読了。
執事の世界。
なんとも自分とは縁がない、遠くて高貴で品が良く、
別な見方では、窮屈な世界を想像します。
本書は、執事の世界を生き抜く五人が語る
それぞれの職業人生です。
読んでまず気がついたのは、
執事になるための敷居は意外と低いということ。
入門したては、最下層の下足人ですが、
本人のやる気と、良き先輩執事、
そして理解あるご主人様に恵まれると、
どんどん昇格していきます。
ある程度出世した執事の業界はとても狭く、
本書に登場する五人にも共通する執事仲間がいたり、
お仕えする貴族や大使館の裏話が飛び交います。
ご主人様が旅行などで屋敷を空けることがあると、
執事たちは、普段できない仕事をこなした後、
思い切り羽を伸ばし、夜遊びにも行くそうですが、
ご主人様がいないと、チップがもらえないというデメリットがあります。
執事を目指す人々は、貧困層から叩き上げでなる人が多く、
実入りについてはかなりシビア。
チップが渋いと、お仕え先を替えることもよくあるようです。
実際、執事の世界は人手不足のようで、
ご主人様の機嫌次第でクビになっても
大執事から目をかけてもらっていれば、
職場復帰は日常的にあったようです。
ヘッドハンティングも珍しくありませんし
お仕え先を替えていくのは立派なキャリアアップです。
一方、職を辞する時は、ご主人様、
特に奥様・ご夫人から給料アップを条件に
”君が必要だ”と慰留されたり、
また、もう高齢だからと引退を申し出ても
”年齢は気の持ちよう”、”きしむ門ほど長持ちする”
などと言われ引き止められることもあるそうです。
そんな執事たちも、自己主張すべき時はしました。
自分たちは奴隷ではない。
命令には従うが、使用人とご主人様たちとは
確立された行動規範に従って、
どちらもルールを破れば罰せられると。
最後に、ある執事がこぼした印象的な言葉がありました。
ちょっと長いですが引用します。
完璧な人間なんてどこにもいないことは、
自分の生き方を顧みるだけでわかる。
英雄も従僕の目にはただの人という言葉があって、
それは確かにその通りだが、
ずっと英雄に仕えつづけていたら退屈でやりきれないに違いない。
主人と使用人のあいだには、理解と信頼があればいいのだし、
分別のある人間ならそれ以上は求めないはずだ。(p290)
かつての大邸宅に仕える時代はもう過去のものになっています。
それでも、本書を読むとイギリス執事の誇り、
使用人人生への気概を感じることができました。
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わたしはこうして執事になった
ロジーナ・ハリソン
新井潤美監修、新井雅代訳
白水社 2016年
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