2024年6月30日日曜日

読了メモ「NHKラジオ深夜便 絶望名言」頭木弘樹/NHKラジオ深夜便制作班/川野一宇/根田知世己

 


読了。

NHKのラジオ深夜便で放送された企画を書籍にまとめたもの。
文学作品の中から、絶望的な文言を紹介しながら解釈を加えていく。
少し視点を変えてみたり、作品の背景を含めて受け止めてみると、
生きていて辛いと絶望に苛まれる読者に寄り添う救いの言葉になるという。

登場する作家は下記の通り。
錚々たる面子である。

 第1回放送:カフカ
 第2回放送:ドストエフスキー
 第3回放送:ゲーテ
 第4回放送:太宰 治
 第5回放送:芥川龍之介
 第6回放送:シェークスピア
 第7回放送:中島 敦
 第8回放送:ベートーヴェン
 第9回放送:向田邦子
 第10回放送:川端康成
 第11回放送:ゴッホ
 第12回放送:宮沢賢治

番組のパーソナリティの頭木さんは、カフカの翻訳などで活躍されており、
初回がカフカなのは当然だろう。
頭木さん自身、20歳のころに潰瘍性大腸炎という難病を患い、
20〜30代にかけて将来の見えないそれこそ絶望的な辛い時期を過ごしたという。
聞き手であるNHKの川野アナウンサーも脳梗塞の経験がある。
このような二人だからこそ、文言の解釈はリスナーや読者の心に深く残る。
ラジオらしい企画としては、絶望音楽というコーナーが毎回あり、
これもひたすら切なく寂しい曲がながれる。書籍だと聴けないのが残念。
最後には、とりあげた作家に関する書籍の紹介もあり
こちらは読書好きにはそそられる趣向だ。

絶望名言をいろいろ紹介したいところだが、
とても余白がたりないので、表紙の装丁に載っているものは
書影をみていただくとして、裏表紙の装丁に載っているものを
以下に紹介しておく。

 「あきらめとは、なんて悲しい隠れ家だろう。

 「どうせ生きているからには、苦しいのはあたり前だと思え。

 「あの人の弱さが、かえって私に生きて行こうという希望を与える。


以下はAmazonへのリンクです。

 頭木弘樹/NHKラジオ深夜便制作班/川野一宇/根田知世己
 飛鳥新社 2023年




2024年6月25日火曜日

2024年5月読了本 7冊

 読了本のリンクはAmazonへ    
(必ずしも同一の本とは限りません)


遅くなりましたが、5月の読了本の一覧です。

1)11の物語
        パトリシア・ハイスミス
        小倉多加志 訳
        早川書房 2024年
        読了日:2024年5月5日
        ・映画「PERFECT DAYS」での小道具文庫本三冊のうちの一冊。


         澁澤龍彦
         東 雅夫 編
         河出書房新社 2017年
            読了日:2024年5月7日
            ・澁澤龍彦氏の数あるエッセイから選び抜びぬいたエッセンス集。
          今後、澁澤氏の作品はもちろん、夢野久作、小栗虫太郎、久生十蘭、
             泉 鏡花などの作品が読みたくなったのは言うまでもない。


         栗原 康
         医学書院 2023年
            読了日:2024年5月12日
            ・新しい書き方のナイチンゲール伝。文体には最後まで馴染めなかったが
             痛快で面白かった。ナイチンゲールって本当にすごい人だったんですね。


            西尾維新
            講談社 2018年
            読了日:2024年5月16日
            ・眠ってしまうとその日の記憶を忘れてしまう忘却探偵。
                五つの話も微妙につながっていて、まさに「備忘録」。


5)「和菓子のアン
            坂木 司
            光文社 2021年
            読了日:2024年5月21日
            ・和菓子の名前の由来や製造方法に関する蘊蓄や隠語がたくさんでてくる。
             デパ地下食品売り場のという独特の空間で展開するお話。
                お茶でも飲みながらお楽しみください。


6)「地獄の季節
            ランボオ 小林秀雄 訳
            岩波書店 2013年
            読了日:2024年5月24日
            ・ときどき詩をよみます。今回はあのランボオに挑戦。
    人生は茶番ではないのです。


7)「河童の日本史
            中村禎里
            日本エディタースクール出版部 1996年
            読了日:2024年5月31日
            ・ガッツリ硬派な河童の歴史のお話。
                河童は胡瓜と相撲が好きなのは全国共通のようです。
                なんとカトリック宣教師が河童のモデル??







