱くお話ばかり。
本書の途中途中に挟み込まれているモノクロの写真をみると
よけいにそんな気が増してきてしまう。

タイトルにもなっている「図鑑少年」というお話は、
館外貸出のできない図書館で調べ物をしていて
鉛筆同士がコツンとぶつかり合った音から思い出した子どもの頃の話。
小学生の頃、ツジ君という男の子がいて
その子の家に遊びに行ったことがあった。
洋間で待たされていると、植物、動物、昆虫、魚、鉄道、星座。。。
膨大な図鑑を自慢げに持ってきて見せてくれた。
仲の良い友だちだったが、いつのまにか疎遠となる。
二十年以上経った時、ツジ君が心臓発作で他界したことを知る。
焼香に行き、ツジ君の遺影を見るが
子どもの頃の顔をなかなか思い出せない。
洋間を見渡すと見覚えのある箱があり
中には短い鉛筆が入っていた。
箱を振った時の音が、
小さな骨のぶつかり合う音に聞こえてしかたがなかった。

こんなお話でした。

他には、どこにもない「五十円公園」を探す話や
カラスが多くて、放たれたミドリガメがいる池のある公園近くの自宅で、
門の柵につかまり立ちする飼いウサギを色々な人間が愛ていく「散歩者」。
などなど。

不思議でミステリアスな話が多かったけれど、
読んでいると、変に落ち着く感じのするお話ばかりでした。

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図鑑少年
大竹昭子
小学館 1999年

※下記は文庫本でのご案内です。


2022年1月10日月曜日

読了メモ「カラスの親指」道尾秀介




読了。

ミステリー小説であります。
最近、積読の中にミステリーやSF系が増えてきて
いわゆるエンタメ小説もこれから読もうかなと
いつだったか書いた記憶が。。。

主人公は詐欺師のオヤヂ二人組。
それにスリの姉妹とその彼氏が絡んできます。
ヤミ金相手に、しかけていくんですが、
これがね、全部が全部伏線なんですよね。
最後の最後で、えっ、そうなの?!って。
すべてが繋がって、目の前が開ける感じがします。
見事に騙されましたw

読後感もすっきりだし、ミステリーとはいいつつ
途中の文章も軽快でありつつ、緻密に組まれているし。
やったじゃんと思った次のどんでん返し。
ちょっとホロっときちゃう結末もいいですよ。

あらすじ書くのは野暮なので
内容は是非、読んでお確かめください。

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カラスの親指
道尾秀介
講談社 2009年

※下記は文庫本でのご案内です。


2022年1月5日水曜日

読了メモ「『原因』と『結果』の法則」ジェームズ・アレン




読了。

2022年最初の読了メモは、自己啓発書です。
自分はあまり自己啓発書は読まない方なのですが
以前、ある先生に勧められて手元においていたものです。
原題は、"AS A MAN THINKETH" です。

本書は1902年に書かれたもので、
一世紀以上にわたるロングセラーの自己啓発本だそうです。
聖書につぐベストセラーとも。本当かな。

読んでいくとわかるのですが、
自信に満ち溢れた書き方で、
人間はこうだ!という言い回しで、ものすごい勢いで迫ってきます。
まぁ、そうじゃないと啓発本なんて書けないですよね。

 私たち人間は、私たちを存在させている法則でもある
 「原因と結果の法則」にしたがい、つねにいるべき場所にいます。
  〜中略〜 
 よって、人生には、偶然という要素はまったく存在しません。
 私たちの人生を構成しているあらゆる要素が、
 けっして誤ることを知らない法則が正確に機能した結果なのです。
 環境に不満を感じていようと、満足していようと、同じことです。(p22)

偶然を真っ向から全否定しているのが本書の肝で、
ここまで断定されてしまうと怖いくらいで
なんか身動きまでとれないような気にもなってしまいます。

後半は、人生の目標に向かう勢いが増していきます。

 人間を目標に向かわせるパワーは、
 「自分はそれを達成できる」
 という信念から生まれます。
 疑いや恐れは、
 その信念にとって最大の敵です。(p52)

もうここまでくると暗示にかかるしかありません。

その他にも、大きな目標が発見できない人は、
目の前にある やるべきことに集中すれば
自己コントロール能力が磨かれるとか、
大きな達成を手にしたとたんに警戒を怠ると落伍者に陥るとか、
次々とたたみかけてきます。

そして最後には、理想を抱くこと、ビジョンをしっかり胸に抱き、
心穏やかにいることが大切だと結んでいます。

ページ数は100頁にも満たない本書です。
熱い問いかけには勇気をもらえます。

新年の一冊目にいかがでしょうか。

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「原因」と「結果」の法則
ジェームズ・アレン 坂本貢一訳
サンマーク出版 2003年