2020年10月29日木曜日

読了メモ「かないくん」 谷川俊太郎




読了。

何年か前に話題になった絵本です。
読んだことのある方も多いのではないでしょうか。


テーマは「死」なのですが
その死と向き合う、残される人々の心の動き。
死が近づいてきた時。
死を知らされた時。
そして、死後に残された人々の生活が始まる。

死は、終わりでもあるけれども始まりでもある。
と絵本の最後は結んでいます。

絵本の最初は小学校四年生の時の話。
かないくんの言葉は一つもありません。
あるのは、学校の先生からのかないくんの状況報告と
同じクラスの子どもたちの感じている様、思いの変化。
教室に残っているのは、かないくんの絵とか
かないくんと一緒に写っている写真とか。
それでも、すでに、かないくんのいない
同級生たちの学校生活が今まで通り始まっています。

後半は、金井君の死のことを
絵本にしようとしているおじいちゃんの話。
でも、おじいちゃんは次の桜をみることができない。
おじいちゃんは、死ぬことを
重々しくも、軽々しくも考えたくはないと言う。
絵本の終わらせ方がわからないと言う。


子どもたちにとって、死は遠いものであり終止符なのですが
時はとどまることなく進み続ける。
死を受け入れた生活が新しく始まる。
死は通過点なのでしょうか。


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かないくん
谷川俊太郎 作
松本大洋 絵
(株)東京糸井重里事務所 2014年








2020年10月21日水曜日

読了メモ「自殺予防学」 河西千秋




読了。

ちょっと気になったので読んでみた。
最近、あまりにもという感じなので。
日本の状態はどうなっているのか。

少々データは古いが、
2007年の交通事故死亡者数が6,000人のところ
1998年の自殺者数は32,863人にのぼる。

しかも、驚きなのは10歳から60歳までを5歳区切りで
死因統計をみると、自殺はどの世代区間でも
死亡原因の上位3位内にランキングされているという。
長寿の国と思っていた日本だが、
人口10万人に占める自殺者の数、自殺率は先進国で最悪なのだ。


自殺は単なる精神疾患ではない。と本書で何度も繰り返し述べられている。
本人を取り巻く人間関係、家族、友人、仕事関係は勿論、
住む土地の風習や因習、そもそも日本という国の国民性など
自殺にまつわる様々な危険因子が潜んでいるという。
では、自殺背景の要因の主なものは何か。
それは、本人の健康問題が圧倒的である。
自殺企図者の多くは、いきなり精神科で診療を受けるのではなくて
内科や呼吸器科など他の診療を受けていることが殆どだという。

全国の病院の救命救急センターに運び込まれる
患者のうち約10%が自殺企図者であるというが
十分な心のケアも施されることなく退院させられてしまう。

もちろん、著者をはじめとする精神科医が中心となって
自殺未遂者に対峙するロールプレイング研修などを行っているが
看護師や医師の多くは、その対処の難易度に悩まされている。
繰り返しになるが、自殺は精神医療だけで解決する問題ではないのだ。

一方で、一部の地区やコミュニティでは、
住民が医師と連携をとりあって、自殺予防の対策を図り
実際に自殺者数が減少したという実績がある。
もちろん、遺族や周囲の人々への支援やケアも考えられていた。

様々な危険因子が潜んでいると書いたが、
逆に予防因子もあるはずであり、
個人一人一人が意識して取り組まないとできないこともある。
例えば、「自殺者ゼロ宣言」と同時に実際の施策の実行に
行政の強いリーダーシップにも期待をしたい。

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自殺予防学
河西千秋
新潮社 2009年



2020年10月12日月曜日

読了メモ「犬であるとはどういうことか その鼻が教える匂いの世界」




読了。

犬の「嗅覚」について書かれた本である。
当初、犬のいろいろな所作や習性についても言及されているかなと
思っていたが、見事に100%嗅覚についてだった。

本書で扱われているのは愛玩用の犬よりは仕事犬。
災害救助犬、麻薬捜査犬、トリュフ検知犬、絶滅危惧種を探す糞検知犬などなど。
このような犬たちにとって、嗅覚の威力は、
我々の想像をはるかに超える能力を発揮する。

犬の鼻には、呼吸ルートと嗅ぐルートがあって、
しかも、嗅ぐルートに入った匂いは反芻されるらしい。
犬の嗅覚細胞を広げたら、その体表をすっかり覆い尽くすくらいあり
人間の場合は肩にあるホクロをやっと隠す程度。
数で比較すると、人間は600万に対し犬は2億〜10億。

そんな嗅覚に優れた犬でも、仕事犬としての向き不向きがあるのも面白い。
仕事犬に向いているのは、
仕事が終わった後の、おもちゃ遊びに夢中になる犬なのだそうだ。
テニスボールを投げて取ってこさせたり、
縄の引っ張り合いだったり、
これらの遊びがあるからこそ、犬は仕事をするのだという。
必ずしも餌につられて仕事をするわけではないのだ。


人間は五感のうち、まず視覚で判断しようとする。
例えば、鏡に自分を映した場合、
何か異物が顔についていれば、人間は取り除こうとする。
これは3歳児程度でも同様だ。
鏡を見て写っているのは自分だと自己認識ができている。
だが、犬は鏡を見ても自己認識はできないらしい。
犬を飼っている人は試してみてはどうだろうか。
ただ、異物の匂いに反応する場合はあるかもしれない。

では、人間の嗅覚はどうか。
訓練しだいで、ある程度の嗅ぎ分けはできるようになる
と本書では実験をしている。
もちろん、犬の能力には遠く及ばないが、
一般的に、人間は嫌いな匂いには敏感で
いつまでも覚えているという。
逆に好きな匂いは覚えていない。

貴方の鼻はいかがですか。

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犬であるとはどういうことか その鼻が教える匂いの世界
アレクサンドラ・ホロウィッツ 竹内和世 訳
白揚社 2019年