2024年6月22日土曜日

読了メモ「河童の日本史」 中村禎里

 

読了。

ガッツリ硬派な河童の歴史のお話。

序章は「古事記」や「日本書紀」から始まる。
もちろん、そんな昔から河童の話があるわけではなく
まずは河童のルーツを探る旅からスタートだ。
因幡の白兎がその背中を伝って海を渡ったという「わに」
あるいは「サメ」や「くじら」にはじまり、
それらが淡水域に入ってきて「へび」になり
「かわうそ」や「すっぽん」と移り変わっていく。
人間の生活圏に近づくにつれて小粒になっていくのが面白い。

河童は実在しないと表紙にもあるが、
日本各地に河童の伝承がたくさんあることがわかる。
本書で取り上げているのは九州での文献や伝承、
年代は18世紀末〜19世紀前半が多い。
河童の識者の中には、あの平賀源内の名前もあった。
また、当時の資料に残る河童の姿はまちまちでも、
頭頂部が凹んで皿のあるもの、
サイズ感としては子どもなみというあたりが共通しているらしい。
手足の指の数もばらばらだったり、
全身が毛に覆われていたり甲羅があったりなかったりする。
どちらかというと「サル」に近いかもしれない。

一方で、寿司屋で胡瓜の海苔巻きをカッパと呼ぶように
河童は胡瓜が好きであり、
また、河童は人と相撲をとりたがる、
などの習性は共通しているようだ。
河童の特殊な能力として、
水中に引き摺り込もうとした人間に手を切断されることがあっても
その際、河童は手を再び接ぐことができたらしい。
「河童の手」のミイラがどこそこのお寺にあるという話も
こんな話と関連があると思われる。

河童伝承の要素の一つに
水天宮を起点とする平家落武者伝説や
キリシタン、すなわちカトリックの修道僧までも
検証のスコープに置いているのも面白い。
月代が乱れた武士や宣教師の中剃りのヘアスタイルは
河童のイメージと重なる。

最後に著者は本書は文献に基づく検証であって、
全国に口承で伝わる河童の話までには触れておらず
まだまだ充分でないことをあげている。
河童の話はもっと奥が深そうである。


以下はAmazonへのリンクです。

 中村禎里
 日本エディタースクール出版部 1996年

2024年6月14日金曜日

読了メモ「地獄の季節」ランボオ 小林秀雄 訳

 

読了。

ときどき詩を読みます。
今回はあのランボオに挑戦。

詩では、言葉から醸し出される蒸気のようなものを感じることが好きなのですが、
海外作品の場合、当然ながら和訳された詩を読むことになります。
ですから、原文とは異なる言葉で読むことが大前提になるわけで、
誰がどう解釈して和訳したかで受け取り方は変わってくるわけです。
どの文芸作品もそうですが、小説やエッセイなどよりも
詩については訳の果たす意味合いは大きいのではと思います。
今回の場合は、かの小林秀雄さんでした。
ところで、あの中原中也さんもランボオの詩を訳されているというので、
読み比べてみたいなとも思ったものです。

難しい散文詩でしたけれど、訳者後記でふり返ったり、
作者に関する情報をときどき漁りながら読んでみると
読み留まるところもありました。

季節もわかたず街道を行き、あの世のように食も断ち、
 物乞いらの尤物(ゆうぶつ)よりも利慾を離れ、
 郷もなく友もないこの身を誇り、
 ああ俺の少年時、想えば愚かな事であった。」(p50「地獄の季節 不可能」より)

「不可能」という詩のこの冒頭の部分などは、
ランボオが家出を繰り返していたことや、
傾倒していたヴェルレーヌとの放浪生活、
道中でのアクシデントなどがわかると感じ方も変わってきます。

また、こんな部分こそ訳によって大きく変わってくるところかなと思うのですが、
描かれている「色」についての捉え方です。絶妙だと思います。

俺は、樅の林を透かして髪を振り乱すブロンド色の滝に笑いかけ、
 銀色の山の頂に女神の姿を認めた。」(p107「飾画 夜明け」より)

