読了。
「檸檬」を読んだのは中学生の頃だったと思う。
鮮やかなレモンイエローのことしか覚えていなかったが、
今回、読みなおしてみて、
丸善の雑多な色のなかに置かれた檸檬の色が
そしてその紡錘形の形が、
ひときわ際立っていたことがとてもよくわかった。
短編小説21編がおさめられているが
小説とはあるものの、どれもストーリー性を感じない....
といったら怒られるだろうか。
むしろ、写生というか投影というのか
そこにある色合いや情景を思い浮かべることが多い。
田んぼや山の峡間に広がってぼうとしている除蟲燈。
夕暗に浮かんで見える濃い白粉の顔。
両の掌の中で美しい灯をはなつ蛍。
雨後に窓を開け放って走り去る電車の中の美しい人。
遠くまで続く情景、目の前の細やかな色彩、
まるで絵を見ているような感じだ。
そんななかで、ちょっと異彩な印象を持ったのは
「ある崖上の感情」という作品。
一言でいえば、「覗き」なのだけど
人はある隔絶された状況をたてにして
自他を全く相容れようとせず
さらにその深みから抜け出せないようなことを書いている。
これって、そういう状況に知らず知らずのうちに
陥っていることってあるなと。
そのことに気づけばまだいいのですが
永遠と気づかない場合もたぶんあるように思う。
と、多少息が苦しくなるような話もあるけれど、
21ある小説の中では、「檸檬」はもちろん
「城のある町にて」などが好き。
綺麗な情景描写がいいのです。
それと、本書は漢字が旧漢字のまま。
読むのに難儀はするけれども、
その漢字の読み方にまた味があってよいです。
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梶井基次郎 小説全集
梶井基次郎
沖積舎 2007年
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