2021年1月28日木曜日

読了メモ「大人のための残酷童話」倉橋由美子




読了。

本当は怖いグリム童話とかの
ゴシック系ホラーとはちょっと違う。


最初のうちは、下ネタが出てくるのだ。
また、その下ネタがコミカルで、
思わず微笑んでしまうくらいだった。
一寸法師の話では、縫い針の刀で
大きくなった鬼のイチモツを突いて退治したりする。
一寸法師がどこに隠れているかわかりますよね。

みなさんがよく知っている
人魚姫やジャックと豆の木、浦島太郎にカチカチ山など
和洋合わせて二十六のお話があり、だんだん読み進めていくと
人間の妬ましさ、差別、裏切り、強欲、金、地位/権力、
などなどが浮き彫りというか
もともとの話に付加されていって、
童話の主人公は哀れな結末を迎えてしまいます。

全てのお話の最後には
ご丁寧に、「教訓」 がゴシック体で一行追記されています。
この教訓が、結末を皮肉って書かれてあったりするので
なるほど、そういう風にこの話は読むのかと
違う切り口での視点も教えてくれます。

勧善懲悪、美辞麗句、清廉潔白、美男美女にハッピーエンド......
世の中そんなに甘かぁないよ。
うっかり踏み外すと、罠にもかかるし、
目も当てられないことになるよと
なかなか悩ましい童話集です。

タイトルも「残酷」よりも、
「生々しい」という方が相応しいと思う。


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大人のための残酷童話
倉橋由美子
新潮社 1993年


2021年1月23日土曜日

読了メモ「スプートニクの恋人」村上春樹



読了。

ご存知、村上さんの長編です。
読まれた方も多いのではないでしょうか。

ラブストーリーであはあるんだけど、
だんだんとミステリー感も増してくるし
文章そのものも綺麗な印象を受けました。
村上さんの中では好きな作品の一つです。

前半は、村上さん独特の浮遊感があるけれど
すみれという果敢な小説家志望の女性の心情や
憧れの女性との出会いが、薄靄にかかったような感覚で進んでいきます。
それでも、ギリシャの場面に入ると
目の前にパ〜っと青空が開けて物語が展開していきます。
空と建物のコントラスト感といったら素敵すぎます。

ただ、そのあとで、この人物に
大きな異変が訪れます。
向こう側とこちら側。
決して死の暗喩ではないと思うのだけれど
愛され慕われつつも行方不明になってしまう
相手のことが思い浮かばずにはいられません。

スイスの観覧車のシーンで、その女性が
ペーパーバックを読み始めるけれど
状況が状況だけに、読んでも中身が全く
頭に入ってこないというところがあります。
自分なんかも、自宅で本を読んでいても
頭の中は全く別のことを考えている時があって
いつの間にか、ページだけ進んでいる
ということがままあります。
読書は集中力を必要とすることだなと
常々思うところであります。


また、後半では、いきなり超リアルな世界に引き戻されます。
主人公でもある「ぼく」は小学校の先生なのですが
生徒や生徒のお母さん、警備員と交わされるやりとりは
これまでの女性二人との物語とは正反対の世界。

そんなことがあって、行方不明の彼女との連絡が最後に取れるのですが、
そこには、全く別の時間を過ごしてきた彼女がいて
会話をしているようで、会話は成立していない。
おそらく、二度と会うことはないのでしょう。

時間というものは、それぞれの人間や
世界のあらゆるところで、全く違う過ぎ方をしているんだな
ということを思わせる作品でした。


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スプートニクの恋人
村上春樹
講談社 1999年








2021年1月18日月曜日

読了メモ「パイドロス」 プラトン





読了。

今年は、今まで読んだことのない分野に挑戦したり、
挫折してそれっきりになっている書籍に
また再びあたっていきたいなと密かに思っており、
その手始めとして、プラトンを手にとってみました。

本書は、ソクラテスと、題名にもなっている
パイドロスの二人の対話形式になっています。
時は、紀元前五世紀の終わり近く
真夏のアテナイ郊外を流れるイリソス川のほとりの
プラタナスの木陰で交わされている話です。

話は当時の高名な弁論作家のリシュアスが唱えた
「恋している者よりも
 むしろ恋していない者に身をまかせるべき」
という主題から始まり、
恋する者とは、必然的に嫉妬深くなり
愛人とは確かに快い人間になるが
我が身を最も毒するものになるだろう。
などなど、想定していたより柔らかい話が
交わされていきます。

これまで、哲学書を読んでも、
自分が正しく理解できたかどうかは怪しく、
例えば、自分がパイドロスの主張を読んで理解したとして
次にソクラテスが、その通りだよパイドロス。と言って
内容を確かめて話を進めてくれるので、
そう言った観点では、理解しやすい哲学書だと思います。

