2017年2月24日金曜日

読了メモ「言葉の流星群」池澤夏樹



読了。

表紙のイラストをよく見ると
あの人のシルエットが見えます。

著者による宮沢賢治の詩の解説、評論。

冒頭にも書かれていますが、
題材となっている文学者があまりにも著名で
大きな功績を残しているがために、
その人の出身や育ち、いわゆる「伝記」を背景に
作品を語ることが多くなるけれど、
ここでは、ゴシップや感情に陥らずに、
純粋にテクストを楽しみたいとしている。
とても新鮮な視点で宮沢賢治の世界に案内してくれます。

まず、詩は是非とも朗読あるいは朗誦してほしいという。
声に出して読むスピードが丁度よく、黙読では早すぎるというのです。
2年ほど前に「宮沢賢治、ジャズに出会う」という本を読んだのですが
そこでテーマになっていたのと同じ詩が本書にも載っていました。
さて、声に出して読んでみると、それはやはり2年前に読んだ時とは
また違った響きがあったのでした。あの時、声に出して読んでいたら
読後感ももっと違っていたんだろうと思います。

後半には、宮沢賢治と自然についての話や
地元花巻市で行われた著者自身による講演も載っており、
そこではしっかりと宮沢賢治の魅力について語られています。
前半の詩を読み解いているパートと対比して読むと面白い。

小説よりも器の広いという童話の世界になぜ宮沢賢治が入り込んだか、
そして今、宮沢賢治が読まれているのはなぜか。
同時代に生きた超有名な小説家を引き合いに出して語られると
そっちはそっちでまた読みたくなってしまうけれど、
宮沢賢治のポイントは、大人になるのを拒んだこと。
お金の値打ちを信じて財産形成を目的に人生を築くとか、
人間関係のネットワークを作って政治的な力を駆使するとか、
そういう成長の仕方を拒んでいたからというのです。
そんな子どもっぽいというか無垢なところがあるんだけれど、
みんなのしあわせをしっかり追い求めていくというようなところが
今の時代に好かれているのでしょうか。

さて、皆さんはどうでしょうか。
イノセンスは残っていますか。

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言葉の流星群
池澤夏樹
角川書店 2003年




2017年2月21日火曜日

読了メモ「セックスの哀しみ」バリー・ユアグロー



読了。

90編。こんなに短編ばかりを読んだことがない。
しかも、どれもどこかせつない話ばかり。
本のタイトルの通り、男と女の話ではあるが
恋愛や恋人同士の楽しい話ばかりではない。
どちらかというと、読んでいくにしたがって
だんだんと険しくなっていくようだ。
最後は悟りの境地かもしれない。

通りすがりの人と目を合わせたことで頭をよぎる奇想天外なイメージ。
食卓でのちょっとした一言がとてつもない隕石になって落ちてきたり、
戦場で銃弾の飛び交う中、異性の兵士を瀕死で見上げていたり。
SFチックなショートショートもある。
あれを一人歩きさせてしまうのもぶっ飛んでいる。
なかには、わずか六行で終わる話もあった。

こういう展開の激しい話は、一気に入り込むというか
一話あたりの読む文字数も少ないので、
強引にでもイメージをどんどん膨らませないといけない。
最初のうちは、なかなか馴染めなかったけれど、
途中から、とまらなくなってしまった。
グリグリと彫刻刀で掘り出す感じで読んでいくのだ。
ただ、そうやって読んでも、せつなくて、やりきれなくて、
なかには情けないような読後感になったりする。

それでも、最後の「時計職人の工房で」という話では
自分はホッコリとして読み終えることができた。
僕のガラスのハートにはどんな鳥がいるんだろうとイメージしながら。

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セックスの哀しみ
バリー・ユアグロー 柴田元幸 訳
白水社 2000年





2017年2月16日木曜日

読了メモ「未来のだるまちゃんへ」かこさとし



読了。

だるまちゃんの絵本で有名な著者による語り下ろしの一冊。
ちなみに、著者は1926年生まれで御年91歳。

戦争の虚しさ、大人たちの無責任さがつづられる一方で、
子どもたちの心を師と仰ぎ、
その純粋で正直な子どもの反応に
著者は真正面からぶつかって応えていきます。
子どもを既成の枠にはめようとする大人はおろかであって、
余計な心配をせずとも、大人はわかってくれないことを
子どもたちはちゃんと理解して考えているのだと。

著者は19歳で敗戦を迎えました。
敗戦後、掌を返して戦争反対を合唱する大人にあきれ、
残りの人生で何ができるのかを真剣に考え、先に亡くなっていった仲間に償い、
子どもたちの将来のために実践していくことを誓うのです。

最初のうちは、お年寄りの戦争にまつわる典型的な話っぽいのですけれど、
そのうち、子どもたちとの絡みがでてくると、
それこそ自分が子どもの頃に感じていたことなんかを
ぽつりぽつりと思い出してしまう話に出会うのです。
あ〜、そういや自分もそう思ってたよ、なんて。
子どもだって感じたり考えたりすることがひとりひとり違うってことを
よく考えれば当たり前のことなのに、
大人になるとそれを忘れてしまうようです。

著者は絵本を書き始める前は、大手企業で技術者をしていましたが
そこでの経験が、世の中の裏を知るよい経験になり、
人間としての修行の場となったと言っていますが、なんとも皮肉なものです。

最後には福島の原発事故についても述べています。
なぜあんなことになったのか、あんな判断しかできなかったのか。
戦争に負けたあの時に、大きな犠牲を払って学んだはずなのに
また同じような過ちを繰り返すことになるのではないかと思っているそうです。

