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2024年8月4日日曜日

読了メモ「ゾロアスター教 三五〇〇年の歴史」 メアリー・ボイス 著 山本由美子 訳


読了。


神が人間に下したとされる天啓・神託に基づく宗教としては、

世界最古と言われるゾロアスター教。

イランが石器時代から青銅器時代に移行した時代に、

イラン人のゾロアスターが説いたと言われる。

創造主である至高神、それと対立する悪、世界創造の目的と終末論、

救世主信仰、天国と地獄、死後の運命を決める裁判、

死者のよみがえりと最後の審判、邪悪の消滅、

そして正しい者は神の前で永遠に魂も肉体も不死となり幸せとなる。

これらの考え方は、のちのキリスト教、イスラム教、仏教に大きな影響を与えた。


イランからインドにおよぶ近東と呼ばれる地域では、

もともと聖像の形で神や女神を崇拝する慣習があり、

時の権力者や帝国はその統治のために偶像崇拝の寺院を建立した。

しかし、ゾロアスター教徒は、寺院を建立しても

祭壇に彫像を置く代わりに聖所に火をおいたという。

火は闇や寒さをしのぐだけでなく、悪や無知にも戦うとみなされ、

勇気と希望、勝利にささげられた。

これらを背景にゾロアスター教を「拝火教」とも呼ぶようだ。

イスラムの偶像崇拝の否定は有名だが、

そのもとを辿るとゾロアスター教にあるようだ。


また、ゾロアスター教の下での葬送儀礼は風葬とされている。

ゾロアスター教では、神々は世界を

天空、水、大地、木、動物、人間、火の七つに分けて創造したと言われる。

火でさえも穢れたものを焼くことは許されず、

大地も穢されてはならず土中への埋葬は禁忌だった。

これらから、ゾロアスター教では風葬の儀礼があったという。

死体は荒野に放置され、魂は陽光の道を通って天空に昇り、

腐肉は禿鷹や獣によって食われ、残った骨だけが埋められたという。


自分がゾロアスター教の名称を目にしたのは、

高校の世界史の授業で、それ以上のことは何も知らなかった。

本書を通じてイラン・インド地域の長い歴史に

ゾロアスター教が深く関わっていること、

また世界におよぼした影響の大きさに驚く。

ただ、イラン・インド地域の歴史は非常に複雑で、

他民族も流入したほか、権力者の名前も似通っていたりで、

読み進めるのは困難ではあった。


現在、ゾロアスター教徒の多くはインドにあり、

世界各地に散らばっているが、生活の中での祭儀儀式の役割、

信仰や教育のあり方、族外婚配偶者や子孫の信徒としての受け入れなどの問題があり、

なかでも喫緊の問題は祭司の数の減少をくいとめることだと言われている。



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 メアリー・ボイス 著 山本由美子 訳
 講談社 2010年

2024年4月8日月曜日

読了メモ「増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上・下」 ジョン・ダワー



読了。

久しぶりに読み応えのある歴史ものだった。

敗戦後のGHQ占領下における
日本の政治・社会・文化・経済などを浮き彫りにしたノンフィクション。
サンフランシスコ講和条約で、米国の占領は一応の終わりを告げるが
本書は1989年の昭和天皇崩御まで話をひっぱる。

庶民レベルから政治家/官僚、そして天皇にいたるまで
アメリカ人が、ここまで日本人の思考・行動のありさまを
解き明かしたことにまずは驚く。
ルース・ベネディクトの「菊と刀」の読了以来の感嘆だった。
具体的な統計データ提示はもちろん、
各種資料やインタビュー、報道の内容を通して、
当時の日本人の言動や考え方を見事に抜き出している。
また、マッカーサーが天皇制を重要視し、
最終的に戦争責任を問わせなかったかがよくわかる。
アメリカはここまで日本のことを研究調査していたのかと。
一方で、東京裁判に代表される戦争犯罪の裁判では
「戦勝国の裁き」と「敗戦国の裁き」と題して
両サイドからの戦争責任の検証を行なっているのも注目される。

上巻は、敗戦直後の絶望の底から這い上がり、
食べるため生きるための死に物狂いの庶民の生活や、
パンパン/闇市/カストリと言われた集団の動きから
坂口安吾や太宰治に代表される旧式な価値観への文化的挑戦、
アメリカ文化への憧憬と軋轢などが綴られ、
下巻は、天皇制保持を貫いたGHQの真意や
武力の完全放棄を謳う日本国憲法制定への日米双方の動き、
GHQ検閲下での民主主義の醸成、
そして国民の関心が薄れてしまった東京裁判などが記されている。

おりしも、オッペンハイマー博士の映画を鑑賞し

テレビで下山事件の特集番組を観たが

本書の時代背景と共通する大きなうねりがあると感じた。

それは一体なんだろうか。。。


なお、本書の原題は下記の通りで

米国でも数々の賞を受賞したノンフィクションなのでした。


EMBRACING  DEFEAT

Japan in the Wake of World War II

by John W. Dower


以下はAmazonへのリンクです。

増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上
ジョン・ダワー
三浦陽一/高杉忠明 訳
岩波書店 2004年

