2024年は、こちらにもアップします。

2017年4月28日金曜日

読了メモ「乱歩 夜の夢こそまこと」石塚公昭



読了。

江戸川乱歩の誌上Trailer的な一冊。

 怪人二十面相
 黒蜥蜴
 D坂の殺人事件
 屋根裏の散歩者
 人間椅子
 押絵と旅する男
 目羅博士の不思議な犯罪
 盲獣
 白昼夢

これらの作品の一片が、おどろおどろしくも、
ちょっぴり覗いてみたくなるような面妖な写真とともに紹介。
どきどきする江戸川乱歩の世界を夢想する時間は楽しい。

ただ、これだけでは自分としてはちょいと物足りないので
雑誌「太陽」の1994年6月号No.396の江戸川乱歩特集を併せて読んだ。
荒俣 宏、種村季弘、久世光彦のほか、俳優の佐野史郎が
窃視症、コスチューム・プレイ、洋館、フェティシズムなどのテーマで
乱歩のことをいろいろな角度から解説している。
こちらもまた写真やイラスト、地図などの資料がふんだんでたまらない。

面白いのは二冊とも表紙の江戸川乱歩が拳銃を持っていること。
これは何かいわくがあるのだろうか。
丸いハゲ頭でメガネをかけた江戸川乱歩の飄々とした顔と
エログロなイメージとのマッチングが
なんとも言えない異次元的な空気を漂わせている。

紹介されている作品を全部が全部読めているわけではないが
押絵と旅する男 はぜひとも読みたくなった。探しておきたい。

子供の頃に夢中になって読んだ少年探偵団シリーズとは違う
大人の江戸川乱歩が楽しみなこの頃です。

====================
乱歩 夜の夢こそまこと
石塚公昭
パロル舎 2005年

2017年4月23日日曜日

読了メモ「太宰 治の辞書」 北村 薫



読了。

小説だったのですが、
文学評論と思えるほどマニアックな内容。
太宰 治にとどまらず、芥川龍之介、三島由紀夫、萩原朔太郎、
伊藤 整、江藤 淳や谷川俊太郎などの文豪や作家がオンパレードの
文学ミステリーとでも言うものでしょうか。
実は、あの文学芸人も実名で登場したりする。

ただ、自分は円紫師匠と私のこのシリーズを読んだことがなく、
しかも、本書はそのシリーズの最終刊らしい。
また、太宰 治の読み込みもまだまだ浅い身にとっては
なかなか難易度の高い本だった。

謎解きや話の端々に出て来る小道具が面白い。
例えば、太宰 治にちなんだ青森銘菓の「生れて墨ませんべい」
苦悩は満腹感で薄まるものだそうで、バリバリと食べて
太宰 治的苦悩を解決しましょうと袋には書いてあるそうな。
ほかに架空のお菓子として、斜陽せんべい、かじれメロス、
漱石にちなんでは、吾輩はチョコである なんてのも出てくる。
すでに実在するかもしれない。

中盤から後半にかけては、「ロココ」という言葉が鍵となって展開する。
美しさには内容など関係ないということで使われているようなのだが、
派生して、ロマネスコというブロッコリーだかカリフラワーだかの仲間の野菜も登場し、
太宰 治が寄せたロココという言葉の解釈に迫っていく。
そして探索の鉾先は、太宰 治が座右で使っていた「掌中新辞典」という辞書へ。
昭和初期の頃にはロココという言葉はどの国語辞書にも載っていなかったらしく
一部の百科事典に記述はあるもののその解説の度合いにかなり開きがあった。
その辞書を求めて前橋にまで赴くが、はたしてその辞書に「ロココ」は。。。

読み終えた後、本棚にある太宰 治の本を
何冊かひっぱり出したけれど、
本書で取り上げられていた「女生徒」は、やはり読んでいなかった。
次の機会に読んでおこうと思う。

====================
太宰 治の辞書
北村 薫
新潮社 2015年



2017年4月18日火曜日

読了メモ「仮面の忍者 赤影」横山光輝



読了。

今年の一発目の読了メモでも読んでましたけど
たまには漫画も読みます。

赤影というとやはり実写版のあの印象が強くて
そうかぁ漫画だったんだよなぁという感がいまさらですがあります。

横山光輝の漫画って硬派というか
男の子の冒険活劇っぽいのが多いですよね。
「鉄人28号」や「ジャイアントロボ」、
「バビル2世」、そして三国志などの歴史物などもしかりで
ちゃらちゃらした感じや、それこそ可愛い女の子が出てきて
お色気むんむんみたいのは微塵もない。
女の子が出て来る横山光輝の漫画というと
「魔法使いサリー」がそうですけど、あれはあれで「硬派」だと思います。

赤影のほかに登場する忍者は、テレビの金子吉延とは全然違う青影や
大凧を操る白影の他に、紅影、黒影など飛騨の影一族が揃うのですけど、
赤影も含めて、みんなめちゃくちゃ強いというわけでもない。
敵役の「金目教」と「うつぼ忍群」という甲賀の一族からは
ともに特殊能力を持った忍者や怪物が次々襲いかかってきて、
赤影達は怪我はするし、相手を取り逃すし、
寝込んでしまったりもして人間くさいところもあり、
テレビのような華々しいヒーローというわけでは必ずしもなく
読んでいて大丈夫かなとヒヤヒヤする場面もあったりで楽しめます。
もちろん、最後には敵を殲滅して、木下藤吉郎に褒められ
はてはそれが織田信長の戦果につながるという歴史的な背景もばっちりです。


