2021年5月9日日曜日

読了メモ「本陣殺人事件」横溝正史



読了。

金田一耕助シリーズといえば、
市川崑監督、金田一役が石坂浩二さんの映画が大好きですが、
本作品は、お二人の映画にはならなかった作品です。
名作という評価の高い作品と聞いていたけど
古谷一行さんが金田一役で映画かテレビでやったかな。

ミステリーなので、内容は詳しくは書きませんが
密室殺人なのですよ。雪なんかも降っちゃったりして。
で、やっぱりというか琴がトリックに使われちゃったりするんです。
現場であるお屋敷の書斎には、世界中の探偵小説がいっぱい揃っているなど
トリックや謎解きの雰囲気を一層盛り上げてくれます。
警察サイドは磯川警部が出てきます。
「悪魔の手毬唄」では、若山富三郎さんが演じてましたね。

本書は、1975年発刊と古いですが
「黒猫亭事件」という話との二本立てです。
こっちは、顔のない屍体がテーマになっています。
加害者と被害者が入れ違いになってしまうというやつですね。
おっと、こちらもここまでにしておきましょう。

本作品は、丁度、獄門島事件の直後という設定になっていて、
金田一さんも、あの忌まわしい事件を解決したということで
結構、名前が売れているという設定も面白いです。

横溝正史さんの作品は、それこそたくさんあって
まだまだ読んでいないのがたくさんあります。
今年は、ミステリーものも読んでいこうかな。

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本陣殺人事件
横溝正史
東京文芸社 1975年

※上記の書籍は絶版のため、
下記のご案内は文庫本になります。

2021年5月2日日曜日

読了メモ「水の巡礼」田口ランディ 森 豊/写真


読了。

田口ランディさんの本は何冊か読んでますが、
本書は、どちらかというとスピリチュアルな分野のお話です。
森 豊さんの幻想的な写真を交えて、
水と魂のつながり、芸能と水の関係などが綴られます。

ランディさんの人生にとっての
ターニングポイントは屋久島でした。
以前、ランディさんが書かれた屋久島の本も読みました
屋久島に出会って作家になったと仰っているほどです。
屋久島はひと月に三十五日も雨が降る
と言われるくらい多量の水を抱える島です。
透明な水とエメラルドの苔。
空気を吸うと肺が浄化され、雨が降ると森が歌うんだそうです。

そして、その水と魂は似ているのだそうです。
ランディさんは広島に訪れた時、
市内ではなく、山に登ったそうです。
平和公園は暑くて、魂はいない、
神様を象徴するものが市内にはないそうです。
山にあるお寺のそばには清水や滝があって、
魂が休まるホッとするところのようです。

ハワイ原住民の伝説のサーファーによれば、
世界は海によって結ばれた水の中の島々なのですと。
水は世界をつなぐものでもあるようです。

お話は10個あって、その中では
 熊本 水と共鳴する魂
 鹿島神宮と要石の謎
の話が好きかな。

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水の巡礼
田口ランディ 森 豊/写真
角川書店 2006年

2021年4月25日日曜日

読了メモ「洋食屋から歩いて5分」片岡義男


読了。

書き下ろしもあれば、
雑誌掲載されていたものもある、
片岡義男さんのエッセイ集。
なので、長さもばらばら。
短いお話もあれば、十数ページになるものも。

特に、前半はコーヒーの話が多い。
冬のコーヒーの暖かさ、
一口目の時のコーヒーの香り、
小さな非日常体験をさせてくれるコーヒー、
神保町でのコーヒーのハシゴ。
いずれも、片岡さんの小説に少なからず
携わっているコーヒーたちのお話。

料理のお話も。
料理本のレシピの一行を並べてみると
詩ができると書いてあったけど本当かな。
幕内弁当の栗きんとんと蒲鉾の置かれ方の蘊蓄が、
小説のタイトルになったこともあったとか。
そして、居酒屋には、なぜにこうもメニューが多いのか。
そういえば不思議ですね。

