読了。
「オレは関係ない!」
よく聞くフレーズであるが、こう言い放つことが
未来へ、理想へ向けて歩み出す第一歩だという。
黙して心の中で叫ぶのではなく、発語するのがポイント。
この「無実」の一言で、これからの世界を引き受ける道筋ができるというのです。
たとえば、戦後に生まれたからオレは関係ないという。
でも、その前に日本国民なんですよね。
確かに戦争の時代を生きていたわけではないけれど
同じ国土に住む日本国民としてどう生きて行くのか。
これを考え始める端緒となるのが、
オレは戦争に関係ないという一言だというのです。
銀河鉄道の夜のカンパネルラとジョバンニを例に
子供と少年を比較する話も面白い。
一方は人のために死んでもいい、一方は自分のために生きていていい。
自分のことだけで精一杯のジョバンニですが、
カンパネルラが帰らぬ人とわかった世界を
ジョバンニは引き受けなければならなくなるところが心に残るというのです。
そして、ゴジラ。
1954年、戦後わずか9年後に制作されたゴジラは、
一般的には、反原水爆の権化ととらえられていますが
実はそうではなく、戦火の中に散っていった兵士たちの亡霊だと。
もっとたとえていうなら、海上で戦闘機に掃射されるゴジラを
真上からみるとまるで「戦艦大和」とまで言っています。
その後、何度も何度も映画化され、シリーズを通して、
戦争の亡霊であるゴジラは、不気味なものから
衛生化し無菌化し無害化されていきます。
こうすることで戦後の現代社会をようやく目の当たりにすることになるというのです。
この視点は、ちょうど奴隷制による闇の社会を経験したアメリカ、
そのニューヨークに上陸するキングコングと同じだといいます。
キングコングも奴隷と同じ南方のジャングルの孤島から
アメリカに連れてこられるのですよね。
憲法9条についても、崇高な理念とそれに伴わない現実という
中途半端な今のバランスの状態でいいと説いています。
今のままで何が問題なのかという、内田 樹先生の論を引き合いに出しながらの
9条の解釈には、はたと膝を打ってしまうのでした。
理念にそって自衛隊を排斥しても、憲法を変えて武力をもっても
どっちになっても成り立ちはしないというのです。
今年封切られたゴジラの最新作を観ましたでしょうか。
この本を読んでみて、やはりもう一度観たいという念にかられました。
最新作のゴジラは、今の日本にとって一体何なのでしょうか。。。。
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さようなら、ゴジラたち 戦後から遠く離れて
加藤典洋
岩波書店 2010年