読了。
エッセイを読んでいると
書かれている文章が好きという作家が
ぼんやりと浮かび上がってきます。
小説とかの文章でではなくて、いわゆる「つぶやき」の文章です。
自分の場合は、城山三郎、向田邦子、串田孫一あたりがあがってきて、
そして、この武田百合子。
いつもいつも読んでいるわけではないのだけれど
古本屋などでこの人たちの本を見つけてしまうと、
つい手にとってしまい、条件反射のようにもなりつつある。
村上春樹や坪内祐三のエッセイは確かに面白いけれども
そういう意味では自分の中ではちょっと違う。本書では、浅草、青山、代々木、隅田川、
上野、藪塚、富士山、京都、世田谷と訪れて
細かいところを観察しながらつぶやいている。
花屋敷と剥製小屋、そして大黒屋の天丼。
浅草のあのあたりの情景がありありと浮かんできて嬉しくなり、
伝法院通りを抜けてホッピー通りに行きたくなる。
隅田川では、老女5人の酒盛りが面白い。
誰も人の話なんか聞いちゃいないのだ。
思ったことを傍若無人に喋りまくるだけ。
全く会話が成り立っていないのに盛り上がっている。
遊園地付き演芸場では前方座席に20名ほどしかいなかったり、
昆虫館の虫はみんな死んでしまっていなかったり。
藪塚ではスネークセンターの話。
実は自分も子どもの頃、親に連れて行ってもらったこともあったので
ここの話もまた妙なリアルさを感じることができた。
つぶやきの話のネタとしては面白い話があるけれど
この人の文章はどこか天空の上まで通じていて、
かすかに尊い話という印象が残る。
そんな文章なのです。うまく言えないけど。
途中、著者の娘で写真家でもある「H」が登場してきます。
この親子の会話の楽しさに加えて、娘へ注がれている視線が素敵です。
そして、各章の中に写真が1ページ挟まっていて
その写真は、もちろんHが撮ったもので、
最後の「あの頃」という章の中にでてくる聖橋の写真がよかったなぁ。
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遊覧日記
武田百合子
中央公論社 1995年
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