2024年は、こちらにもアップします。

2020年9月20日日曜日

読了メモ「絵本の時間 絵本の部屋」 今江祥智




読了。

大真面目な絵本論である。
形式的にはエッセイとご本人は仰っていらっしゃるけれど。

国内外の絵本作家、絵本画家、そして出版社をピックアップして
その作品、作家や画家の人物像なりを
浮き彫りにしていくお話。
時折、絵本の挿絵が出てくる程度で
基本的には活字ばかりである。
大人向けの絵本と思ったら大間違い。


絵本なので、子どもに迎えられることが
評価の物差しの一つであることは自明。
でも、あなたは大人でしょう?
一人の大人として絵本と向き合った時、
まず自分がどう思ったか、その判断から出発してください。
それには自分の文学的鑑賞力、美意識をはじめ
あなた自身が試されています。
というくだりが心にぐさりと刺さりました。

そして、気になるのはやはり戦争と差別の問題。
軍国主義に進む時、絵本の世界も
いつのまにか画一化されていき、
お話ばかりでなく、挿絵の色調や図柄まで
戦争を受け入れる方向に全ての絵本が向かっていったのだそうです。
大変恐ろしいと思いませんか。

また、差別の問題では、ちびくろさんぼの事案があります。
もともと、小さな子どもたちの
冒険活劇のリーダーとして、さんぼは
国内外の子どもたちに愛されていたものでした。
作者ももちろん、さんぼを卑下して書いたものではありません。
虎が木の周りを走っているうちに
バターになってしまうお話は自分も覚えています。
それがいつの間にかタブーな絵本となってしまった。
難しい問題を孕んでいますが、これこそ、小さな枠に囚われず、
ちびくろさんぼを強いらなよ、から、知らないよと
子供たちが考え、広い視野で世界を見てもらえるようになって欲しい。
と著者は訴えています。


本書は表紙の装丁から、ゴシックホラー的な印象さえ受けます。
大人の影に隠れてやや怯えるような少女。
文中にも書きましたが、子どもに受け入れられることは当たり前として
大人がその絵本に対してどういう考え方を持っているのか。
それ次第で、絵本は子どもをダークサイドに
誘ってしまうものなのかもしれないと思ったのでした。

=======================
絵本の時間 絵本の部屋
今江祥智
すばる書房 1975年




0 件のコメント:

コメントを投稿