2024年7月7日日曜日

読了メモ「眠れる美女」川端康成

 


読了。

「雪国」を読んだ時などは、なんと文章が綺麗で

日本の情景をここまで美しく表現した作品は初めてと感嘆したものだが、

本書を読んで、川端さんのイメージがガラリと変わった一冊。


「眠れる美女」

「片腕」

「散りぬるを」

の三篇だが、どれもジワジワくる。


眠れる美女は、六七歳の江口老人が宿屋で女性に添い寝をする話。

女性は薬を飲まされており眠ったままで目覚めることがない。

そんな設定からして異常なのだが、眠り続ける女性の肢体や、

これまでの人生を思いかえしながらの江口老人の女性への接し方、

その心中での葛藤、それらの描写はさすがではある。

気になる存在は、世話役の宿屋の女で、

そのキレキレの言いようが

江口老人とのコントラストを際立たせ、

宿のかくれた不穏な空気を匂わせる。

女優の大地貴和子さんを彷彿とさせるのは自分だけだろうか。


片腕はより一層異様な話だ。

娘から右の片腕を借りるという。

はては自分の腕と付け替えることができるという。

しかも、その腕はしゃべるし、笑みも浮かべる。

激しい妄想と言われればそうかもしれないが

娘と私の片腕の生々しい描き方にはゾッとする。


散りぬるをは、殺人事件とその犯人の供述にまつわる話。

犯人は警察に問い詰められるままに自白をするが

精神鑑定人、警察、検事局、公判など

それぞれの場で話していることが微妙に異なっている。

実はその犯人は獄死しており、書類上の記録しかもはやなく

殺人の動機もはっきりせず、被害者の面影を求めることもできない。

一方で機械である写真機はむれるような生命をとらえていた。

最初、供述記録を日記のように読んでいた主人公は

法官や犯人の記録と一緒になって小説を合作したのだと気づく。


忘れるにまかせるということが、

 結局最も美しく思い出すということなんだな。」(p187)


という台詞が印象に残った。


ちなみに解説は三島由紀夫さんですが

この三作品を絶賛してました。



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 川端康成
 新潮社 2019年




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