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2020年7月14日火曜日

読了メモ「靖 国」坪内祐三



読了。

自分の好きなエッセイスト、評論家さんで、
これまでいろんな作品を読んできたが、
なんと本年一月に他界された。享年61歳。若すぎる。
大変、残念でしかたがない。本当に。
サブカルチャーものから文芸評論、社会評論まで
面白い本はたくさんあるのだけれど
代表作といえば、この本かなと思い手に取りました。

ただし、ここで、自分の浅はかさに気づくのでありました。
靖国神社といえば、閣僚の誰が参拝するのしないの
近隣諸国がそれに干渉するのとそんな話が
絡んでくる一冊なのかなと思っておりましたらさにあらず。
そんな話は一切でてきません。
純粋に、かつ坪内流の切り口で日本における靖国神社の有様をとりあげています。

靖国神社といえば戦没者の合祀ですが、
一番最初は戊辰戦争で亡くなった藩士の招魂式で
それがきっかけとなり例大祭が行われるようになったとか。

一方で鹿鳴館時代と重なる時期、靖国神社にもハイカラな風は押し寄せ
なんと競馬が執り行われたそうです。
靖国神社がその本来の姿を整えていくのは明治十年の西南戦争の後からだが
神聖な場所であるがこそ、そこには娯楽が必要と考えられ、
実際に競馬が開催され、のちには本格的な
アミューズメントパーク的な構想もあったそうです。

日清・日露の戦争の祝勝記念式典は、皇居前での盛大なお祭りとなったが
靖国神社には、二万九九六〇名の戦没者が合祀され、臨時大祭が挙行される。
境内には国光発揮のページェントが建てられ、
国民の意志は徐々に統一されていくことになる。

と、ここまでは近代化と戦争スペクタクルの
象徴的な世情と靖国神社の位置づけを描きながら、
東京に住む市井の人々の生活や暮らしに視点を移していくのも
坪内さんらしい展開だ。

靖国神社は丁度、東京の山の手と下町の境にあり、
下町から見上げる位置にお社を構える。
これは、人々の住む場所によって身分の違いがあり、
違いを乗り越えようとする生活もあることを示していた。
その後、大鳥居の前には国際主義的モダニズムとして
野々宮アパートという当時としては
超高級な高層住宅兼写真スタジオが建設されたという。
写真も掲載されているが、鳥居の前にある
突出した西欧風近代建築物に大きな違和感を感じてしまう。

さらに、話は、奉納相撲や力道山による奉納プロレスに展開していく。
ここも、日本人と外国人の力士やレスラーの
靖国神社での「興行」が大変深い意味をもって語られている。
その一例が、小錦の靖国神社での奉納土俵入りだ。
詳細は本書を是非読んでいただきたい。


実をいうと、自分はものごころがついてこのかた
靖国神社を訪れたことがない。
二歳くらいの時、親が連れていってくれたらしいが
当然ながら記憶に全くない。

巨大な鳥居や桜開花の標本木、大村益次郎像など
興味本位に惹かれるものはあるが、
坪内さんの本書をせっかく読んだのだから
機会を作って行ってみたいと思っている。

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靖 国
坪内祐三
新潮社 1999年

 



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