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2016年4月22日金曜日

読了メモ「森の人 四手井綱英の九十年」森まゆみ



読了。

今では普通に使われる「里山」そのものを見出し
それと名付け、森林生態学という学問を切り開いた
京都大学名誉教授の語り下ろし。
ですので、全編、「森の人」の語り言葉で綴られています。
章立ての見出しも、文章中の話し言葉の一部分が
そのまま見出しになるスタイルになっています。


これまで、いろいろな話を聞いたり、
世に流れる情報から自然や森が持つ力について
ある程度は知っていたつもりでいました。
山には森林があるから水をたくわえ、洪水が起きにくいとか
昔から言われる「国破れて山河あり」などは
ことごとく間違っており、森を過信するな、
スギやヒノキばかりを植えてきた罪は重いと言います。
花粉症の話は一言も出てきませんが
日本の林業政策のまずさにはあらためて気づかされます。

環境保護などは、もう当たり前で大前提のように言われていても
日本は農業と林業と動物の関係が遅れていると言っています。
農林業に支障のある害鳥獣が出たときは駆除します
なんていうのは環境保護でも共生でもなんでもない。
動物は字が読めないのだから、
人間が都合よく決めた保護の範囲なんて伝わらない。

環境を元に戻すと言って、スギやヒノキ、シイやカシを植えて
結果として単一同世代の植生の山や林を日本中に作ったり、
人間のご都合主義の保護政策をかざしていては
環境を本当に守るには至らないというのです。
そこで森の人が唱えるのは森林生態学。
自然は複雑で多様性が絡み合ってこそ成り立っているもので
その基礎となる部分を大学できちんと教えるべきだと説いています。
応用学は、大学を卒業して林業試験場でいくらでもできると。


街路樹は常緑樹ではなく、落葉樹がよいと言っています。
季節によって色が変わり、夏は茂り、冬は枝だけになる。
それを、葉が落ちる、掃除をしろと役所に文句を言う人がいるそうで
役所はそれを受けて、必要以上に枝を切ってしまい
結局、木は枯れて死んでしまうのだそうです。

木の寿命は百年単位、場合によっては千年単位であり
およそ人間の一世代でカバーしきれるものではありません。
子々孫々にいたるまで伝えて残していかなければならないことが
我々にはあるとあらためて思った一冊でした。

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森の人 四手井綱英の九十年
森まゆみ
晶文社 2001年



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