読了。
著者の本は何冊か読んできたが、
今回のは、今までとはちょっと違った感想。
どちらかというとファンタジックなイメージを
ぼんやりと抱いていたのだけれど
本作はブラックな印象。そして、最後はとてもせつない。
天才少年である弟が主軸で物語は進むが、
冒頭にその姿はなく、なぜか会話の記録として残された
古くなったノートが発見されるというところから始まる。
この段階で、自分の中ではグレーでざらっとした世界に入ってしまった。
そのノートには弟が書いた短いお話がいくつかある。
その話の一つ一つが、子どもが書くお話にしては険しく
カタっと硬い音をたてて終わる冷たい感じがするのだ。
飛び級をするほどの才能を持ったその弟にとってみれば
学校の先生などは、教科書に書いてあることを呪文のように繰り返す
テープレコーダーのようだとまで言ってしまう。
その生態がやけに詳しく書かれていると妙に不気味に思えたりもする。
実際に犬を飼うことにもなるが、その犬の姿も異常であったり。
そんなシュールな空気の中で
お父さん、お母さんの話や二人の旅行先からの絵葉書の話は
やさしく暖かいゆえに、よけいに物語の谷の深さを感じてしまう。
もっとも、このお父さんとお母さんについては、
もっと大変なことがおきてしまうのだが。
タイトルの「ぶらんこ乗り」は、
弟がノートに書いた物語のひとつにある
サーカスの空中ぶらんこのことだと思うのだが
他にも実際のぶらんこがいくつか登場する。
どれも乗ってる人に手をさしのべたり、声をかけあったりして、
相対する人の存在やクローズアップ感が強い。
ラストにもぶらんこが出てくる。
でも、この最後のぶらんこに乗っている主人公は
遠くをみながら一人で漕いでいる。
手をつなごうとする相手が来るのを待ちながら。
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ぶらんこ乗り
いしい しんじ
理論社 2000年
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