子どもの頃に、初めて素麺や雲呑を食べた時の感動。
食すものの味のベースが全て醤油であるとの気づき。
廃業することになった行きつけの食堂から、
湯麺の店頭展示サンプルを値札ごともらった時の嬉しさ。
真夏、喉がカラカラの時に飲むコップ一杯の水。

どのお話も、街での喫茶店での思い出話や
美味しそうなメニュー、ちょっとした出来事のお話で
とても穏やかな時間を過ごすことができる一冊です。

お時間のある時にぜひ。

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洋食屋から歩いて5分
片岡義男
東京書籍 2012年

2021年4月20日火曜日

読了メモ「ステラと未来」種田陽平・野山 伸


読了。

久しぶりに児童向け図書。SFでもあります。

児童図書とはいっても、内容はどことなく切なく、
新しい未来性もあるけれど、寂しさもある。

主な登場人物は、女の子と男の子。
二人は、別々に育てられ、
ある場所で出会うことになるけれど、
そこには、二人しかいない。

ちょっと話の時間を戻しますが、
二人とも親がいることはいるが、
女の子にはママ型のロボット
男の子にはパパ型のロボットがいて、
ある年齢に達すると
親ロボットの元を離れて旅立たなければならない。

子どもが自ら旅立つことを祝う親ロボットは
自分の体の中から「球体」状の物体を抜き取り子どもに授ける。
その物体が二人を導く行き着く先には、
二人の名付け親が待っている。
この親はロボットではないようですが、普通の人間とも違う感じ。

名付け親によれば、
自分の過去を知りたければ教えてあげる、
他にも同じような仲間がどこかにいるとも言う。
そして、まもなく自分は死を迎えることを二人に告げる。

最後は。。。。。。


とても不思議なお話です。

大人になってから読むと
こんなお話を子どもに聞かせてわかるのかな、
良いのかななんて思っちゃうけれど、
多感な子どもたちは
いろんな想いを浮かべて
このお話を聞くことでしょう。

表紙のステラの潤んだ顔が全てを語っているような気がしてなりません。
そう、女の子の名前がステラちゃん、男の子が未来くんです。

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ステラと未来
種田陽平・野山 伸
講談社 2015年 

2021年4月13日火曜日

読了メモ「種の起源」上・下 チャールズ・ダーウィン



読了。

皆さんもよくご存知の本じゃないでしょうか。
世界史でも習いましたね。

自分は子どもの頃から生物が好きで、進化などに興味があったので
世界中を探検して、進化論を世に説くチャールズ・ダーウィンに
とっても憧れていて、尊敬してました。
そういう子どもだったんです。

でも、学生時代、種の起源を読むのを何回挫折したことか。
岩波文庫の上下巻を揃えて、何度か挑んだのですが
その都度、途中で読まなくなってしまうのでした。
そんなこんなで幾星霜。
光文社から新訳版が出ているのを知って
今度こそはと再チャレンジして
この度、読破することができました。

ダーウィンといえば、ガラパゴス諸島や進化論などの
キーワードが浮かびますが、本書には
ガラパゴス諸島がでてくるのは、2度か3度程度で
有名なゾウガメのことなんかは一度も出てきません。
また、ダーウィンは、単に進化を説いているのではなく
個々の生物は、利益によってのみ、その利益のためにのみ作用するという
「自然淘汰」いう自説を何度も何度も何度も繰り返しています。
ただ、その自然淘汰はほんの少しづつしか前進せず、
その途中段階の地質学的証拠が殆ど見つかっていないという
自説の論拠の弱点を明らかにしつつも
その点をリカバリーする議論を展開し、
当時、宗教的にも席巻していた
創造主論を徹底して論破していきます。

また、生物の地理的分布の広がりについては
大陸移動説よりも、氷河期における生物自身の移動が多いこと
物理的環境よりも、生物間同士の関係性によって、
異なる地域で、類似した習性を持つ種類が存在することなど
壮大かつ繊細なスケールな話もありました。

意外だったのはダーウィン一人だけでなく
数多くの科学者やナチュラリストが
自然淘汰論をサポートするような
理論展開や実験観察を行っていることも知ることができました。

