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2016年10月1日土曜日

読了メモ「退廃姉妹」島田雅彦



読了。

敗戦後、アメリカの占領下におかれた日本。
極貧の中、なんとかして生きる道を画策する父親は
ある日、アメリカ兵の肉を食べたと
あらぬ容疑をかけられ米軍に連行されてしまう。
その父親が帰ってくるのを待ち、母の好きだった家を守る姉と妹。
父親が手をかけていた仕事が次第に明るみになっていき、
二人の姉妹は米軍兵を相手に生きる糧を稼ぐ道を進み始める。

戦争に負けた国の市民の惨めさ、悲しさ、辛さ、苦しさが切実。
むろん、自分の想像もおよばないような酷い現実が
一般市民の生活の目の前にあったのでしょう。

姉妹の他に、銀座の街で稼ぐ先輩格の女性や
姉妹の父親が始めた「事業」に身を投じた秋田弁の女性、
そして、姉が慕う特攻崩れの男。
姉妹以外の人物にも戦火、空襲をくぐり生き抜いてきた
逞しさ、必死さをメラメラと感じますし、
一方で、感謝の気持ちを表し、相手を想い、
心の優しさを大切にする姿を読んでいると、
 ああ、がんばれ! と思わず声をかけたくなるほどです。
その逆に、「元」軍人や学校の先生、政治家などの
掌を返したような身勝手で恥知らずな言動には
読んでいる方もしかめっつらになります。

そんな闇の世界や、姉妹が身を投じる境遇は過酷ですけれど
意外にも読みやすく話はどんどんと進んでいきます。

二人の姉妹はその後、それぞれ孫を持つまでになりますが
特攻崩れの男が姉宛に送った最後の手紙の一節が切ないです。

 たった一度の偶然の出会いだけでも、
 たった一度の接吻だけでも、
 人は一生、それを励みに生きていける。
 

それと、昭和な世代の人にとっては
もう懐かしさをも感じてしまう
あの人がちらちらと出てきます。
「あ、そう」と返事をする人です。

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退廃姉妹
島田雅彦
文藝春秋 2005年




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