2018年5月4日金曜日
読了メモ「子どもたちのマジックアワー」川本三郎
読了。
マジックアワーってご存知ですか。
太陽の沈んだあと完全に真っ暗になるまでの20分間くらいの時間。
その光がもっとも美しいそうです。
自分が子どもの頃は、母親の作る夕ご飯目指して
遊び仲間と別れたはいいけれど、ちょっと遅くなってしまって
家に走って帰っている時間でしょうか。
本書では、文学や映画などフィクションを通じて描かれる子どもたちを
さまざまな視点からみています。
無垢で清らかで、ときには神々しささえ投じられることもあれば
かたや、凶や不吉、親を捨てることさえありうる。
前半は、子ども対親だけではなく、子どもと他人や
子どもと飛行機や戦争などの話を通して
子どもが自由になり、それが恐怖や死につながり、
神の存在にまで結びついていくことが示されています。
そう言われてみれば、子どもを怖いと感じたことは
一度もなかったかと思うとそうも言い切れません。
後半は、具体的な演劇やアニメ、文学を実例にあげて
星を見上げて夢を語ったり、肉親を失い死に向き合ったりする
子どもたちが取り上げられています。
けれど、これらは、すべて大人が作った子どもの話。
子どもたちは何をどう本当に感じているのか。
すでに大人になってしまった私たちにはもうわからない。
子どもたちと話し接する機会が少なくなってしまい
文学や映画の中の子どもをみることばかりになってしまいましたが
フィクションの中ではなく、実際の子どもの気持ちに
少しでも寄り添えてあげられる大人になれたらと思いました。
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子どもたちのマジックアワー
川本三郎
新曜社 1990年
2018年4月23日月曜日
読了メモ「抒情的恐怖群」 高原英理
読了。
7つからなるホラー短編小説集。
恐怖小説を最後に読んだのはいつかな。
ずいぶんと久しぶり。
以前と同じく、ぐいぐいとひきこまれ一気に読んでしまいました。
やむをえないけれど、多少スプラッター的なところあります。
それが少しでも苦手な方は避けたほうが無難でしょう。
いきなり、顔が半分しかない子供が出てきたり
ゾンビに追われ、体に無数の小さな手や足が。。。。。
というか、やっぱり表紙に惹かれますね。
なんといってもこの本の決め手は表紙です。
絶対に逃れることのできない視線がずっと気になり、
いつ読もうか、いつか読まねばと思っていました。
その時点ですでに取り憑かれていたりして。
きっと貴方も虜になっていると思います。
でもはやはりエログロナンセンスは、
江戸川乱歩の方が風情もあっていいなぁなどと思う。
本書はそれほど、ドロドロ感はないように思います。
怖いことは怖いけどね。
全然、本書と関係ないのですが、職場に電波時計があるんです。
時々、時刻合わせのために、いきなり自動的にぐるぐる針が回り始めるんです。
あれって怖いです。なんとかして。
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抒情的恐怖群
高原英理
毎日新聞社 2009年
2018年4月18日水曜日
読了メモ「ムナーリのことば」ブルーノ・ムナーリ
読了。
ブルーノ・ムナーリ。
イタリアの美術家。
この本を手にするまで、彼の名前すら知らなかった。
ただ、古本屋で見つけて、表紙に惹かれたので
今、手元にあるということ。
表紙にはこう書いてあります。
おとなのしるしに
懐中時計をつけてもらった
そのとき 僕は10歳で
でも 何時におとなになったらいいのか
よくわからなかった
短文集で、エッセイとはちょっと違う感じ。
どれも彼の素朴な視点、見え方が綴られている。
ほんの短い表現で芸術論を説いていたりもする。
若返りの秘訣 なんてところでは
なるほど、言われてみればその通り。
面白かった指摘は、斜体で話す というお話。
新聞や雑誌は、文字の大小やフォントを変えて
いいたいことや大切なことを強調するが、
ラジオはそうはいかない。
どんなニュースも同じトーンで聞こえてくる。
内容によってテノールやソプラノ、バリトンで
ラジオのアナウンスを変えてくるのはありなんだろうかって。
そんな話のいくつかを憶えているうちに
ちょうど今、葉山の神奈川県立近代美術館で
彼の回顧展示を開催しているので
観に行こうと思います。
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ムナーリのことば
ブルーノ・ムナーリ
阿部雅世 訳
平凡社 2009年
2018年4月11日水曜日
読了メモ「片思いの発見」小谷野 敦
読了。
とてもじゃないが、
軟弱な話を想像していた自分にあきれてしまった。
ガッッチンガッチンの文藝評論であった。
国木田独歩の実際の恋愛の話を例にあげながら
それをモデルにした有島武郎の「或る女」の話。
川端康成作品の意外にも女性受けしない背景やら。
徳川時代から世の女性(男性)の耳目を集めたのは、
結局は容貌であり、昔から元も子もないなぁなんて。
唯一の救いは、伝統的な日本文藝では女性の心を捉えるのは
「金と力はなかりけり」の「優男」であって、
断じて「肉体派」ではなかったようです。
現実はどうなんだろう。
とにかく、著者によれば、「片思い」とは
