2020年3月7日土曜日

読了メモ「イカ干しは日向の匂い」 武田 花



読了。

著者は、写真家であり、
「富士日記」で有名な武田百合子さんのお嬢さん。
もちろん、私よりずっと年上の方です。

お母さまの百合子さんの作品は何冊か読みました。
好きな文章家のお一人です。
さすがにそのお嬢さんだけあって、
本書を読むと情景や漂う空気が脳裏に染み込んできて
なんというのか、とても心が落ち着きます。

主に日本の小さな田舎やちょっとひなびた市街地を訪れ
そこでの一両編成のローカル線に乗ったり、
名産品なのかわからないけど街の人にすすめられて食べ歩きをしたり、
お爺ちゃん、お婆ちゃんたちとの会話、
有名な観光地でも一本内側の裏通りを散策したりと
そんなゆっくりとした時間が流れるエッセイです。

一方、都会の話もあります。
代々木公園で酔い潰れた青年を助けて、
警察や救急車まで呼ぶのですけど
その青年は、懲りずに公園の別の宴会に
潜り込んでお酒を飲んでいたりする。
明日はバイトで朝が早いのにと叫んでいたくせに。


そして、ふんだんに使われている
花さんが撮られたモノクロ写真がとてもいい。
街の片隅にたたずむ猫たちの写真が多くあり、
古い街並みや、廃れた商店街のアーケード
廃墟の前に停まっているシボレー、
空き瓶、提灯、看板の落ちかけたお店、
いや〜、なんとも言葉では言い表せない
その街々の雰囲気が確かにあるのです。

タイトルにある「イカ干し」はスルメイカのことだそうです。
本書のどこかに、くるくる回るイカ干しの写真があるので
手に取られた方は探してみてください。
きっと、日向の匂いがしますよ。

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イカ干しは日向の匂い
武田 花
角川春樹事務所 2008年


1 件のコメント:

  1. これは! 興味あり。
    お母様の富士日記、ほかも読みました。

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