2024年は、こちらにもアップします。

2021年2月28日日曜日

読了メモ「<私>はなぜカウンセリングを受けたのか 『いい人、やめた!』母と娘の挑戦」東ちづる・長谷川博一




読了。

冒頭、著者である東ちづるさんのカミングアウトから始まります。
ご本人曰く、自分はAC(adult children)なのだと。

本書の定義によると

【アダルト・チルドレン adult children】
    幼少期から過度の責任を負わされ、
    子どもらしい幼少期を味わえなかったことにより、
    精神的不安定な対人関係の問題を引き起こしやすい性格が
    形成された人のことをいう。

表面の字面からは、「大人びた子ども」なんて、
短絡的に勘違いしそうですけれど
深刻な辛い疾患なんだとこの定義を読むだけでもわかります。

本書の構成としては、東さんご本人と東さんのお母さん
そして、臨床心理士の長谷川博一先生によるカウンセリングの模様、
その合間に、東さんのエッセイが織り込まれています。

カウンセリングは12回実施されて、うち9回分が掲載されてます。
最初は東さんと先生の二人だけ、そのうちお母さんも交えた
3者でのカウンセリングが始まります。

長谷川先生は細かいところを一つ一つ聞いて
解きほぐしていってくださるのがよくわかるのですが、
自分からすると、母親を交えたカウンセリングをする、
もうそれだけで、半分以上、
ACを克服できたんじゃないかと思うくらいです。

タイトルにもなっている「いい人」。
これって、「他人にとってのいい人」なんですよね。
それじゃ、自分はどうなの、自分はどうしたいの、
って問われると答えが見つからない。
自分が何かをしようとしても
あの人に負担をかけてしまう、迷惑をかけてしまう、
という考えが、ついよぎってしまう。
子どものころは、xxちゃんは偉いね〜
といつも言われ続けてきた。
これ以外にも、東さんを取り巻く環境、
生まれ育った場所、お母さんのこと、お父さんのこと、仕事のこと、
彼女が心を悩ませていることが赤裸々に綴られています。

自分とは何か、家族とは何か、
これまで何度か思いをめぐらし考えたことのあるテーマですけれど
またここで改めて考える機会をもらいました。

読書って、こういうことがあるからやめられません。

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<私>はなぜカウンセリングを受けたのか
    『いい人、やめた!』母と娘の挑戦
東ちづる・長谷川博一
マガジンハウス 2002年


2021年2月21日日曜日

読了メモ「キャラ立ち民俗学」 みうらじゅん



読了。

サブカル好きにはお勧めの本です。
みうらじゅん氏といえば、
タモリ倶楽部に出演しているのを見たことがある程度で、
著作まで手を伸ばすとは考えてなかったけれど
まぁ、圧倒的なオタク感が満載でした。

まず、表紙を開いた口絵が
台湾でゴムヘビを物色するみうら氏と
実際のゴムヘビの写真の数々ですから。

全部で4つの章に分かれていて
 第一章 宗教と民俗学
 第二章 風習と観光産業
 第三章 ゴムヘビ文化
 第四章 地獄の民俗学

宗教と民俗学では、天狗の鼻から始まって
道端に立っている車止めやポール、
双体道祖神にみる子孫繁栄と愛の姿を見事に導き出しています。
また、なんと驚くべきことに、
青森県にはキリストの墓が
石川県にはモーゼの墓が
山口県には楊貴妃の墓があるというのです。
参拝するごとに「墓マイル」を貯めるという
斬新な企画まで提案しているのはさすがです。

観光産業では、ある鍾乳洞がピックアップされ
Aコース、Bコースのふたつがあって
Bコースでは胎内くぐりといって、
四つん這いになって水につかりながら観光するそうです。
そして、みうら氏の個人的恐怖体験をもとに
菊人形展の恐ろしさなどが紹介されています。
お察しの通り、犬神家の一族の
佐武君がオマージュになっているんですね。

口絵の写真にもあったゴムヘビは、
案外身近にあり、江ノ島で結構売っているそうです。
近いし、今度行った時に漁ってみたい。
本書には、見開きでゴムヘビの写真一覧、
カリフォルニアキングヘビ、八重山ハブなど
30匹がご丁寧に正式和名で載っています。

最後の地獄編では、訓示もあって、引用すると

 ずっと幸せなんてありえないのである。
 冷静に一度、”今、幸せに感じる” ことに疑問を持つべきだ。
  =<中略>=
 一番危険な時が、幸せだと思うように日頃から訓練しなければならない。

とか、
 
 プライドというと何だかカッコよく聞こえるかもしれないが、
 すなわち自分への執着であり、これが原因で争いごとが起こるのだ。
   =<中略>=
 きっと、あちらはこちらよりもっと苦しいと思う。
 だからこそ、その苦しみを最小限に食い止める訓練を今、しておくのだ。

