2021年6月10日木曜日

読了メモ「JR上野駅公園口」柳 美里



読了。

本書は、2020年の全米図書賞(翻訳部門)を受賞しました。
東北弁の会話が、どういう風に訳されたのか気になるところ。

ホームレスの話です。
1963年、東京オリンピックの前年に
福島県、当時の相馬郡から東京に出稼ぎに出てきた森という苗字の男。
実家は貧乏で、税務署から差し押さえの札を家中に貼られるほど。
本書はその男の一生を表した作品です。

土木会社の寮に入った男は、畑を耕すのと同じだと言って
ツルハシとスコップで地面を掘り、リヤカーで土を運び出す。
オリンピック後も各地で開発が進み、
男は仙台支社に行くが、突然の訃報がまいこむ。
将来が楽しみだと嘱望された21歳になる息子が亡くなった。死因は不明。
息子は現在の天皇陛下と同じ日に生まれたので、
名前の一文字をもらって浩一という名前だった。

東京に戻って、日雇いの仕事を始めるが
既に誰かのために稼ぐという必要がなくなっていた。
自分の飲み食いのためだけに
働くほど日雇いの仕事は楽ではない。

結果、男は上野公園で寝食を過ごすホームレスとなり
いつのまにか、70歳近い年齢になってしまう。
天皇陛下が上野公園に来るというときには
「山狩り」といって、ホームレス一掃の特別清掃があり、
荒ぶる若者がホームレスを襲い半殺しにする事件も起きる。
ホームレスの仲間同士でも古雑誌の奪い合いもあれば
コツコツ集めた廃材で作った小屋に招いてくれる者もいたりする。
そして2011年3月11日。
男は帰る場所を完全に失ってしまう。

全体を通して切なくて、読むのが辛くなる。
そんな中で印象的なのは、所々で聞こえてくる
山手線が上野駅に入線してくる時のアナウンスだ。
最後も、黄色い線の内側までお下がりくださいという
アナウンスで締めくくっている。
これは何を暗示しているのか。

本書を読んで、東京上野恩賜公園には、
東京大空襲慰霊碑があること、
また、「恩賜」という言葉の意味も
恥ずかしながら初めて知りました。

まだまだ、自分は知らないことがたくさんあります。

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JR上野駅公園口
柳美里
河出書房新社 2014年

2 件のコメント:

  1. 少し前に読みました。悲しい物語。
    全く他人事でない物語。
    最初少し読みにくい感じに思えたのですが(話の流れ的に?)、
    これはここで書いていいのかどうかですが、
    主人公は亡くなっていて、死んだ男が語っている物語なのでは、と思いました。
    鉄道自殺されたのでは、と。
    そう思ってから読むとスムーズに読めました。
    主人公の息子さんが自分と同い年、昔の話ではないのです、少し前の現代なのです。
    私も知らないことばかりです。

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    1. B3さん そう、やけに駅のアナウンスが気になるんです。自分もそう思いました。それと大昔の話ではなく、今の時代に直結している話なんだということも。

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