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2018年8月23日木曜日

読了メモ「半減期を祝って」津島佑子



読了。

「ニューヨーク、ニューヨーク」
「オートバイ、あるいは夢の手触り」
「半減期を祝って」

の三編からなる。最後のは著者の絶筆らしい。


三十年。みなさんはどういう感覚ですか。
いまから思えば、もちろん世の中や技術は変わりましたが
自分自身も含めて、そんなに劇的に変化した
という感覚があまりありません。
セシウム137という放射性物質は三十年で半減期を迎えるそうです。
むろんプルトニウムなどはもっと長いわけですが。

その「節目」と呼ばれるであろう三十年後に
自分は何をしているか、マスコミや世間はどう沸いているか。
なんかある程度の想定の範囲の映像があたまに浮かびます。
一方で、思いもかけない事象が起きているかもしれない。
差別であったり、格差であったり、隔離であったり。。。
お祝いムードで持ち上げながら、世の中をぐっさりと刺す
そんなお話が描かれています。

前編の二つは、どちらも夢を追い求め
頭でっかちになっていきながらも
真実に気づく女性たちの姿があります。
ニューヨークのことは路地裏の隅々まで頭の中に入っている。
南海の孤島の小さな村でオートバイを購入する。
そんな女性たちです。

なお、ご存知の通り著者は、太宰治の娘です。
ちょっとここんところ太宰づいています。

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半減期を祝って
津島佑子
講談社 2016年


2018年8月15日水曜日

読了メモ「晩 年」太宰 治



読了。

「晩年」という小説ではない。

著者が20歳代前半の頃に書いた
いわゆる処女短編小説集だ。
それに「晩年」というタイトルをつけるのだから
やはり、そこが太宰 治らしいというか。。。

すでにこの本の中で、入水自殺の影が
うっすらとほのめかされていたりもして
初期短編集にして遺書的な感じがしなくもないけれど、
意外にも、明るくて面白い話が多い。

太宰 治というと暗くて陰鬱なイメージを持つ人が多い。
はたして自分もそうでしたが、読むと案外それほどでもない。
すごいのはすごいけどね。

印象に残っているのは、
「彼は昔の彼ならず」とか
なんとあの大庭葉蔵がでてくる「道化の華」や
「猿ヶ島」
あたりかな。

芸術家を志望する友人をモデルにして
彼はいったい何者なのだというのを
あえて英語で綴りつつ、
実は自分について問うているという
太宰 治流の筆の使い方と心の変わり方、
そして、その読み方がますます面白くなってきているこの頃です。


本書の内容とは関係ないのですが、
この本を読んでいる時に、
左足首を剥離骨折しました。
記憶に残る一冊となってしまったようです。


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晩 年
太宰 治
新潮社 2013年





2018年8月8日水曜日

読了メモ「野蛮な読書」平松洋子



読了。

本を一冊づつ紹介する形式ではなく
本の内容を引用しながら、エッセイを綴る形。
どちらかというと、以前読んだ食レポエッセイの形に近い。
実際、最初の章は温泉とハンバーガーから始まる。


思うのは、著者の読書量の厚みというのか
引用の引き出しをすごく多く持っていて、
ここでこの本のあそこをよくもひっぱり出してくるなぁと思うことがしきりである。
自分なんか、こうやって読み終えた後に
メモ程度に思いを書き残すのがやっとなのに。

前半は、出かけ先、旅行先で読んだ本。
本やその内容よりも、
いつもと異なる環境で読むことの楽しさ、
感覚の違い、空気の匂い、読後感の雰囲気が
とても清々しく書かれている。

中盤は、著者別の話。
沢村貞子、宇能鴻一郎、池部 良、獅子文六。
選ばれる著者やエピソードも
ちょっとなかなか出会えない人たちばかりだ。
沢村貞子の「私の台所」は読んだことがあるけれど
読書欲をそそられるラインナップだ。

最後は、「すがれる」という言葉をキーワードに。
ここに、こういうのがある、ああいうのがあったと、
引用があり、エッセイが綴られる。
すごい。
どうしてこのように思いつくのか。ひっかかるのか。
もちろんたくさんの本を読んでいるからなのだろうけれど。


野蛮な読書とはとてもいいがたい
読書エッセイなのです。
本好きな貴方にも是非オススメします。

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野蛮な読書
平松洋子
集英社 2012年