など、これからの人生を生きていく上での
大切なヒントが隠されているように思うのは
私だけだろうか。

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キャラ立ち民俗学
みうらじゅん
角川書店 2013年



2021年2月16日火曜日

読了メモ「開口閉口 1 」開高 健





読了。

開高さんのエッセイを編纂したもので
ナンバリングがあるから、2巻目以降もあると思うのだが
とんと目につかない。

本書は1976年発行のもので、昔の本によくある
行間が狭く字が小さめに出来上がっている。
それだけで、自分は閉口なのだが
これが意外と読みやすかった。
開高さんの文章が読みやすく、わかりやすいのだ。

前半は、ヴェトナム戦争に特派員として
前線の兵士たちと同じ様な現地での生活をして
とてつもないヤツを口に入れる話がでてきたり、
後半は、好きな釣りやお酒の話になって、
アマゾン河での怪魚や日本の渓流での話でもりあがる。
開高さんは専らキャッチアンドリリースだそうで、
さまざまな擬似餌(ルアー)と魚との相性の話が面白い。
お酒については、世界各地で作られるお酒には、
ほとんど毒蛇が浸かっていることを指摘し
なぜ青大将ではいけないのかと首を捻る。

ヴェトナムの話で可笑しかったのは、
女房が怖くないやつは前へ出ろと隊長が命令したら
100人中たった一人が前にでたという。
その言い訳が、
 かねがねみんなの後について行ってはいけないと
 女房に言われつけているもんですから
というオチ。
こういう話は社会主義国でも自由主義国でも同じだねと笑ってました。
そんな滑稽な話があっても
戦争の話を聞きたかったら歩兵に聞け という名句が
戦争の引き起こす惨さ、非尋常な世界を彷彿とさせる。

わが地元の茅ヶ崎には、開高健記念館といものがある。
開高さんは1979年に茅ヶ崎に越してきたそうだ。
開館日が金曜日・土曜日・日曜日と少ないが、
執筆していた机や、色とりどりのルアーや
ヴェトナム戦地での写真や貴重な原稿などが展示されている。
ご関心のある貴兄はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

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開口閉口 1
開高 健
毎日新聞社 1976年





2021年2月10日水曜日

読了メモ「随想 二〇一一」日本経済新聞社編




読了。

そうです。あの震災から十年が経ちます。

本書は、2011年、日本経済新聞朝刊の
「日曜日の随想」というコーナーに綴られたエッセイ集です。
寄稿者は59人。一ヶ月あたり4〜5名かな。

作家、詩人、作曲家、指揮者、写真家、画家、
演出家、プロデューサーなどなど
職業はさまざまな人たちです。

月別に編纂されているので、
当然、2月までは震災の話は出てきません。
でもそれが、やけに不思議な静けさを感じます。


そして、3月からは、震災の話がでてきます。
自分も当時、帰宅難民になったことを思い出しました。
街中のTV画面に映る信じられない津波の映像。
原子力発電所事故を報じるニュース。
海外からの支援の声。
当時のさまざまなことが読んでいて蘇ってきます。

月日が進むにつれて、
エッセイの論調も少しづつ変わっていきます。
震災が人々の心にどんな影響を与えたのか、
これからの時代をどう生きていくか、
仕事をする上でお客様とはどのような気持ちで接していかねばならないか。
被災地の過酷な状況は続いていますが
日本全国の人々、一人一人の心底に大きな影が落ち、
これからの歩みをどう進めていくか真剣に考えている様が書かれています。

そこには、広く視野をもち、
胸をはって生きていくこと、
自分のできることを精一杯やっていくこと、
などが共通して書かれているように思えてなりませんでした。

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随想 二〇一一
日本経済新聞社編
日本経済新聞出版社 2012年



2021年2月4日木曜日

読了メモ「会社の人事 中桐雅夫詩集」中桐雅夫





読了。

久しぶりの詩集。 

作者の中桐氏は、翻訳家でもあり
SFやサスペンスなどで早川書房などから
数多くの翻訳本を出している。


一方、この詩集のインパクトはすごい。
タイトルからしてそうだが、
相当の信念を持って挑んだ詩集なのでないかと思う。
言葉一つ一つを丁寧に扱いながらも、
自身の人生の思いを詩の言葉の中にぶち当てている。

「嫌なことば」という詩がある。
始まりの二行と最後の二行を引用してみる。


 何という嫌なことばだ、「生きざま」とは、
 言い出した奴の息の根をとめてやりたい、

   ===<中略>===

 生きていてどれほどのことができるのでもないが、
 死ぬまでせめて、ことばを大切にしていよう。



タイトルにもなっている「会社の人事」にしても
今のご時世では、見聞きされないようになってしまった光景や
一人寂しく、うつむいて帰路につく会社員の姿が浮かんでくる。
そんな詩が62編、綴られている。


以前から、詩人の書く作品は行間が好きだ。
と、自分は言ってきたが、
本書の詩はまた少し違うように思う。
勢いがすごくあるのだ。
言ってみれば、作者の覚悟というものを感じる。
行間を読んでいる暇がない。


ただ、それぞれの詩の最後の一行を読み終えたあと、
サスティーンが心の中にずっと響き続ける。


ちなみに、全て音読しました。
やはり詩は音読に限ります。


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会社の人事
中桐雅夫
晶文社 1981年