2024年7月29日月曜日

読了メモ「バナナ剥きには最適の日々」 円城 塔

 

読了。

相変わらず朝の霧の中を歩いているようなわからない話ばかりだった。

それでもついつい手を伸ばしてしまう。結局、面白いのだ。


自分もわけがわからなくなってしまうが、

立場が違えば見方が違ってくるよねとよく言うけれど、結局同じことなんじゃないか。

物事を立体的にみると不思議と道理が通ったりもするし。


例えば、「ないはないはないってこと」ということは、

ないということがあるとも言えるのではないかとか考えてしまう。

また、バナナは3枚皮で剥くか4枚皮で剥くかは、

バナナにはわからないという話を

宇宙人であるバナナ星人の視点で考えてみたりする。


話のタイトルからして読者に挑戦してくる作品もあった。

小説のタイトルと作者名が表記されているのだが、

どっちがタイトルで、どっちが作者名かは、どこにも明記されていない。

もしかしたら本文も含めて、どれがどれを書き表しているのだろうかという話。

つまり、文を読まれる作り手側の者は文章を作成しているわけだが、

読む者も相互に文章を作成しているという見方。

しかも読む者は無意識のうちにこれを行っている。

これをここでは自動生成と呼んでいた。


他にも、分裂して増殖するゾウリムシは輪廻の思想を持つのだろうかとか、

傷だらけの自分の背中が目の前に見えたりとか、

あなたの見ている彼女の見ているあなたの見ている彼女の見ているあなたでは、

もう人間の情報処理系が追随できないこととか。

異星人が地球にいまだにメッセージを送ってこないのは、

実は人間そのものがメッセージなのだという発想の転換。


こんなわからないけどおもしろい話が満載です。



以下はAmazonへのリンクです。

 円城 塔
 早川書房 2014年


2024年7月22日月曜日

読了メモ「EPICソニーとその時代」スージー鈴木



読了。


書影にはないが帯のキャッチコピーがよかった。

『「80年代」と書いて、「EPICソニー」と読む。』

自分も学生だった時代を思い出す。


本書の前半は、EPICソニーのアーティストたちとその楽曲の紹介。ばんばひろふみ、シャネルズ、佐野元春、一風堂、ラッツ&スター、THE MODS、大沢誉志幸、渡辺美里、大江千里、BARBEE BOYS、小比類巻かほる、遊佐未森、TM NETWORK、ドリームズ・カム・トゥルー......。気づくとメロディを鼻歌しながら、ネットで楽曲を探してしまってた。


なかほどでは、EPICソニーという会社の歴史をたどる。「ロックの丸さん」と呼ばれ、レコード大賞獲得レースや紅白出場とかの話が大嫌いだった同社社長を務めた丸山茂雄さんの反骨精神満載の話は痛快で面白い。「東京」をイメージした都会的ロックしか品揃えしない戦略も思い切りがよくてスカッとさせてくれる。後述の佐野元春さんへのインタビューにもつながるが、CCCD(コピーコントロールCD)への反旗や楽曲のネット配信についての考え方など先も見ていた。


そして貴重な二つのインタビュー録で本書は締め括られる。一つは小坂洋二さん、もう一つは佐野元春さんへのインタビュー。小坂さんはEPICソニーで数々のアーティストを成功させたプロデューサー。その意外な経歴や丸山さんとの関わりの話はつきない。続く、元春さんのインタビューも最高に面白い。大瀧詠一さんから受けた影響の話は興味がつきないし、メロディへの日本語の乗せ方の妙は、今聴き直してもかっこいい。


読後は元春さんの曲が脳内ヘビロテになったことは言うまでもない。「アンジェリーナ」のギターが今でもギュルギュルいってる。


最後は、元春さんの「ガラスのジェネレーション」からこの一言かな。


「♫つまらない大人にはなりたくない」



以下はAmazonへのリンクです。

 スージー鈴木
 集英社 2021年


2024年7月17日水曜日

2024年6月読了本 3冊

  読了本のリンクはAmazonへ    
(必ずしも同一の本とは限りません)

1)NHKラジオ深夜便 絶望名言

        頭木弘樹/NHK〈ラジオ深夜便〉制作班/川野一宇/根田知世己
        飛鳥新社 2023年
        読了日:2024年6月10日
        ・ラジオ番組の書籍化。絶望に堕ちていなくとも救われる。