とにかく、ダーウィンの「熱意」をまざまざと
見せつけられる本でした。
子どもの頃から好きだった憧れの本書を読了することができて
本当によかったです。

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種の起源 上・下
チャールズ・ダーウィン 渡辺政隆訳
光文社 2020年


2021年3月31日水曜日

読了メモ「死体の解釈学 埋葬に脅える都市空間」原 克



読了。

タイトルはちょっと怖いのだが、
社会科学でもあり、これからの都市のあり方を
考えるにあたって避けては通れないテーマだと思う。

要は、「埋葬」の話です。
人間の死に対する価値観について
と置き換えてもいいかもしれない。

話は、18世紀のベルリンから始まる。
当時の国王からいきなり市民に対して
次のような命令が下された。
 
 教会の敷地内をこれ以上墓地として使用してはならない。
 今後は、遺体を市域外の地区に埋葬しなければならない。

というような趣旨のものだった。

当時、ベルリンは市の外側を城壁が取り囲む形。
お察しの通り、城壁内の使える土地がなくなってきてしまったのだ。
そこで、墓地として使っている土地を召し上げ
新たな都市建設に充てようとした。
もちろん、外壁を取り崩して拡充すればよい
という向きもあるが、
いたちごっこになってしまうのは目に見えている。

当時から、葬儀の際は棺を担ぎ上げた葬列が
市内を巡る習慣があり、
終点地の埋葬地が、市街の外、
さらに距離がある場所となると
今まで通りとはいかなくなる。
棺の担ぎ手もいなくなってしまうのだ。
信者の宗教離れという笑えない話になってくる。

一方、パリでは、公衆衛生の観点から
市街地での埋葬での是非が議論されていた。

この他、仮死状態と真の死の判別についての経緯では
実際に埋葬した家族が生きて帰って来たという
話が掲載されていたりする。

日本は、ほぼ火葬で、小さな骨壷を家族単位で埋葬する
という極めてコンパクトな形が主流。
最近では、海や山に散骨する自然葬が話題になることもある。
が、いずれにしても都市開発において
埋葬という行為は避けて通れない問題であり、
将来は宇宙葬なんてのもありなのかなと思ってしまうのでした。

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死体の解釈学 埋葬に脅える都市空間
原 克
廣済堂出版 2001年

2021年3月21日日曜日

読了メモ「隠された悲鳴」ユニティ・ダウ



読了。

ミステリー・・・・・
といいたいところですが、謎解きは殆どありません。

作者は、ボツワナの現職の外務国際協力大臣。
テーマは、「儀礼殺人」。

本書の定義によると、

 ある儀式にのっとって
 人体の一部を得るために
 行われる殺人。

とあります。

冒頭、儀礼殺人のために生贄とする少女を探し求めている
犯人が登場します。犯人Gpは3名。
いずれも、社会的地位や実権を掌握している人物です。


ある村の少女が行方不明になるのですが、
警察は、野生のライオンに襲われたものとして
事件を終わらせてしまいます。
それから5年後、国際貢献活動に意欲を注ぐ
若い女性が、ボツワナの奥深い田舎の診療所にきて
とんでもない「証拠」を発見します。
タイトルにある「隠された悲鳴」に相当するものです。

そこから、5年前の事件についての
掘り返しが始まります。
警察をはじめ高級官僚ら数名が首を揃えて
大きな会議室の一角で
真相を追求、いや暴露し始めます。

村人の怒りは頂点に達しており、
当時、なぜ警察は嘘の捜査をして事件の幕を下ろしたのか。
犯人はライオンのはずがない。
「証拠」が物語っているではないか。

真相を開示するページでは、
思わず目を背けたくなるシーンです。
人権問題とも言えるこの事件は
呪術、因習、抑圧、貧困、隠蔽、秘密が幾重にも重なって
一人の少女の命とその惨い扱いを覆い隠しているのです。

遠い昔の話ではありません。
実際にあった事件をもとに
一国の現職の大臣が綴った話です。
今でも現存する犯罪と思うとやりきれません。
現実にはしっかりと目を向けていきたいと思います。


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隠された悲鳴
ユニティ・ダウ 三辺律子訳
英治出版 2019年