2016年7月20日水曜日

読了メモ「イマジネーションの戦争」芥川龍之介 他



読了。

全20巻になる「戦争と文学」コレクションの第5巻。
20巻は現代編、近代編、テーマ編、地域編に分かれていて
本書は現代編のなかの一つ。

芥川龍之介、安部公房、宮沢賢治ばかりでなく
星新一や筒井康隆、小松左京の他に
三崎亜紀や田中慎弥という最近の作家の作品まで
全部で19作がおさめられている。
懐かしく読めたのは赤川次郎。


ノンフィクションばりの撃ち合う戦争シーンがあるわけではない。
あえて言えばSFと言ってもいいかもしれない。もしくは幻想小説か。
タイムスリップあり、ナンセンスあり。
なかには、ミサイルを擬人化して生き様を語らせる話などもあって、
現実にはない世界の中で戦争が描かれている。
ただ、どれもが妙に肌身にひしひしと迫る感じがあって気持ちがざわつく。

いくつか読んでいて思うに、
戦争状態に置かれるとはどういうことなのか。
それは、人が殺し殺されることではあるが
その極限の境地にいたる前に、
もしくは最前線とは遠くかけはなれたところで
基本的な人権がないがしろにされていくということが
これらのフィクションを読んでいてとてもよくわかる。
また、そのために市井の人々の意識が、
少しづつ少しづつ変わっていってしまう様がとても恐ろしい。


・歴史があるから戦争がおこるんじゃないぞ。
 戦争を起こすために歴史が必要なんだ。

・奉仕活動の中に自衛隊への入隊なんてものがどうして入っていると思う?
 建前はボランティア。現実は徴兵制。

・こんなことになるのなら、それこそ兵役にでも行って
 鍛えられてきた方がいいかもしれない。

・二度と政治に無知な一般大衆に国の運営を任せてはいけません。
 選挙などというものはもってのほかです。政治に携わってよいのは
 深い知識と高い知力を持つエリートだけなのです。


19の作品の一つ一つは、別々の話ではあるけれど
昨今のきな臭い話題が目の前をかすめていると、
とても空想の話ですまされないような気がしてくるのは
たぶん自分だけではないと思う。


芥川龍之介の話は、誰もが子供の頃から知っている「桃太郎」。
だが、桃太郎は英雄ではなく、
鬼を容赦なく切り殺す殺戮者として描かれている。
生き残った鬼が恨みをはらすために復讐にきて
家来の雉や猿、犬を餌食にしたり、
残虐な桃太郎を無数に孕んでいる桃のなる木が最後に出てきて
とても背筋が寒くなる思いがした。

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イマジネーションの戦争
芥川龍之介、安部公房、筒井康隆、伊藤計劃、モブ・ノリオ、
宮沢賢治、小松左京、秋山瑞人、三崎亜紀、青来有一、
星野智幸、星 新一、山本 弘、田中慎弥、稲垣足穂、
内田百間、高橋新吉、赤川次郎、小島信夫
集英社 2011年


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