後半は弁論術について語り合い、
言論は魂の誘導の一種であるとソクラテスは説きます。
そして、人は真実を知らずに、
相手がどう考えるかという言論の技術を追求するのは笑止千万であり
語る技術の資格もないといいます。
そして、二人で言論の事例を探し合ったり、
本性の問題を追求する際、
それは単一なのか、多種類なのか、
能動的なのか、受動的なのか、
これらはお互いにどのような作用を与え合うのかを
見ていかなければならないなどと説いていきます。

数多くの訳註があって、
そちらのページも見ながらなので
読みにくいかもしれませんが、
本文のページ数はそれほど多くないので
チャレンジしやすいと思います。

自分でも、あのプラトンの本を読了できたことに
ちょっと感動しました。
何事もやってみないとわかりませんね。

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パイドロス
プラトン
岩波書店 2019年


2021年1月14日木曜日

読了メモ「エジソン ネズミの海底大冒険」トーベン・クールマン





読了。


今回は、ネズミが大活躍する絵本です。

小学校高学年くらいが対象かな。
お話の細かいつなぎの部分は
見開きの大きな絵で繋いでいたりするので
話の筋を追えて、想像力を豊かにしないと
ストーリーについていけなくなっちゃうかも。

本書は、リンドバーグ、アームストロングに続く
三作目で、タイトルはエジソンなのに
ネズミは海底冒険に挑むという
大人でもすぐにはわからない新鮮なアプローチ。


著者はイラストレーターであり絵本作家でもあり、
とにかく、絵が素晴らしい。
ネズミが主人公ということもあってか
細かいところまで大変丁寧に書き込まれている。
ネズミの学校の講義の様子など
机はよく見れば段ボール紙で作られているのがわかる。
と思えば、見開きでドド〜ンと
鯨がでてきたりして迫力も満点。


最初は一緒に行かないと尻込みしていた
教授のネズミも最後には
潜水服に身を固め、探し物を求めて
海底におりたち、宝物を見つけるのです。
その潜水服も尻尾の先まで細い潜水服で
包まれているのがかわいい。

最後は、意外なところに証拠写真があって
ここでエジソンとつながるのかというオチ。

エジソンと電球の話もしっかりと書かれていて
絵本としては、なかなかレベルの高いものではないかと思います。

対象年齢層の子どもに読み聞かせをやったら
食い入る様に覗き込んできて、
きっと喜んでくれますよ。


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エジソン ネズミの海底大冒険
トーベン・クールマン
ブロンズ新社 2019年






2021年1月11日月曜日

読了メモ「さよなら、ニッポン ニッポンの小説2」高橋源一郎



松もとれてしまいましたが、あけましておめでとうございます。
2021年もよろしくお願いいたします。
引き続きたくさんの本を読んでいきたいと思っております。

さっそくですが今年の一冊目です。


読了。

高橋源一郎さんの文学評論です。
雑誌「文學界」に二年間ほど連載されたものです。

今回の特徴は「全文引用」です。
そんなことしたら、ページがいくつあっても足らんがな。
ですが、まぁそれは大人の冗談として、
でも、長い「引用」が随所になされているのは確かです。

小説は、特に冒頭、プロローグの部分。
源一郎さんは、この冒頭部分で
どんな小説か、察することができるそうです。
読者である我々にもわかると言っているんですけど。。。

源一郎さんは「書く」ことが仕事ですが、
その前に「読む」という作業がある。
読む「言葉」が同じだからこそ意味が通じるので
そうでなかったら話にならない。
しかし、必ずしもそうではないことに、
ある日、突然気がつくのだそうです。

つまり読むことと、その意味を理解することは別物であると。
ん〜ん、これわかります?
どこか別の本でも似た話があったのを記憶してるけれど。
そして、その読みを起点にして、
自分は外の世界へ旅立とうとするのだそうです。

また、文章には一定の速度があり、考える時にも速度がある
それはなぜか。という問い。
これに対しては、文章をカメラにたとえて
カメラと同じ速度で動いているからではないかと
これを三島由紀夫や志賀直哉、島崎藤村などの文章を
引用しながら解説してくれるのですが
まさに目から鱗の感覚でした。

その他にも、詩と小説の違いや
主体性について宗教的観点からの検証、
オタクの誕生、ポルノグラフィーと規則、
靖国の映画撮影時にカメラをくるっと反転させたら喋る人がいるか、
最後は、家族を解散することってできるのか。
「さよなら、ニッポン」というタイトルは
この家族解散の世相の話から浮き上がってきています。

いろいろなテーマでたくさんの作家の文章が
引用されています。
もちろん最後には引用文献リストもあります。

なかなか、読み応えありますよ。全537ページでした。

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さよなら、ニッポン ニッポンの小説2
高橋源一郎
文藝春秋 2011年