増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 下
ジョン・ダワー
三浦陽一/高杉忠明/田代泰子 訳
岩波書店 2004年

2021年8月11日水曜日

読了メモ「日本のいちばん長い日 決定版」 半藤一利



読了。

1945年8月6日に広島、8月9日に長崎へ原爆が投下された。
そして8月15日に終戦をむかえる。
本書は、8月15日正午の天皇陛下の国民に向けた
ポツダム宣言受諾通告放送までの
二十四時間を追い続けたノンフィクション。
1967年には映画になり、2015年にはリメイクもされている。
自分は映画を二作とも観ていたが、原作は今回初めて読んだ。
ちなみに、陸相役は、一作目は三船敏郎、リメイク版は役所広司が演じていた。

日本近現代史については、著者の半藤一利さんの作品が
とても判りやすく読んでいて面白いと思っている。
鬼気迫る状況に迫真するかと思うと、
柔らかい描写で読者にやさしく説いてくれる。
本書では、特に脚注の部分にそれがある。
半藤さんの「昭和史」(平凡社)などもお勧めしたい。

本書の構成は、前日の8月14日火曜日の正午から
一時間ごとに進んでいく形式。
まさに目の前の出来事のように没入して読み込んでしまった。
日本の敗戦は、もはや逃れようもない現実であること、
ポツダム宣言を受諾し無条件降伏しなければ、
更に国民を災禍に追いやること、
などは理解しながらも、これまで国民や多くの部下に
犠牲を強いてきた軍部、特に陸軍の反発は強く、
陸相の国体護持を思う気持ちは熱いほど伝わってくる。
しかし、もはやそれは過去のものなのだ。

皇居を守護すべき近衛部隊が、
籠城クーデターを蜂起するという青年将校の姿には
かつての二・二六事件を想起させるが
こちらもはじめから崩壊することは目に見えていた。

また、随所で天皇陛下自身が
国民や軍部士官に自らが直接語りかけることを望み、
反乱分子の前にさえも臨もうとする姿勢は
日本という国が大きく変わっていくんだという印象を抱く。


今でも、テレビなどで、8月15日正午の放送から
”堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ”
という天皇陛下の肉声を聞くことがあるが、
本書で、初めてその全文を目にすることもできた。

まさに歴史の転換点に接することができたと感動すら覚えた。
歴史書を読むことは、こういうダイナミズムに
接することができるから、人々を惹きつけるのだと思う。

そして、当たり前なことだが、
戦争は二度と繰り返してはならない。
これにつきることを改めて思う。

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日本のいちばん長い日 決定版
半藤一利
文藝春秋 2021年

2021年6月30日水曜日

読了メモ「蚕の城 明治近代産業の核」馬場明子



読了。

絹糸と言えば、日本の伝統的な産業の一つというイメージ。
富岡製糸場が世界遺産に登録されたのも記憶に新しいが
この産業の歴史を文字通り紐解いていくと
地道な努力の積み重ねで、
日本の絹産業が培われてきたことがわかる。
ポイントは、「顔」だ。

皆さんは、蚕を見たことがあるだろうか。
自分は小学生の頃、栃木にある親戚の家で
桑の葉を食べる蚕と繭の団地、繭から糸を紡ぎ出す作業を見たことがある。
蚕の成虫は、もちろん蛾だが、飛ぶこともできず、
お腹がぼてっと大きく動きも鈍い。

野生ではどうやって生きているのだろうと思っていたら
蚕は人間が作り出した品種で、いわゆる家畜だと。
豚の猪にあたる虫が、クワコという蛾で
もちろん細身で飛べるし、幼虫も木の枝に擬態するなど逞しい。
クワコは日本にも野生で生息しているが、
日本の蚕の祖先は中国産のクワコらしい。

良質の蚕を作り出すには、メンデルの遺伝の法則に基づき
掛け合わせを続けて、改良種を作りあげていく様が本書では綴られている。
その功労者となった外山亀太郎氏は、蚕の一匹一匹の幼虫の顔を見分けたという。
驚くべき観察眼だが、現在の東大の研究所でも
蚕の幼虫の顔の区別はできますよとあっさりと言われている。
蚕の区別は顔でするのが当たり前なのだ。

そのほんのちょっとした違いを見つけ出し、
良種を掛け合わせて品質の良い蚕を作り出し続けることで
日本の絹産業が成り立ったということだ。

ちなみに、外山亀太郎氏は、我が国最高の学術功労者に贈られる
帝国学士院賞を大正四年に受賞しており、
同年には、野口英世も受賞している。

野口英世は現在の千円札の顔だが、次はもう決まっているので
その次は、外山亀太郎氏でもよいかも。

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蚕の城 明治近代産業の核
馬場明子
未知谷 2015年



2020年7月14日火曜日

読了メモ「靖 国」坪内祐三



読了。

自分の好きなエッセイスト、評論家さんで、
これまでいろんな作品を読んできたが、
なんと本年一月に他界された。享年61歳。若すぎる。
大変、残念でしかたがない。本当に。
サブカルチャーものから文芸評論、社会評論まで
面白い本はたくさんあるのだけれど
代表作といえば、この本かなと思い手に取りました。

