読了。
絹糸と言えば、日本の伝統的な産業の一つというイメージ。
富岡製糸場が世界遺産に登録されたのも記憶に新しいが
この産業の歴史を文字通り紐解いていくと
地道な努力の積み重ねで、
日本の絹産業が培われてきたことがわかる。
ポイントは、「顔」だ。
皆さんは、蚕を見たことがあるだろうか。
自分は小学生の頃、栃木にある親戚の家で
桑の葉を食べる蚕と繭の団地、繭から糸を紡ぎ出す作業を見たことがある。
蚕の成虫は、もちろん蛾だが、飛ぶこともできず、
お腹がぼてっと大きく動きも鈍い。
野生ではどうやって生きているのだろうと思っていたら
蚕は人間が作り出した品種で、いわゆる家畜だと。
豚の猪にあたる虫が、クワコという蛾で
もちろん細身で飛べるし、幼虫も木の枝に擬態するなど逞しい。
クワコは日本にも野生で生息しているが、
日本の蚕の祖先は中国産のクワコらしい。
良質の蚕を作り出すには、メンデルの遺伝の法則に基づき
掛け合わせを続けて、改良種を作りあげていく様が本書では綴られている。
その功労者となった外山亀太郎氏は、蚕の一匹一匹の幼虫の顔を見分けたという。
驚くべき観察眼だが、現在の東大の研究所でも
蚕の幼虫の顔の区別はできますよとあっさりと言われている。
蚕の区別は顔でするのが当たり前なのだ。
そのほんのちょっとした違いを見つけ出し、
良種を掛け合わせて品質の良い蚕を作り出し続けることで
日本の絹産業が成り立ったということだ。
ちなみに、外山亀太郎氏は、我が国最高の学術功労者に贈られる
帝国学士院賞を大正四年に受賞しており、
同年には、野口英世も受賞している。
野口英世は現在の千円札の顔だが、次はもう決まっているので
その次は、外山亀太郎氏でもよいかも。
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蚕の城 明治近代産業の核
馬場明子
未知谷 2015年