2020年8月13日木曜日

読了メモ「転がる香港に苔は生えない」 星野博美



読了。

今、まさに、渦中の香港だが、
タイトルにやや微妙な感じを覚える。
逆を言えば、苔が生えている国が他にあるということか。
本書を読めばそれはどこかわかる。そこは「さざれ石」のある国だ。

本書は香港が中国に返還された1997年7月1日を挟んで二年間、
現地で市民と一緒のレベルで生活をした
女性ノンフィクションライターによるルポである。
自分自身、返還前に仕事で香港を訪れたことがあったり、
香港返還のレポート作成をしたりと何かと関わりがあったが
やはり本当の香港の姿は見ていなかったんだなと痛感する。

本書に記されているのは、香港人の凄まじいまでの自由さと合理性であり、
自分が見聞したことは美味しいスープの上澄みの部分だけで
大陸からの移民と、人脈・友人関係からなる互助の世界、
なんとしてでも香港社会で生き延びていこうとする市民の生活力が実に逞しい。
著者が住んだ部屋の様子などみると
よく女性一人で生活ができたものだと感心を通り越して驚愕にすら値する。

本書の中で、香港人は、そもそも五十年間も不変でいられるはずはないと言い切っていた。
今の中国からの圧力のことを予知していたとも言えるし、
そもそも香港は常に変化して生き延びて発展してきたバイタリティ溢れる土地だからだ。

返還時、「一国二制度、五十年不変」が謳われたが、
すでに、97年返還時に香港の自由は奪われたと嘆く声もあった。
それは、自由にものが言えなくなるということだった。
本書にあった市民の声を拾ってみる。


  自由な社会とはたくさんの声で成り立つものであり、 
  どんな意見でも言うことができて民主的で開放されていること。 
  それこそ社会が発展する最低の条件であり、 
  違う意見を受け入れない社会は発展しない。

  国家を率いるのは民主的統治なんだ。

  なんとなく民主的ってムードが怖い。


著者はこうも言っていた。
香港のことに心配しそうな顔でもしようものなら、
「自分の心配でもしてな!」と香港人の怒鳴り声が飛んでくるだろうとのこと。
日本は、昔と比べたら外国人や異文化と接する機会は増えているが
逆に閉鎖的な方向に向かってはいないだろうかと。
単一性の方が楽だからだろうか。
多様な文化と接してこそ、自分たちの誇りは意味を持つ。
苔を生やしてじっとしている場合ではない。

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転がる香港には苔は生えない
星野博美
文藝春秋 2006年


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