2025年1月4日土曜日

読了メモ「今夜、すべてのバーで」 中島らも 作

読了。

「今夜、すべてのバーで」
 中島らも
 講談社 2020年12月

アル中の話。十中八九、私小説ではないかと思う。作中に、アルコール依存症のスクリーニングテストなるものがあって、主にはい、いいえで答え、その点数によって依存度合いを計るというものがあった。思わず自分もやってみたが、自分はもうアルコールを辞めてしまったので面白い結果にはならなかった。当然ながら主人公である小島さんの点数は凄まじい。なにせ、冒頭から医師よりひどい黄疸だとの診断を受け呆れられているのだから。
主人公は作家でもあることから、アル中の資料を集め勉強しながら酒を飲むという。自虐的なのだけれど、内服薬についてもやたら詳しく薬剤師顔負け、読んでる側もいろいろ知識が増える。アル中による幻覚症状が起きる話の解説では顰めっ面になるし、データで見るアルコール依存による死者の数は実は半端ないこともわかる。
自分は、先日、暇と退屈に関する哲学書を読んだからなのか、アル中の要因は「ありあまる時間にある」と本作で述べている箇所が引っかかった。労働時間が短縮され平均寿命が伸びていく中で、「空白の時間」に人はアルコールに溺れてしまうというのだ。ここで主人公は言う。

 「「教養」のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。
 「教養」とは学歴のことではなく、
 「一人で時間をつぶせる技術」のことでもある」(p157)

治療にあたる口の悪い医師とのやりとりが面白いし、それもいちいち納得のいく話ばかり。その話を主人公も真摯に聞いている。酒好きとしての持論も展開し正当化しようとするが、少なくとも言えるのは、主人公はこのまま酒を飲み続けたら死ぬということ。そして話はアルコールで侵された内蔵の話から精神医療の話につながる。最後は精神科でアルコール依存症治療を綴った論文のコピーで締め括られる。

アル中のはちゃめちゃなドタバタ劇かと思いきや、いたって真面目な話だった。アルコールを飲まない人にもきっと参考になると思う。酒好きには襟を正して読んでほしいと思う。読後はきっと牛乳がいつも以上に美味しく感じられるはずだ。


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