2)眠れる美女

        川端康成
        新潮社 2019年
        読了日:2024年6月17日
        ・川端さんのイメージがガラリと変わった一冊。ジワジワきます。


        岩瀬達哉
        講談社 2021年
        ・「どくいり きけん 食べたらしぬで かい人21面相」


        



2024年7月15日月曜日

読了メモ「キツネ目 グリコ森永事件全真相」 岩瀬達哉


読了。

「どくいり きけん 食べたらしぬで かい人21面相」


1984年3月、当時の江崎グリコ社長の江崎勝久氏誘拐に始まった

菓子メーカーや食品メーカーなどを脅迫した一連の事件。

全真相とあるが、迷宮入りなので犯人は特定されていない。

12年におよぶ取材に基づき、警察、脅迫された企業、流通/菓子/食品業界、

マスコミ、被害者家族の言動や心境、思惑をつぶさに綴っている。


通称「グリコ森永事件」だが、多くの企業が脅迫被害にあっており、

丸大食品、ハウス食品、不二家、明治製菓、

雪印乳業、西友、ダイエーなどの大手企業の他、

中堅食品メーカーにも犯人の脅迫はおよんでいた。

「どくいり きけん」のシールが貼られた青酸ソーダ入りの菓子が

スーパーの棚から発見されたが、死者は幸いにも出なかった。


かい人21面相からの脅迫状は全147通あり、本書の中でも多くが引用されている。

大手企業や警察など巨大資本や国家権力を相手に揶揄嘲笑し、

世間を馬鹿にした文面を読み返すと今さらながら底冷えのする恐怖を覚える。

脅迫された企業が、犯人との裏取引に応じるかを逡巡する様子もあり、

当時の緊迫した情況もうかがわれる。


一方で、警察内部での明らかなミスや本庁と府県警本部間だけでなく、

府県警察間での意思疎通の不備、現行犯逮捕捜査方針への過度の固執、

捜査情報のリークなども指摘されており、

硬直化した警察組織の問題の大きさも語られている。

そして、捜査のプレッシャーに耐えられず警察責任者の自殺があった。


2000年で全事件の時効が完全成立し、

犯人は法に裁かれることはなくなってしまったが、

犯人が使ったと思われる帽子が実は押収されており、

そこから犯人の毛髪がみつかりDNA鑑定までされているとのこと。



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 岩瀬達哉
 講談社 2021年


2024年7月7日日曜日

読了メモ「眠れる美女」川端康成

 


読了。

「雪国」を読んだ時などは、なんと文章が綺麗で

日本の情景をここまで美しく表現した作品は初めてと感嘆したものだが、

本書を読んで、川端さんのイメージがガラリと変わった一冊。


「眠れる美女」

「片腕」

「散りぬるを」

の三篇だが、どれもジワジワくる。


眠れる美女は、六七歳の江口老人が宿屋で女性に添い寝をする話。

女性は薬を飲まされており眠ったままで目覚めることがない。

そんな設定からして異常なのだが、眠り続ける女性の肢体や、

これまでの人生を思いかえしながらの江口老人の女性への接し方、

その心中での葛藤、それらの描写はさすがではある。

気になる存在は、世話役の宿屋の女で、

そのキレキレの言いようが

江口老人とのコントラストを際立たせ、

宿のかくれた不穏な空気を匂わせる。

女優の大地貴和子さんを彷彿とさせるのは自分だけだろうか。


片腕はより一層異様な話だ。

娘から右の片腕を借りるという。

はては自分の腕と付け替えることができるという。

しかも、その腕はしゃべるし、笑みも浮かべる。

激しい妄想と言われればそうかもしれないが

娘と私の片腕の生々しい描き方にはゾッとする。


散りぬるをは、殺人事件とその犯人の供述にまつわる話。

犯人は警察に問い詰められるままに自白をするが

精神鑑定人、警察、検事局、公判など

それぞれの場で話していることが微妙に異なっている。

実はその犯人は獄死しており、書類上の記録しかもはやなく

殺人の動機もはっきりせず、被害者の面影を求めることもできない。

一方で機械である写真機はむれるような生命をとらえていた。

最初、供述記録を日記のように読んでいた主人公は

法官や犯人の記録と一緒になって小説を合作したのだと気づく。


忘れるにまかせるということが、

 結局最も美しく思い出すということなんだな。」(p187)


という台詞が印象に残った。


ちなみに解説は三島由紀夫さんですが

この三作品を絶賛してました。



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 川端康成
 新潮社 2019年