ただし、ここで、自分の浅はかさに気づくのでありました。
靖国神社といえば、閣僚の誰が参拝するのしないの
近隣諸国がそれに干渉するのとそんな話が
絡んでくる一冊なのかなと思っておりましたらさにあらず。
そんな話は一切でてきません。
純粋に、かつ坪内流の切り口で日本における靖国神社の有様をとりあげています。

靖国神社といえば戦没者の合祀ですが、
一番最初は戊辰戦争で亡くなった藩士の招魂式で
それがきっかけとなり例大祭が行われるようになったとか。

一方で鹿鳴館時代と重なる時期、靖国神社にもハイカラな風は押し寄せ
なんと競馬が執り行われたそうです。
靖国神社がその本来の姿を整えていくのは明治十年の西南戦争の後からだが
神聖な場所であるがこそ、そこには娯楽が必要と考えられ、
実際に競馬が開催され、のちには本格的な
アミューズメントパーク的な構想もあったそうです。

日清・日露の戦争の祝勝記念式典は、皇居前での盛大なお祭りとなったが
靖国神社には、二万九九六〇名の戦没者が合祀され、臨時大祭が挙行される。
境内には国光発揮のページェントが建てられ、
国民の意志は徐々に統一されていくことになる。

と、ここまでは近代化と戦争スペクタクルの
象徴的な世情と靖国神社の位置づけを描きながら、
東京に住む市井の人々の生活や暮らしに視点を移していくのも
坪内さんらしい展開だ。

靖国神社は丁度、東京の山の手と下町の境にあり、
下町から見上げる位置にお社を構える。
これは、人々の住む場所によって身分の違いがあり、
違いを乗り越えようとする生活もあることを示していた。
その後、大鳥居の前には国際主義的モダニズムとして
野々宮アパートという当時としては
超高級な高層住宅兼写真スタジオが建設されたという。
写真も掲載されているが、鳥居の前にある
突出した西欧風近代建築物に大きな違和感を感じてしまう。

さらに、話は、奉納相撲や力道山による奉納プロレスに展開していく。
ここも、日本人と外国人の力士やレスラーの
靖国神社での「興行」が大変深い意味をもって語られている。
その一例が、小錦の靖国神社での奉納土俵入りだ。
詳細は本書を是非読んでいただきたい。


実をいうと、自分はものごころがついてこのかた
靖国神社を訪れたことがない。
二歳くらいの時、親が連れていってくれたらしいが
当然ながら記憶に全くない。

巨大な鳥居や桜開花の標本木、大村益次郎像など
興味本位に惹かれるものはあるが、
坪内さんの本書をせっかく読んだのだから
機会を作って行ってみたいと思っている。

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靖 国
坪内祐三
新潮社 1999年

 



2020年5月24日日曜日

読了メモ「ユーミンの罪」酒井順子

本記事は、2015年、某キュレーションサイトに掲載したものに
加筆・修正を加えて再掲載したものです。




読了。

昔、歌をよく聴いていた女性歌手は?

という話題になる時がある。
アイドルだったら、キャンディーズ(ミキちゃん派!)とか
小泉今日子とかの名前が出てくる。
もっと遡ると南 沙織とかも好きだった。

でも、それなりに大人となって、
気づいたら、なにげに流れてたのは、
ユーミンだったことはあるよなぁと思うのです。

と、そんな話はどうでもよくて.....。


本書は「ひこうき雲(1973年)」から「DAWN PURPLE(1991年)」まで、
ユーミンの20枚のアルバムをピックアップ。
収録されている曲の歌詞を引用しながら、
聴いていた世代、著者らしく女性の視点での当時の思いや
時代背景について書かれています。

各章の扉には、アルバムの発売年に起きた事件や出来事が書いてあって、
へぇ〜あの時の曲なんだと気づいたり、
その時に自分が何歳だったかとかいろいろ連鎖的に思い浮かべたり。


なかには、ドキっとするコメントがありました。

「PEARL PIERCE(1982年)」の章で

  当時の男性はその歌の真意に気づかず、
  ただ流行のお洒落ソングとして聞き流していたかもしれない。


というところ。
実は、これと全く同じことを、実際に女性から聞いたことがあったりするんです。
怖い.....。


この本を読むのは、正直忙しいです。
なぜかというと、歌詞がたくさん出てくるのですが
活字だけだと、すぐにメロディを思い出せず、
イライラして、曲を再生して確認しながら
読みすすめることになるから。




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ユーミンの罪
酒井順子
講談社 2013年