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2018年7月28日土曜日

読了メモ「風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡」 宮崎 駿




読了。

著者名は宮崎 駿となっているが、
インタビュー形式の対談になっている。
インタビュアーは渋谷陽一。

この渋谷陽一がインタビューをこなした本を
何冊か読んでいるけれども、実にうまい。
事前の調査もさることながら、大きな牙城ともいえる
宮崎 駿の頭の中をうまく解きほぐし話を引き出している。
時には、くどいとも言えるほど同じ質問を繰り返す。
インタビュアーの手腕も読む際の面白さの一つ。


本書を読んで感じるのは宮崎 駿が頑固一徹でありながら
先日亡くなられた高畑 勲、プロデューサの鈴木敏夫と
怒鳴り合いながらも、微妙に譲り合い、
間合いを見ながら映画製作としているところがとても印象的。
まさに現場を垣間見るようだ。若手への配慮も忘れていない。

手塚治虫を漫画化としては尊敬しつつ、
アニメーション映画家としては酷評し、
ディズニーのヒューマニズムを批判し、
庵野秀明や押井 守を遠慮なく張り倒しているのは
いかにも宮崎 駿らしく、ジメジメしていなくてスカッとするくらい。

本書の中でのポイントとなる作品は、
「紅の豚」のようです。
あれは子どもむけではなかったですね。
本人は、目の前にいる子どもたちのために
アニメーションを作りたい、思想家なんかじゃないと言っています。
とはいいつつ、テーマ的には難しい作品も多々ある気がするけれど。


コミック版のナウシカも何度もでてきます。
アニメの話よりコミック版の話の方が多いかな。
もちろん、自分の本棚に全巻あります。
別の機会の時に、あらためて読み直そう。

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風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡
宮崎 駿
ロッキング・オン 2002年


2018年7月18日水曜日

読了メモ「邪悪なものの鎮め方」内田 樹




読了。

タイトルはおどろおどろしいいけれども
中身はいたって優しくて、時には厳しい。
いつもの内田節が光ってます。

内田先生の本は何冊か読んでいます。
同じ著者の書くエッセイだったり対談だったりするので、
この話は前にも読んだかなというものがありますが、
そのつど、はっと我を振り返ることになります。
たんに学習能力がないのか、もの忘れがひどいのか。

それでも、今回、新鮮な感銘を受けたのは
 父権制への警告、
 物語を通じて勝手に作り上げてしまう模造記憶、
 心臓移植をすると人格は変化するのか、
 自分で自分にかけた呪いは誰にも解除することができない
などなど。
ワーディングだけみてると誤解しそうなところもあります。
ですが、読むときっちり肚に落ちます。

この種の話は人間の内側から問いかけることが多いなかで、
内田先生は、外側から攻めてくる。
だからということなのか、説得力があるし逃げ場がない。
いつも、う〜むと気づきと自己批判の淵に立たされる。


内田先生は武道もされるので、
以前読んだ、甲野善紀氏がでてきたり、
村上春樹も何度も登場する。例の雪かきの一般論としての話だ。


以前、古本市で、お客様から
「内田先生の本は難しくて、なかなか.....」と言われたことがあった。
「いえいえそんなことはありませんよ、是非是非」
と、強くお勧めしたことを思いだす。あのおばちゃん読んでくれたかな。

まだ積ん読には何冊かあるし、
読み返したりもして、
自分の身に少しでもしみているようにしたい。

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邪悪なものの鎮め方
内田  樹
バジリコ 2010年


2018年7月12日木曜日

読了メモ「カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化」平山 廉



読了。

薄めの冊子ではあるが、中身は濃い。
現生のカメよりは、化石時代のカメの話が中心。

それでも、現在で世界最大の生息域をもった脊椎動物がカメのある一種だったり、
そして推定最長寿200歳を超えると見られるゾウガメ。
恐竜のアンキロサウルスや甲冑魚などと同じく硬い甲羅で身を守り
鋭い牙はないけれど強力な顎の力と嘴状の口を持つ話などは
カメの多様な進化の典型的な事例だ。
首をまっすぐ甲羅の中にしまう仕組みには
自然でうまくできあがったギミックを感じる。

ちなみに、よくアニメなんかで甲羅を脱いで
カメが裸になる画なんかあるけれど、
カメの背骨と肋骨は甲羅に完全にくっついているので
あんなことはあり得ない。


恐竜が絶滅したと言われる白亜紀末期。
巨大隕石衝突説が有名だけれど、
はたして、この時に多くのカメの種類も絶滅したのか?
というとそうではない。実はこの時に絶滅したカメは
一種だけだったそうだ。
カメ以外にも自然界の底辺をなす昆虫などは数多くが生き残っており、
隕石衝突による粉塵で太陽光が遮られ
地球全体の気温が下がり変温動物が
絶滅したという話とは食い違いがでている。
謎は謎のままだ。

イラストや口絵などもたくさんあるが
学術的で化石時代の話が多いので
各時代のカメの名前と進化の関係を把握するのに苦労する。
自称、カメ男、カメ子、カメ仙人の方々はいかがだろうか。
NHKブックスなので、読みやすいはずである。

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カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化
平山 廉
日本放送出版協会 2007年




2018年7月2日月曜日

読了メモ「恋文の技術」 森見登美彦



読了。

著者によるハウツー本....ではなくて
ひたすら、守田一郎という能登でクラゲを研究する学生の書く手紙が一方的に続く。

友人、同僚、先輩、妹、
あげくには森見登美彦宛てにも手紙を書いている。
恋文というよりは文通だ。

面白いのは、出された手紙の返事が一切載っていないということ。
つまり、白ヤギさんが読まずに食べたのか、ちゃんと読んだかわからない。
お返事ありがとうという一言は守田一郎の手紙にあったりするけれど。

いろいろと試行錯誤して書いた手紙を読んでいると
へぇ、そう書いてくるかなど面白い書き方もあれば、
馬鹿だなぁ、こんな書き方はしないよという例文のようなものがおかしい。
ちゃんと【反省】を書いているところもえらい。

ただ、守田一郎自身も書いているが
手紙に書いた言葉、表現が、本当に自分の心、思いを
表したものなのかどうかはわからないという。
そういうもどかしさも書かれている。これはとてもよくわかる。


後半は、宛先にあたる人物達が相互に手紙を出し合って
全員がある時期、京都の特定の場所に集まるよう仕向けられる。
いかにも各人物が書いたように見えるのだが、
おそらく守田一郎が全て企てて書いたのだろう。
なにせ、恋文代筆ベンチャー企業を起こそうというのだから。


この本を読むと手紙が書きたくなってくる。
メールやメッセンジャーでは決して伝わらない何かが
手紙にはあると思う。

かくいう私も、文通をしたことがある。
携帯電話もインターネットもない時代です。
相手は転校していった女の子で中学から高校時代にかけてだった。
思い出すのも恥ずかしいが、書いている時も投函する時も
返信を待っている時も、届いた手紙の封を開ける時も
とてもとても楽しみであった。
当時、初恋という感覚はなかったが
あれがその味だったのだろうか。。。
なんてね。


守田一郎の妹は、
まわりくどい恋文なんてしないで、口で言われた方がいい。
でも恋人だったら、恋文の一つでもかけないような男は願い下げです。
とばっさり。

貴殿も恋文、書いてみませんか?


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恋文の技術
森見登美彦
ポプラ社 2009年