2021年9月28日火曜日

読了メモ「変身」カフカ



読了。

名作ですね。
主人公のグレーゴルが、ある朝起きてみると
大きな虫になっているというお話。

背中は硬い殻がついているようなので
甲虫なのかなと思うけど
イメージとしてはゴキブリかなぁと。
日本の家庭でよく見るゴキブリは羽があって飛びますが
海外には、羽がなくて背中が硬いゴキブリがいるんですよ。

最初はもちろん、本人も肝を潰すのですけど
実際のところ、焦ってはいるけど意外に平静。
いつも通りに仕事をしたいとか、
人間らしい生活を送りたいと考えているのが可笑しい。
母親や、心配して家までやってきた職場の上司は
グレーゴルを見て怯えているにもかかわらずだ。

その中でも逞しいのが妹のグレーテだった。
母親がグレーゴルの姿を見て気絶しても
兄に、なぜ母親の前に出てくるのかと叱責し、母親を看病する。
なんとも頼しい。
彼女は両親の期待を一身に受け麗しく育っていく。
兄は巨大な虫なのに。

まぁ、未読のイメージだと
なんやら陰湿な物語かと思うのですが
これがなんとも淡々としていて、コメディみたいな感じもする。
完全にメタファーなんですね。
本質的には、本人は何も変わっていないのです。

嫡男たる兄さんはしっかりしないといけないようですな。

ページ数も100頁強ですぐ読めます。
お時間のある時にぜひ。

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変身
カフカ 高橋義孝訳
新潮社 2021年

2021年9月21日火曜日

読了メモ「あひる」 今村夏子



読了。

あひるが描かれている穏やかな装丁に
惑わされてはいけない。
本書は、ちょっと心が騒つく。
人によってはユーモアと感じるかもしれないけど
自分はゾクっと違和感を読後に感じた。

・あひる
・おばあちゃんの家(書き下ろし)
・森の兄妹(書き下ろし)

の三つの短編小説からなっている。

飼い始めたあひるの名前は「のりたま」だ。
たくさんの子どもが、のりたま目当てに庭に来て賑やかになる。
でも、のりたまは病気になって病院へ。
その間は、子どもも来ないので庭はとても静かになる。
のりたまが生まれ変わったようになって帰ってくると
また庭や家が賑やかになる。
しかし、ある日のりたまは死んでしまう。
庭にお墓を作って埋めてあげるのだが、
小さな女の子がきて、不思議なことを聞いてくる。。。。

おばあちゃんは「インキョ」と呼ばれる離れに居る。
そこに洗濯物やご飯を送り届けに行くのは、
みのりちゃんや弟の役目だ。
ある時、弟の診療のため、夜遅くまでおばあちゃんと
みのり二人でお留守番をすることになった。
みのりは、おばあちゃんに嘘をついて夜に出かけてしまうが
竹藪に迷い込み迷子になってしまう。
やっとのことで公衆電話を見つけて家に電話をかける。
電話に出てくれたのは。。。。

仲良し兄妹は、いつしか他人の敷地に入り込んでしまい、
大きなびわの木を見つけてびわを食べていた。
びわの木のそばには、小屋があり
おばあちゃんが住んでいるらしい。
「ぼくちゃん」と呼ばれてそばに行くと
飴やらお菓子やらを、小さな窓から
皺だらけの細い手を出してよこしてくれる。
が、おばあちゃんが誰かと話しているのを
家の人が知ったのか、大きな怒鳴り声で
おばあちゃんを叱る声に兄妹は驚いてしまう。。。。


と、こんな三つのお話です。
もちろん、エンディングはそれぞれまだ続くし、
細かい描写のジワジワくるところや
ハッピーエンドにも読める
読後の漂ってくる空気とかが妙な感じです。

もうお彼岸ですね。
秋になりますが、ちょっとゾワっとするお話もなかなかよいですよ。

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あひる
今村夏子
書肆侃侃房 2017年

※文庫本でのご案内です。


2021年9月13日月曜日

読了メモ「ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた」 青山 通



読了。

皆さんはウルトラセブンの最終回を覚えているだろうか。

ウルトラ警備隊のダン隊員が、アンヌ隊員に
自分がウルトラセブンであることを告げるシーンがある。
この場面で、画面は逆光に反転し、
BGMは、一転してクラシックの曲が流れ始める。

