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2016年9月4日日曜日

読了メモ「書物の変 グーグルベルグの時代」港 千尋



読了。

キンドルに代表される電子書籍。
デジタル化の技術で何千冊もの書物を薄い一つの端末で読めるようになった。
蔵書スペースをとらず、その何千冊の本をどこへでも持ち歩くことが容易い。
その電子書籍についてのあるトラブルから、本書の話は展開します。
一言でいえば、「読者」は「ユーザー」になったということなのか。

続いて、文字と記録の歴史とグーテンベルグの活版印刷技術の発明。
かの15世紀の大発明は偉大な科学者でも事業家からでもなく、
金属加工に携わる一職人のこだわりから生まれました。
グーテンベルグが作った金属活字は290字。同じ a でも八種類あったそうです。
そして、500年以上の時が流れ、著者が訪れたパリの旧国立印刷所では
数百トンはあろうかという活字の保管庫を目の当たりにします。

と、こう書いていると、デジタルな電子書籍と
アナログなこれまでの本についてのステレオタイプな話なのかと
思ってしまいますが果たしてそうではありません。

大英図書館では古文書の電子化を進めていて
500年以上前のコーランや彩色写本を閲覧できるのですが、
目をひいたのは、その古文書のページをめくる体験ができるというところ。
ページをめくるには、マウスを動かすだけですが、
ディスプレイ上にめくり上がる際には影が生まれて動き、
めくり具合によって羊皮紙が作るカーブも再現しているそうです。
更に自分としては、読み進むにつれて、
本の重心が和書だったら左から右に移っていく感覚を
もたせてくれるといいなと思います。

めくるページの位置や本の痛み具合、
読んでいる場所の明るさ、時刻、季節、年齢などによって
ヒトの読書経験は違ってくるでしょうから
電子化された本の仕様も千差万別であるべきで、
これにどういう解をこれから出してくれるのかと思うと
ちょっとわくわくしてきます。

一方で、本には保存のために修復作業が必要であるということから始まって、
電子書籍の場合、50年後の環境でも
今のデータを読み出すことができるのだろうか、
未来のコンピュータプログラムが
二千年前の電子テキストを理解できるのだろうかは誰にもわかりません。
かくいう我が家にも、すでに再生できないメディアがいくつかあり、
これと同じことがおきるのではと容易に想像できます。
著者は、ここで「本を養う」という表現を使って呼びかけています。
本でも電子書籍でも書物を通して未来を養うことを忘れてはいけないのです。

終盤は、書物の話から少し離れて、
貨幣の統一、非常事態と権力、琥珀の発見、感染症の広がりなどを切り口に
記憶や記録、情報伝達、痕跡と消滅などについての考察が述べられます。

全体的にややアカデミックですけれど
グーテンベルグとグーグルを合わせた造語をサブタイトルに
未来の情報文化や技術の発展について
まだもやもやとはするものの、
はてしない広がりを抱かせる読み物かと思います。

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書物の変 グーグルベルグの時代
港 千尋
せりか書房 2010年


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