2017年8月30日水曜日

読了メモ「身体から革命を起こす」 甲野善紀 / 田中 聡



読了。

古武道の世界の話です。
準備体操などは不要。敵が来たら準備体操するから待って。
なんて言ってられないよというのが可笑しかったし、
現場の実戦で効力を発揮しないのに、教科書通りの手法を会得しないと
資格が取れないし、いざ現場で教科書通りの対処をすると怪我をすることがある
という話しには、やりきれない気持ちになった。

写真付きで解説もされていますが、
倒れている人や座っている大きな人を、
わずかな力や手数で起してあげる。
活字と写真の限界かちょっと解りにくいかな。
もちろん武道なので、それらばかりではなく、
本質的には敵からの襲撃に備え応酬する部分があるはずで
その中からの一端の紹介ということなのでしょう。

実はこの本、ギターの先生から拝借したものでした。
本の中ではフルート奏者を事例で紹介しているのですが
身体を捻らない古武道の技法を軸に演奏の仕方が解説がされていて
その効果に実際の奏者からも驚きや感謝の声が記されています。

きっと、ギターやウクレレでも教則本通りにやってきているうちに
自分の癖や手練れに固まってしまい、無意識のうちに窮屈な弾き方や
乗り越える壁を自ら高くしてしまっていることがあるかもしれません。
弦楽器のことに本書は触れていませんが、
楽器の構え方、指や腕の筋肉の使い方など
今までと違う見方、視点で身体の動かし方を見直してみようかなと思いました。

哲学的な部分は難しいところですけれど、
日々の身体の使い方について考えるようになると思います。
面白い本でした。

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身体から革命を起こす
甲野善紀 / 田中 聡
新潮社 2007年


2017年8月23日水曜日

読了メモ 「リヴァイアサン」 ポール・オースター 柴田元幸 訳




読了。

久しぶりにバリバリのアメリカ小説を読んだ。
原書を直接読めるわけもなく、それでいて翻訳物が苦手な自分にとって、
今回は読みやすかったです。スラスラとページをめくることができました。

いきなり主人公の爆死から始まるこの話。
語り手のピーターを通じて、たくさんの登場人物がでてきて
そりゃもう組んず解れつの人間関係がつむぎ上がって行く。
どいつもこいつも、いろんな面で身勝手で狂信的であったりもするんだけど
もちろん善良な心もあるのですよ。
ただ、それぞれの登場人物が自分がこうだと思ったら
それをやり抜いてしまうっていうある種の「非常な強さ」を感じました。
そうしないと生き抜いていけないのがアメリカなのかなとか
ステレオタイプ的にみてしまうのはどうかなとは思うものの。

題名のリヴァイアサンは怪物の名前ですが、
世界史を勉強された方なら、聞き覚えのある言葉かと思います。
英のトマス・ホッブズが17世紀に残した近代的な国家観を示した政治哲学書です。
そんな話しが本書に出てくるわけではないのですが
後半の環境や自由に対する主人公の行き場のない行動は
もしかしたら、国家に対するメッセージがあったのかもしれません。

途中、こんな一文がありました。
「生身の他人が一緒にいれば、現実世界だけでこと足りる。
 それが、一人でいると、架空の人物を作り出さずにいられない。
 仲間がいないと駄目なのさ。」
ちょっと考えると怖い発想ですけれど、その通りだなと思いました。

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リヴァイアサン
ポールオースター
柴田元幸 訳
新潮社 2000年


2017年8月16日水曜日

読了メモ 「ソラシド」 吉田篤弘



読了。

「ソラシド」とは、女性二人のバンドの名前だ。
ギター&ボーカルとダブルベースの二人。
時は1986年。当時にかかれたノートにさかのぼる。
ある喫茶店で演奏をしていたようなのだが、どんな演奏だったか思い出せない。
いろいろと探し歩いて行くうちに、たった一枚だけ
レコードが存在するということがわかってくる。
どうやら彼女たちは録音して残すことと生演奏に大いに拘りがあったようなのだ。
しかも、そのレコードはアセテート盤という試作盤らしい。
そこにいたるまでの道のりも大変なものだ。
なにせ彼女たちのことが載っているという記事を古紙処理場まで探しにいくのだから。

途中、二人の関係者にも巡り会うことになるが
ベースの子は双子なんだけど、ひょっとしたらなんて妄想も広がる。
実は主人公も同じダブルベースを持っていて、
その古さや傷具合から、巡り巡って同じ楽器を使っていたかもしれないと思い込む。
もちろん本当はそんなことはないんだけどね。

