2025年1月2日木曜日

読了メモ「招かれた天敵 生物多様性が生んだ夢と罠」 千葉 聡 著


 読了。

「招かれた天敵 生物多様性が生んだ夢と罠」
 千葉 聡 著
 みすず書房 2023年3月

人間にとっての有害生物を撲滅するために、天敵となる生物を国内外から導入し、それがことごとく失敗していった歴史を綴り、人間が自然界とどう向き合っていけばよいかを綴った一冊。

冒頭は、あのレイチェル・カーソンの「沈黙の春」の一節が引用される。殺虫剤の大量散布による化学薬品汚染で、毎朝さえずっていた鳥たちが消えてしまった田舎町。害虫防除にまつわる環境問題に光をあてた功績は大きかったが、化学薬品を使わない天敵導入による害虫防除は古くから行われてきた。中国では1,700年前から柑橘類保護のためアリを活用し、欧州ではテントウムシやクサカゲロウを利用したアブラムシ駆除が13世紀から知られ、18世紀にはカタツムリを使った果樹に着くコケ対策、バッタ退治のため放たれたムクドリなどの歴史がある。しかし、19世紀以降になると、人間の交易が地球規模になるにつれ、外来生物、及び有害生物は爆発的に増え始める。それに拍車をかけたのは英国で発足した「順化協会」。あらゆる生物を英国へ導入し、英国と植民地との間での生物の交換を実施し、自然資源を増加させるというもの。その結果、有益な動植物を増やすという事業は有害生物を増やすという副産物を大量に生み出してしまう。こう見てくると、外から持ち込まれた外来生物だけが有害と見做されがちだが、環境改変によって在来生物が侵略的にもなる。例えば、単一作物を大量に栽培することで、単純な生態系となり在来生物が大量発生し害虫化するのだ。
本書はこのあと、さまざまな有害生物とそれに対する天敵導入による防除の取り組みを克明に記述していく。駆除対象は昆虫ばかりではない。繁茂する雑草などの植物相手の話もある。オーストラリアでのウチワサボテン対策の話は海や国境を超えた自然界、産業界を巻き込んだ事例として耳目に値する。本書の最後にある筆者が取り組んだ小笠原諸島でのカタツムリの生態系維持の話も壮絶だった。巻末にもあるが、人間はことごとく歴史から学ばなければいけないことがたくさんあると思い知らされた。

本書のなかほどに、米国ワシントンに送られた日本の桜に害虫がいた話があった。その桜は焼却され、現存するワシントンの桜は、その後、日本からあらためて送られたものだそうだが、その時の日本側の応対がいかにも日本的だったことを記しておく。

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