 
そんな話の合間合間に、絵本にでてきたお話や
だるまちゃんたちの会話が挿入されていたり、
あの有名な挿絵もいくつもまとまってみることもできます。
かみなりちゃんの国にあるものすべてが、
みんなツノの生えた形になっているのがとても懐かしかった。

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未来のだるまちゃんへ
かこさとし
文藝春秋 2014年


2017年2月8日水曜日

読了メモ「沈 黙」村上春樹



読了。

短編です。本文わずか32ページ。
たしか「レキシントンの幽霊」の短編集の中にもあった一編。
こんな形で一つの話だけを読んでみると
なぜか読後感もぐっと違うものだなと思う。

本書は全国学校図書館協議会から
「集団読書テキスト」として刊行されたもの。
なので、高校の授業などで、
副読本として読んだ人もいるのではないでしょうか。
さすがに、自分の時はなかったですが。

著者の小説としては、大変わかりやすい部類。
話の対象となっている相手の人物に
自分自身を実は投影させいて、
自己批判をしているのではないかと途中まで思っていると、
最後のところは、良識な一般受けするように
そうまとめちゃうのかという感じで
個人的には村上春樹の小説らしくない気もする。
結局、最後は飲みに行くようですが。

とは、言うものの、
自らの考えを明確に持たず、表明もせず責任も持たず、
周囲の動きに賛同も批判もなく、ただ流されていく大衆ってやはり怖いですね。

大きな胎動の中で、一人一人の考えや思いが生み出す力は
確かに小さく、影響度としては微々たるものかもしれないけど
一人の人間として、信念や態度、ブレない考え方の軸は持っておきたい。
そんなこと一時間もかからず読めるお話です。

是非。

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沈黙
村上春樹
全国SLA集団読書委員会 2009年

2017年2月5日日曜日

読了メモ「あたらしい結婚日記」服部みれい



読了。

普通、他人の日記を読むなんてことはありえないので
こうやって書籍になってはいても不思議な感覚になる。
公になっているにも関わらず隠れて読んでいる気になるせいか、
書かれているその話の中にするりと入り込んでしまう。
この本を企画した人はそんなことも考えていたのかもなと思いながら。

この本は、とある古本市のイベントで手にしたのだけれど
その店主の女性は、
「この本を読んで自分には彼氏ができたんですよ!」
と言っていたのである。
へぇ〜、そんなこともあるのかぁ〜と、
そのプロセスにこの本がどんな風に関わっていったのだろうと
興味津々で手に取った記憶がある。

 
仕事のこと、仲間のこと、そして伴侶となる人のことなどから
自分の気持ち、覚悟、心の移ろいがわかる。
世間の事象への解釈は、読みようによってはご都合主義かもしれない。
でもいいのです、それでも。だって日記なのだから。
そして、そこにはある種のスピリチュアルな印象も受けます。
著者も当初は忌避していた精神論や
自己改革などのワーディングにいつの間にか向き合うようになり、
自分の考え方をしっかりと確立していっているのがわかります。

また、そんな日記の合間に、日付のない短いエッセイが挟みこまれています。
一人相撲の日記をいい塩梅でカバーしている構成もうまいです。

後半の結婚に向けての日記は素晴らしいというか、
二人がとても仲が良く似合っていて羨ましい限り。
相手や家族のこと、そして自分にとても素直に
思い合っていることがわかります。

きっと、あの女性店主も本書からそんな何かを感じとって
新しい彼氏と話をすることができたのでしょう。
それがいったいどんなことだったのかについては、
年嵩の行ったおっさんには、はるか遠い世界のお話ですが、
日記の中に自分の知ってる古本屋が何軒か出てきて、
ふふ〜ん、そんなことがあのお店であったんだぁ...なんて
そんなところはとても身近に感じたことは確かです。

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あたらしい結婚日記
服部みれい
大和書房 2013年





2017年2月1日水曜日

読了メモ「センス・オブ・ワンダー」レイチェル・カーソン



読了。

短い。本文はわずか54ページ。
その中には、おおげさかもしれないけれど
未来の人類に向けた大切なメッセージがおさまっている。

子どもたちにとって、接する世界はすべてが初めて。
それをどう感じとるか、感じとらせてあげるか、
それが大人の役割であって、ものの名前を教えることはたいしたことではない。
知ることではなく、感じることの大切さ。
おもしろいものをみつけるたびに無意識のうちにあげる喜びの声。
目で耳で鼻で手で自然と接することができてよかったと思えること。
その感覚を養うことが、人間が長きにわたって
自然と共に生きていくために大切なこと。

 
自分は当初違っていた。
ものには全て名前があり、名前を知ることで
その対象を現実のもの、思考の対象として認識する。
そう思っていた。名前がないものは不安であると思っていた。
本書ではそうではない。名前は後付けだ。

自然をどう感じ取ったのか、
気持ちがいいのか、もう一度触れたいのか、
再び訪れたいのか、来てよかったのか。
なかには、恐かったという感覚もあろう。
その感覚を子どもが感じられるようにしてあげる。
そして、その子どもがさらに次の世代にも教える。

社会や政治、経済や産業がどうあろうとも
我々は自然とともに生きていかねばならない。
そのベースとなる感覚を養うことに
ハッとなる54ページです。
結構、テンションあがります。

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センス・オブ・ワンダー
レイチェル・カーソン
新潮社 2008年