2020年8月31日月曜日

読了メモ「四とそれ以上の国」 いしいしんじ




読了。

最後に著者の作品を読んだのが2017年だったので
久しぶりの いしいしんじワールドだった。
もちろん、積読にはまだ何冊もあるけど。

今回は、全て香川、徳島、愛媛、高知の「四国」が舞台になっていて
「塩」、「峠」、「道」、「渦」、「藍」という
五つのタイトルのお話が詰まっている。
ところが、全編に渡って、なんと言ったらよいのか、
時空を超えたような闇の世界が一筋走っている。

四国というと、以前、邦画で「死国」という映画があったり
本書にも出てくるお遍路さんの話があったりで、
なかなか霊感の強い土地柄というイメージを持っている。
四国出身の方々には大変申し訳ないけれど。

一方で、豊かな自然と透明度の高い河川がながれていたりと
それも合わせて、本州などにはない独特な雰囲気のあるところだと思う。

主人公と離れた魂というのか
別の違う視点でみている視野、もう一つの世界観が語られていて、
よく言えば、ファンタジー、
いじわるな言い方をすれば、ダークサイドストーリーとでも言おうか。


最後まで読んで感じてきたのは、
著者が何か模索をしているのではないのかということ。
五つの短編小説の内容云々というよりも、
著者が苦しんでいる感じがしていてしょうがない。
物語を描きながら、もう一つ別の世界を探し求めている。
それが、話に暗い影のある情景を描いたり
ありえない事象を目の前で起こさせたりしている。

なので、読む人によっては、途中で嫌になってしまうかもしれない。
自分はなんとか最後まで読むことができたが、
読み切ったというさっぱりとした読後感はない。

敢えて、もやもやしたい人は、チャレンジされていはいかがだろうか。
決して、ホラーではない。
でも、著者が何か悩んで探し続けている様を感じる
そんな稀有なお話が集まっている。

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四とそれ以上の国
いしいしんじ
文藝春秋 2008年





2020年8月26日水曜日

読了メモ「文化系女子という生き方 『ポスト恋愛時代宣言』!」 湯山玲子



読了。

サブカルのあるある系の本ではあるが、
やけに理屈っぽくて、私のようなおじさんには
ふ〜ん、そうなのかねぇ〜と思うところもあれば
なるほど、そういうことなのかぁ と変に感心するところがあったり。

「とうとう、女性が恋愛から逃げ出し始めました」
と始まって、年齢を問わず女性が
あらゆる文化教養の領域に踏み込んでいくというお話。
歴史上からは、与謝野晶子や林芙美子がその筆頭にあげられ
彼女たちの二項対立ではない、相互補助的な
人間関係の深さを学ぶべきではないかと説いています。

また、日本における少女文化の最大級の成果は
少女漫画にあるとして、学園恋愛ものから
SFや果ては同性愛や今やBLに至るまで、
文学的ストーリーと洗練された絵で表現された
世界は驚嘆に値すると。。。。あっ、BLは少女漫画ではないか。
一方で、ポプラ社が出した少年探偵シリーズや
怪盗ルパンシリーズは、男の子ばかりでなく女の子も
夜の闇の世界、大人の背徳感のある世界に連れて行ってくれたと。
自分もポプラ社のこれらのシリーズはほぼ全巻読みましたよ。

この後、ユーミンの話が出てきたりもするわけですが、
ただ、気を付けなければならないのが
世の中、出世やブレイクのためのハシゴを外されることは多々あるということで
年齢を重ねるにつれて、自ら進化して、思いつきから脱却して、
キャラを利用しない本格的なものになっていかなければならない。
ただし、それをできる人はなかなか少ないらしいということだそうです。
面白い子がいるんだよという言葉には要注意。
リア充を手に入れることはなかなか難しいことのようです。


そんな話を読んだり聞いたりしていると
じゃ、リケジョはどうなのよ!とか
草食の男はどうなるんだ?という話になりそうですが
そういうお話は、宴の席でみんなで盛り上がってください。

私はお酒が飲めませんから、聞き役に回りますので。

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文化系女子という生き方  『ポスト恋愛時代宣言』!
湯山玲子
大和書房 2014年
 

2020年8月16日日曜日

読了メモ「ラッキーマン」 マイケル・J・フォックス



読了。

著者は、映画「Back to the Future」の主演俳優。
彼の自叙伝だが、華々しいハリウッドスターの
レッドカーペット上の話ではない。
ご存知の方も多いかと思うが、
彼は若くしてパーキンソン病に冒されてしまった。
今、彼は同じ病気に悩む人たちを助ける財団を立ち上げ
モハメド・アリなどと一緒になって
政府の公聴会でこの病気の証言をするなどの活動をしている。
スター俳優として、妻や子どもたち、信頼のおける医師、
セラピスト、一部の仕事仲間の支えをうけながら、
この病気に立ち向かう闘病記でもある。

一時期は自暴自棄になってアルコール依存症も併発させてしまう。
そして、なんと、彼は七年間も、病気のことは伏せて
俳優活動を続けてきたという。
もちろん、薬で症状を押さえ込んできたのだが
服用するタイミングを少しでも間違うと
体が自分の言うことを聞かなくなり、勝手に動き出す。
とても撮影どころではなくなる。