では、お約束ではありますが、やっぱりこの曲は外せませんね。
Youtubeから忍者マーチをどうぞ。



===================
仮面の忍者 赤影 全3巻
横山光輝
秋田書店 1987年






2017年4月14日金曜日

読了メモ「カモメに飛ぶことを教えた猫」 ルイス・セプルベダ



読了。

似たような設定のお話があったような気がする。思い違いだろうか。
天地がひっくり返っても自分にはできないことを
その潜在能力を持っている相手に
そのやり方を教え諭し目覚めさせ、立派にやり遂げさせる。
最後には、降っていた雨がやんで陽の光が射し込むようなエンディングと
教訓めいたワーディング。

ネズミは狡猾でしたたかな悪者で、
猿は自分中心の適当な奴で、欲望丸出しの猫もなかにはいるが、
主人公やその仲間の猫たちとカモメという
異種族間での愛や友情が世界を変えて行くというメッセージ。
また、願いを叶えることができるのは、
本当に達成したいという心を持つこととそれに全力で挑戦した時だけだ
という至極真っ当でストレートな一文も最後に出て来る。

ただ、猫好きな方の妄想をぶちこわすようだが、
「飛ぶ」ことを教えたのは、正確には猫だけではないと思う。
カモメの世話を猫がしなければならなくなった背景や
飛ぶことについて猫たちが調査研究したり、
実際にカモメが飛行に成功するくだりには
猫以外の、ある存在が大きく絡んでいる。
特に前段の「背景」のインパクトは重く、
自分としてはずっと引きずってしまっていた。
せっかくの崇高なメッセージが薄れてしまうくらいなのだ。
あとで知ったことだが、著者は某環境保護団体に参加していたらしい。
とすれば、なるほどそういうことなのかと腑に落ちるところではある。

では、猫はカモメが飛ぶために何をしたのかって?
カモメの背中を押したのですよ。あの肉球で。


=========================
カモメに飛ぶことを教えた猫
ルイス・セプルベダ
河野万里子 訳
白水社 1998年




2017年4月8日土曜日

読了メモ「ぶらんこ乗り」 いしい しんじ



読了。

著者の本は何冊か読んできたが、
今回のは、今までとはちょっと違った感想。
どちらかというとファンタジックなイメージを
ぼんやりと抱いていたのだけれど
本作はブラックな印象。そして、最後はとてもせつない。

天才少年である弟が主軸で物語は進むが、
冒頭にその姿はなく、なぜか会話の記録として残された
古くなったノートが発見されるというところから始まる。
この段階で、自分の中ではグレーでざらっとした世界に入ってしまった。

そのノートには弟が書いた短いお話がいくつかある。
その話の一つ一つが、子どもが書くお話にしては険しく
カタっと硬い音をたてて終わる冷たい感じがするのだ。
飛び級をするほどの才能を持ったその弟にとってみれば
学校の先生などは、教科書に書いてあることを呪文のように繰り返す
テープレコーダーのようだとまで言ってしまう。

動物を題材にして書いた話の中には、ちょっと残酷な描写があったり、
その生態がやけに詳しく書かれていると妙に不気味に思えたりもする。
実際に犬を飼うことにもなるが、その犬の姿も異常であったり。

そんなシュールな空気の中で
お父さん、お母さんの話や二人の旅行先からの絵葉書の話は
やさしく暖かいゆえに、よけいに物語の谷の深さを感じてしまう。
もっとも、このお父さんとお母さんについては、
もっと大変なことがおきてしまうのだが。

タイトルの「ぶらんこ乗り」は、
弟がノートに書いた物語のひとつにある
サーカスの空中ぶらんこのことだと思うのだが
他にも実際のぶらんこがいくつか登場する。
どれも乗ってる人に手をさしのべたり、声をかけあったりして、
相対する人の存在やクローズアップ感が強い。

ラストにもぶらんこが出てくる。
でも、この最後のぶらんこに乗っている主人公は
遠くをみながら一人で漕いでいる。
手をつなごうとする相手が来るのを待ちながら。


====================
ぶらんこ乗り
いしい しんじ
理論社 2000年


2017年4月1日土曜日

読了メモ「カンガルー・ノート」 安部公房



読了。

安部公房の遺作。

脛に生えたかいわれ大根、体を括り付けられたベッドが自走、
賽の河原の小鬼たち、自称ドラキュラの娘という採血自慢の看護婦、
学校のハナコ霊、ピンクフロイドのエコーズ、
オタスケ オタスケ オタスケヨ オネガイダカラ タスケテヨ
読み始めから公房ワールド全開の展開とテンポでついていけるのかと思うも
なぜかどんどんと読み進み深みにはまってしまう。

主人公は会社の新しい製品提案で、
カンガルー・ノートと書いた一行メモを提出するのだが、
それがなぜか通ってしまい、周囲からも大いに期待される。
しかし、体に異変が起きていた。
脛にかいわれ大根が生えてくるのだ。
病院でベッドに括られ、そのベッドが自走して外に出て行く。

読み進めていくうちに気づいたのは、
きっとこの話のテーマは「死」なんだろうと。
こちら側にいながら向こう岸をちらちら覗いているような、
向こうの人と、或いは向こうに行こうとしている人と
会話をしているようなシーンがある。
本作が、著者が死を間近にひかえて遺作となった長編小説であったことは
読み終えた後で知った。
そのことを理解してから読んでいれば
また違った読み方、感じ方ができたと思う。
最後のところで、箱の穴を通して
自分の姿をみているというところは衝撃的であったし、
最後の最後のページの終わり方も肩の荷が降りるというのか
あっさりと通り過ぎていってしまう寂しさが残る。

 
かいわれ大根が脛に生えて擦れ合い、
その繁茂ぶりと手で撫でた時の根っこのひっぱられ具合が
やけにリアルに感じられてゾワゾワします。
安部公房ワールドにどっぷり浸りたい方はぜひ。

===============
カンガルー・ノート
安部公房
新潮社 1991年