そんな探して探して探して行く旅というか、思いの綴りをたぐっていくお話です。

途中で、ビートルズのホワイトアルバムが何度かでてきて
聴きながら読んだりもしてしまいました。

そのアセテート盤も白い箱に入っているんです。

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ソラシド
吉田篤弘
新潮社 2015年

2017年8月10日木曜日

読了メモ「ヒトラー演説 熱狂の真実」 高田博行




読了。

本書を読む前後に二つの映画を観ました。
一つは、「戦場のピアニスト」。
ユダヤ系ポーランド人が迫害を受ける話し。
もう一つは「手紙は憶えている」。
認知症の老人が友人の手紙を頼りに収容所の責任者を探し仇を討つというものです。
いずれの映画も訴える映像は重く、なぜこれほどまでに
人が人を追い込んでしまうのか。追い詰めてしまうのか。
そうさせてしまうのか。

かの政党も最初から強大な権力や圧力を持っていたわけではありませんが
大きな役割を果たしたものの一つにヒトラーの演説、
なかには3時間〜4時間にも及んだものもあったそうですが
物静かな導入から入り、やがて声の音程があがり
拳をあげ、指をたてて、群衆に向かって訴えかける。
当時のメディアとしては、大きな広場での大スピーカーを使った演説か
ラジオだったそうで、当時は演説を聞かせるために
国民ラジオ的な安価な製品を作らせ広めたそうです。

政権掌握以前から演説のトレーニングには力が入り
声の専門家によるレッスンや言葉の選び方は、
演説での言葉150万語のデータベースを元に分析された結果をみると
微妙に変化していったこともわかります。
はては、オペラ歌手からも声を会場の一番後ろに届かせる訓練までしたそうです。
同時にジェスチャーも大きな振りをみせ、ポストカードとしても販売されたとか。
誕生日が4日違いだったというチャプリンは、
この激昂するヒトラーの顔をみて、
もはやコミカルではなく不気味だといったそうです。

また、ヒトラーの演説には原稿はありませんでした。
キーワードが羅列されたメモだけだったようです。
群衆の興味がどこにあるかをよくみて
その時々に応じて、演説のやり方を変える。
じっくり仕込んだ演説には意味がないとまで言ったそうです。
経済的な公約よりも、国民的名誉、団結、犠牲心、献身などの
抽象概念のスローガンの方が大衆を引きつけたということだそうです。

読み終えてどうも気持ちが釈然としません。
チャプリンの「独裁者」を観て、
最後のチャプリンの演説を聞いて心が落ち着いたのでした。

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ヒトラー演説 熱狂の真実
高田博行
中央公論新社 2015年








2017年8月1日火曜日

読了メモ 「クラゲの正体 」坂田 明



読了。

著者はアルトサックスのジャズミュージシャンで
どちらかというとミジンコ研究のイメージが強かったけれど
実はクラゲにも造詣が深かったようです。
もともと水産学部出身の方だったのですね。

中身はいたって、まじめで自然科学の話です。
クラゲのいろいろと形の変わる一生を知ることができるし
ポリプやエフィラなどややこしい名前も整理してみることができました。
しかもほとんど、著者自筆の挿絵によるものです。

前半は、鹿児島で、後半はなんと江ノ島水族館での専門家との対談形式になっています。
もちろんフィールドワークにでもでかけて、生きたクラゲを採取してきて
実験室で拡大して観察して大きな歓声をあげたりします。
槍のような刺胞細胞を使った餌の取り込み。彼らは口と肛門が一緒なのです。
クラゲは体の成分がほとんど水だと言われるのを聞いたことがあると思いますが
むやみに手ですくい上げたりしないでください。
刺されることはもちろんですが、人間の体温はクラゲにとっては高すぎるので
触られるとクラゲは火傷をして死んでしまうのだそうです。
また、環境汚染によって、メスのクラゲにオスの生殖器が発生する事例があるとか。
ミジンコと同じ無性生殖をする時期はクラゲにもあるそうなのですが、
自然の摂理を人間が破壊している話しはなんとも痛々しいものです。
でも専門家や水族館の裏方の人とのそんなやりとりが実に楽しそうです。羨ましい。


今、夏本番ですが、間も無く海水浴場にもクラゲがでてくる時期になります。
わが地元の海でもカツオノエボシが打ち上げられているのをみたこともよくあります。
絶対に触っちゃだめですよ。

クラゲの展示で有名な新江ノ島水族館がせっかく近くにあるのですから
冷房も効いてるし、ちょっと行ってみますかね。

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クラゲの正体
坂田 明
晶文社 1995年