したがって、時間管理がしっかりできないと
俳優活動ができないわけだが、撮影が深夜に渡ったりと
時間が不規則になりがちな映画活動よりも
時間管理のしやすいテレビドラマにシフトしていくことになった。
これには先述した人々の理解や支援が大きな力となった。
頭にドリルで穴をあけるという脳の手術も行った。
手術そのものは成功に終わったが、病気が完治したわけではない。

本人の最大の悩みは、観客とのことだった。
お客様でありフアンでもある観客に対しては
このまま隠しおおせることでいいのか。
観客との関係をはっきりできないままへの恐れから自由になりたい。
という最後の葛藤を解き放つべく
自らの病についての公表を決意する。
公表した時は、街中の新聞・雑誌の一面、表紙は
彼の写真と病名で埋め尽くされたそうだ。

パーキンソン病は進行性の病で
彼の体は完治するすることはないであろう。
それでも、家族をはじめ周囲の関係者の理解と協力を得て
彼なりの活動を続けていられることに
自らをラッキーな男だと言って本書を締めくくっている。


マイケルが持つ人間性、周囲の人への配慮が満ちて
ぐいぐいと読み込ませられた一冊でした。
途中、パパの指の震えを押さえ込もうとする
幼い息子サムとの会話が涙を誘います。


では、最後はお約束で、映画のワンシーンをどうぞ。


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ラッキーマン
マイケル・J・フォックス  入江真佐子 訳
ソフトバンクパブリッシング 2013年


2020年8月13日木曜日

読了メモ「転がる香港に苔は生えない」 星野博美



読了。

今、まさに、渦中の香港だが、
タイトルにやや微妙な感じを覚える。
逆を言えば、苔が生えている国が他にあるということか。
本書を読めばそれはどこかわかる。そこは「さざれ石」のある国だ。

本書は香港が中国に返還された1997年7月1日を挟んで二年間、
現地で市民と一緒のレベルで生活をした
女性ノンフィクションライターによるルポである。
自分自身、返還前に仕事で香港を訪れたことがあったり、
香港返還のレポート作成をしたりと何かと関わりがあったが
やはり本当の香港の姿は見ていなかったんだなと痛感する。

本書に記されているのは、香港人の凄まじいまでの自由さと合理性であり、
自分が見聞したことは美味しいスープの上澄みの部分だけで
大陸からの移民と、人脈・友人関係からなる互助の世界、
なんとしてでも香港社会で生き延びていこうとする市民の生活力が実に逞しい。
著者が住んだ部屋の様子などみると
よく女性一人で生活ができたものだと感心を通り越して驚愕にすら値する。

本書の中で、香港人は、そもそも五十年間も不変でいられるはずはないと言い切っていた。
今の中国からの圧力のことを予知していたとも言えるし、
そもそも香港は常に変化して生き延びて発展してきたバイタリティ溢れる土地だからだ。

返還時、「一国二制度、五十年不変」が謳われたが、
すでに、97年返還時に香港の自由は奪われたと嘆く声もあった。
それは、自由にものが言えなくなるということだった。
本書にあった市民の声を拾ってみる。


  自由な社会とはたくさんの声で成り立つものであり、 
  どんな意見でも言うことができて民主的で開放されていること。 
  それこそ社会が発展する最低の条件であり、 
  違う意見を受け入れない社会は発展しない。

  国家を率いるのは民主的統治なんだ。

  なんとなく民主的ってムードが怖い。


著者はこうも言っていた。
香港のことに心配しそうな顔でもしようものなら、
「自分の心配でもしてな!」と香港人の怒鳴り声が飛んでくるだろうとのこと。
日本は、昔と比べたら外国人や異文化と接する機会は増えているが
逆に閉鎖的な方向に向かってはいないだろうかと。
単一性の方が楽だからだろうか。
多様な文化と接してこそ、自分たちの誇りは意味を持つ。
苔を生やしてじっとしている場合ではない。

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転がる香港には苔は生えない
星野博美
文藝春秋 2006年


2020年8月4日火曜日

読了メモ「ホテルローヤル」 桜木紫乃



読了。

確か、直木賞受賞作だった。
いつも読み始めた後で気づく。

装丁やタイトルからもわかるとおり
ラブホテルの話です。
ところは、北海道、釧路湿原。
七つのお話からなる短編集。

読み始めて、おや?っと思うのは、
最初のお話は、もはや現役ではなくなったホテルローヤル。
すでに廃墟となったホテルローヤルのお話。

そう、七つのお話は時間を遡って語られていきます。

ラブホテルのお話なので、
それなりな男女が出てくるお話ばかりと思いきや
売れないカメラマン、お坊さまとご遺骨、
舅と同居で生活の苦しい中高年夫婦、
ホテル掃除のパートのおばさん、
そして、最後は、ホテルのオーナーが
どういう経緯でホテルを建てるか
ネーミングはどのように決まったのか。
などがつづられていく。

どれもお話が切ないのだ。
ラブホテル自体が、もともと影のイメージがあるところへ
しょっぱなから朽ち果てた廃墟の話から
始まるものだから、余計に登場人物の思いは儚く
男と女の関係も何かやりきれない人生の隅っこを
歩いている感じがする。

ひとりひとりの人間って、必ずしも盤石で強いわけでもなく
ちょっと突っつくとポロっと崩れちゃうような
カゲロウみたいな弱いところがあるんだなと思わせます。

でも、読むと、人に対して優しい気持ちに
きっとなれる一冊だと思います。

どうやら、今年の11月に映画が公開されるみたいですね。

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ホテルローヤル
桜木紫乃
集英社 2013年