分の悪い感情で、相手の感情が変わらない限り苦しく
他人の同情も得にくいのでほとんどメリットがないという。
そりゃまぁそうだけれどもさ。
う〜む。好きなんだからしょうがないじゃん
では、まだまだまだまだまだなんですね。
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片思いの発見
小谷野 敦
2001年 新潮社
2018年4月1日日曜日
読了メモ「江ノ島西浦写真館」三上 延
読了。
タイトル通りのご当地系でミステリーもの。
著者はあの「ビブリア古書堂の事件手帖」のお方。
主人であるお祖母さんが亡くなった江ノ島の古い写真館で
その遺品を整理するというところから話が始まっていく。
特に殺人やスプラッター的なものがあるわけではなく
4枚のプリントされた写真を通じた謎解き、
その写真にまつわる人たちの
人間関係を紐解いていく流れになっている。
古い写真館の話なのでフイルムや現像、暗室など
心くすぐられるワーディングがあると思えば
デジタルカメラで撮った写真がネット上に流布されてしまって
友人関係が拗れてしまうような今風な話も盛り込まれている。
昔からの写真館なので、古い撮影道具の匂いにつつまれたスタジオがあり
その2階にすむ管理人というのが、最後に仮面を外すのですけど
まぁ、ミステリーなのでこの辺でとめておきましょう。
ただ、もうちょっと装丁はどうにかならなかったかなぁw
もっとシンプルでもよかったと思うのは私だけか。
江戸川乱歩や横溝正史のようなドログロは期待してはいけません。
あくまで、湘南は爽やかなのである。
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江ノ島西浦写真館
三上 延
2018年3月18日日曜日
読了メモ「夜と霧」ヴィクトール・E・フランクル
読了。
新訳版を読みました。といっても2002年版ですが。
ずっと、気になっていたタイトルと装丁。
きっと難しいんだろうなぁと敬遠気味だったことを
猛省しなければと思った一冊です。
学生の頃に読んでおきたかったとも思う。
読んだ方はきっと多いはず。
原題は「或る心理学者の収容所体験」
ナチの強制収容所に収監された心理学者である著者がつづる、
人間の尊厳、人間にとっての希望とは、過去とは未来とは。
想像を絶する収容所での生活。それはきっと生活とは言えないだろう。
悪夢にうなされる仲間を起こそうとして、起こさないことにした。
現実より悪夢をみている方がまだましだからだ。
人はこの世に何にも残されていなくても
その有無が実際にはどうなっているかわからなくとも
至福の境地に一瞬でもなれることを読んでいて思い知らされる。
それは一体何だと思いますか。
そして、強制収容所で全てを奪われても、与えられた環境で
いかにふるまうかという人間としての最後の自由は奪えないのだ。
また、その傷は深い。
ようやく休戦となって収容所の門が解放されても
被収監者たちの心の中には嬉しさがわきあがってこない。
もう4年ほど前になるが
「戦争における「人殺し」の心理学」
という本を読んだことがあった。
こちらのヘビーな内容も一緒に思い出す。
もう二度と繰り返してはならないことにかわりはない。
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夜と霧
ヴィクトール・E・フランクル
池田香代子 訳
みすず書房 20012年
2018年3月12日月曜日
読了メモ「津 軽」太宰 治 「こころ」夏目漱石
読了。
タイプの違う文豪作品を二冊続けて読みました。
まずは、太宰 治の「津軽」。
実は初めて読んだのですが、
今まで持ってた太宰感がふっとんでしまいました。
途中で吹き出してしまうようなところもあったりして。
彼の故郷である津軽は、
グレーで曇っていて、どことなく寒くてという
寂寥感をいつもイメージして持ってしまっていたのですが、
故郷にいる知り合いを訪ね、知己に会い、歓迎され、
ペンネームでなく本名で呼ばれ、
東京の気障ったらしいところを互いに笑い合う。
歳を重ねるごとに故郷は、京都よりも奈良よりも
どんな都よりも素晴らしくなっていくという語りが印象的でした。
もう一つは、夏目漱石の「こころ」。
ちなみに、昨年読んだ初期三部作と同じ装丁の文庫を探してみました。
こちらは再読です。
といっても、以前読んだのは中学生の頃か。もう40年も経つ。
生意気にも中学生の時によく読んだなぁと。
たぶん半分以上わかってなかったんじゃないかとか。
恋愛が絡んで自殺におよぶ話だったよな程度くらいにしか覚えていなかったし。
先生という存在の大きさ、友人との心の通い、そして自己。
主人公のうちなる、それこそ心のひだが揺れ動く様は
読んでいて気持ちが悪くなる時もあった。
それほどに丁寧に、真意をついて書かれているのだと思う。
津軽は自分にとってはとても新鮮だったし、
こころはあらためて重鎮な作品だった。
今度はちょっと変わったのを読もうかな。
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津軽
太宰 治
未知谷 2006年
こゝろ
夏目漱石
角川書店 2014年
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