本書は、この曲がなんという曲か、作曲者は誰か、
指揮者は誰か、ピアノは誰かを
著者が執拗に追求しつきとめていく物語である。

青山氏もウルトラセブンを観たのは幼少時代で、
子ども心ながら最終回のあのシーンは、
鮮烈な印象だったのでしょう。

ヒーローものは、特に最終回は、
なんとも切ないストーリー展開が常ですが、
ウルトラセブンは子ども向け番組とはいえ、
全話を通じて、大人も十分に楽しめる作品だったのではと思います。

前作のウルトラマンは、怪獣退治の専門家として
ベムラーという怪獣を追って地球にやってきて、
科学特捜隊のハヤタ隊員の体を借りて
幾多の怪獣を退治しました。
一方、ウルトラセブンは、はじめからモロボシ・ダンとして登場。
クール星人を撃退した功績を認められウルトラ警備隊に入隊します。

ウルトラマンと異なりウルトラセブンは、
地球を狙う宇宙人と戦う話が殆どでした。
そこには、宇宙人と地球人との共生というテーマがあった
とは、よく言われているところです。

最後は、皮肉にもダンは自らがM78星雲から来た
宇宙人ウルトラセブンであることを告白し
地球人アンヌのもとを去ることになります。

著者はこの運命的に出会ったクラシック曲を探すことを通じて
クラッシック鑑賞の面白さ、醍醐味を読者に伝えており、
また後半は、ストーリーも秀逸でBGMも効果的だった
ウルトラセブンのお勧め作品を紹介するという
ウルトラセブンへの愛に包まれた一冊となっています。

それでは、その最後のシーンはこちらから。

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ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた
青山 通
新潮社 2020年


2021年9月6日月曜日

読了メモ「リトル・ピープル ピクシー、ブラウニー、精霊たちとその他の妖精」 ポール・ジョンソン



読了。

リトル・ピープルというと、
村上春樹さんの「1Q84」を思い出してしまうのだけれど
こちらは、主にイギリス、アイルランドなどで
語り継がれている精霊や妖精たちのお話です。
なかには、魔女や人魚、グレムリンなども含まれています。

そもそも、妖精自体の存在がわからないのに
妖精を見通す力を持つ人間はある一定数存在し、
その人たちは、心が正しい人というお墨付きまでついてるようです。
ちなみに、妖精の姿を見るには、よい時間帯があるそうで、
1日のうち、日の出、正午、日の入り、真夜中の四つの時間だそうです。
特に、春分の日、夏至、秋分の日、冬至、はよく見られるそうです。

もうすぐ秋分の日ですね。探してみませんか。
日本だと「座敷童」あたりでしょうか。
座敷童がいる家は栄えると言われてますよ。

そんな妖精を家にとどめておくためのルールは、
暖炉を綺麗に保つことだそうです。
そうすることで、彼らは家周りの家事や雑用をよくしてくれるとか。
使わなくなった古い暖炉でも、閉じられた煙突の周りであっても
綺麗にしておかないと、彼らはその家に
とどまることができないのだそうです。
日本だと、囲炉裏とかストーブとかかな。

では、普通一般の市井の人々が
妖精をひとめ見たいと思ったらどうすればいいのでしょう。
それは、みなさんもよくご存知の
クローバーの葉っぱを探すのです。
四葉は、彼らの姿を見ること、
五葉は、彼らの存在についての知識や理解につながり、
六葉は、彼らの秘密を告げられること
を示しているそうです。
自分は、四葉までは見つけたことあるけど、姿は見たことがないなぁ。

ただ、妖精についての気づきは
現世の考え方の延長線上ではなく、全く異なる感情となって
もう一つの世界に気づくことなのだそうです。
想像もしていなかった
新しい世界が目の前に見えてくる。
なんか、夢があっていいですね。

そんな妖精に会ってみたいと思うこの頃です。

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リトル・ピープル ピクシー、ブラウニー、精霊たちとその他の妖精
ポール・ジョンソン 藤田優里子訳
創元社 2010年