銀(しろがね)と銅(あかがね)の車
 鋼(はがね)と銀(しろがね)の船首(へさき)が
 泡を打ち、
 茨を根元から掘り起こす。」(p112「飾画 海景」より)

群青(ぐんじょう)の海峡から、オシアンの海へ、
 葡萄酒色の空に洗われた、
 薔薇色、柑子色(こうじいろ)の砂の上に、
 青物屋で腹ふくらす若く貧しい家族らが、
 放埒(ほうらつ)に軒を並べた水晶の大通りが、
 今、浮き上がり重なり合った。
 一片の富もない。 街。」(p116「飾画 メトロポリタン」より)

最後に、小林さんの訳者後記から。
家出してアビシニヤで必死に生きあがいていたランボオが、
家族に宛てた書簡から一文を紹介して終わりにします。
この書簡そのものもまさに詩だったのですが。。。

これが人生です。人生は茶番ではない。」(p146「訳者後記」より)


以下はAmazonへのリンクです。

 ランボオ 小林秀雄 訳
 岩波書店 2013年


2024年6月9日日曜日

読了メモ「和菓子のアン」 坂木 司

 

読了。

帯や紹介文にミステリーとあったが
そんな大袈裟なものではない。

舞台は、デパ地下の食品売り場にある和菓子屋「みつ屋」。
表紙の饅頭にも焼き印がある。
高校を卒業した梅本杏子、通称アンちゃんがこのお店でアルバイトを始める。
店長は、バックヤードで株取引をやってはいるが売り残しを出さない椿さん
あとは、和菓子職人経験があってイケメンだけど乙女チックな立花さん
アンちゃんと同年代の元ヤンで恋多き桜井さん
この4人でお店を回していく。

来店するお客さんとの会話やちょっとした出来事を
みつ屋の4人でひも解きながら解明していくというお話。
謎解きというよりも、和菓子の蘊蓄の展開が面白い。
季節ごとに名前の変わる牡丹餅・お萩はいうにおよばず
言い回しを洒落て名前に当てる和菓子の隠語がたくさんでてくる。
そんな独特の専門用語を使ったやりとりは初めて聞く話ばかり。
和菓子を作る際の餡や求肥、寒天などの材料のほか
作り上げる際の切り込みの入れ方や型をとる木型などの話も興味深い。
特に上生菓子の成り立ちは茶道やその作法とも関連性があり
店長の椿さんの知識の深さは計り知れない。

お客さんからは見えないバックヤードの動きや
他の洋菓子店や酒屋とのやりとりも目新しい。
食品売り場ならではの隠語もありました。

日本茶でも飲みながらいかがでしょうか。
デパ地下にも行ってみたくなりますよきっと。

以下はAmazonへのリンクです。

 坂木 司

 光文社 2021年

2024年6月4日火曜日

読了メモ「掟上今日子の備忘録」 西尾維新

 

読了。

読むのは初めましての今日子さんシリーズ。
その日の記憶は、眠ったらすっかり忘れてしまうという設定の忘却探偵。
タイトルが「備忘録」というのも頷ける。

本書には五話が編まれていて、
それぞれに今日子さんによる「謎解き」があるわけだが、
話が丁寧に時系列に並んでおり、一つ前や二つ前の話が話題にでてきて、
全体として一つの話のようにも読める。
ここは作者のストーリー構築のうまいところか。

語りは、冴えなくてやたらと嫌疑をかけられやすいタイプの
無職で求職中の身長190センチで25歳の隠館厄介。
掟上今日子と隠館厄介でわかる通り
本作品の登場人物の名前はいちいち癖が強い。
おかげで、登場人物の名前は注釈がなくともしっかり覚えていられる。

最初の話は、研究所内でのSDカード紛失事件、
二つ目は、売れっ子漫画家の100万円札束盗難事件、
三つ目は、大御所推理作家の最新原稿探索案件、
四つ目は、三つ目の推理作家の死因特定案件の前編
五つ目は、その四つ目の解決編となる。

こうみると血みどろ怨恨の殺人事件の話などはなく、
何日もかけて、地道捜査をしていく展開ではない。
なにせ名探偵は眠ってしまったら記憶が消えてしまうのだから。

かなり無理矢理な設定も相まって面白く一気に読めてしまいました。
確か、ガッキーが今日子さん役でテレビドラマもやってましたね。


以下はAmazonへのリンクです。

 西尾維新
 講談社 2018年