2020年2月24日月曜日
読了メモ「後ろ向きで前へ進む」 坪内祐三
読了。
70年代のサブカルチャーを
題材にしたエッセイが多い坪内さん。
まったくもって残念ながら、
先月亡くなられた。享年61歳。
代表作ともいえる「靖国」は
積ん読にあるので、折りを見て読む。
本書も他聞に漏れず、
植草甚一さんの話に始まり
福田恒存氏を軸に保守派文芸評論を展開し
私小説を論じていく。
ここまでは割と硬めではあるが
坪内さんらしい文体で大変読みやすく理解しやすい。
植草甚一さんに関する講義が
本書には掲載されているようで、
末尾には会場からの質疑応答が載せられている。
自分は植草甚一さんのことは
全くと言っていいほど知らないが、
大岡昇平や松本清張、太宰治らと同世代であることや
植草甚一さんが世間に残した足跡を追うことができた。
保守派文芸評論や、1979年はどういう年であったか
私小説の是非論などは、読書欲を掻き立てられる内容で、
やはり、小林秀雄氏は難しいけれど外せないなと思う。
中盤にはプロレスとジャイアント馬場の話になる。
懐かしい外人レスラーの名前もたくさんでてきます。
自分は小さい頃、
サンタクロースのような髭を生やしていた祖父と
祖父の友人が自宅に上り込んできては
プロレス中継を三人でよく見ていたことを思い出した。
坪内さんにとっては、猪木は確かにカッコいいけれど
やはり馬場の存在が大きいのだそうです。
実際でかいし。
一番最後は神保町の古本屋街の話で締め括られます。
紹介されているのは新刊本屋さんなのですが
ググってみたら、すぐ見つかったので
今度、行ってみようと思います。
坪内さんが心惹かれたというお店のセンスに
少しでも触れることができたら嬉しい。
では、おまけをどうぞ。
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後ろ向きで前へ進む
坪内祐三
晶文社 2002年
2020年2月18日火曜日
読了メモ 「イワンの馬鹿」 レフ・トルストイ
本記事は、2015年にキュレーションサイト「iftaf」に掲載したものに
加筆・修正を加えて当ブログに再掲載したものです。
読了。
「戦争と平和」のトルストイである。
一日で読み終えそうだなとお気楽に考えて
積ん読の中から手に取った。
案の定、すぐに読み終えたものの、
人間の持つ卑しい姿が垣間見えて
読み終えた時に、奥の深い教えのようなものが
じんわりと心にしみわたってきた。
児童向けの文学に心を洗われることが多い。
今回は民話調なので、少々趣きが違うものの
例にもれず、尊いことが描かれている。
権力、武力、財力、物欲....
人間は、いつもこれらに翻弄されている。
そんなことはないさ。と言い切れない。
そそのかす小悪魔や老悪魔もしっかりいるし。
「欲」は、あの手この手で惑わそうとしてくるが
イワンとその領民には効かない。
自分たちにとって必要な物が
必要な量あればそれで十分なのだ。
余計に欲しがることをしない。
そのためには額に汗して、
手にタコができるまで働く。
働かざるもの食うべからず。
でも、そこへ乞い求める人がくれば、
お互いに分かち合う精神をもっている。
人間として生活し、生きることの喜びを共にする。
決して排除をしない。
ところどころ、現代とそぐわない表現などはあるけれど
表面的なところに目を奪われず、
大切なところを心に留めておきたいお話。
あっ、そして、表紙や挿絵は、和田 誠さんです。
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イワンの馬鹿
レフ・トルストイ
あすなろ書房 2008年
2020年2月13日木曜日
読了メモ「深呼吸の必要」 長田 弘
読了。
久しぶりに長田さんの詩。
しかも、今回は散文詩である。
長田さんの言葉がいっぱいで嬉しい。
以前から、詩を読む時には、
行間をとても大切にしている。
行と行の間の空白に、
作者の思いがふつふつと湧いてくるからだ。
言い換えれば、
文字になって読めるのは氷山の一角。
自分が詩を読むのが好きになったのは
この行間の妙にあるのです。
それと、少なくとも2回は読む。
詩って、短いので読むとあっという間だけど
一度では味わいきれないし
二度目、三度目と読むと
その行間がまた違った顔を見せてくれる。
先述の通り、今回は散文詩であるので
文字が多く行間が詰まっている。
それでも、やはりこの味わい深さはなんとも言えない。
文字が多い分、水面上に出ている部分が多いわけで
水面下の長田さんの思いが
よりわかりやすい気もする。
今回の詩は、二編からなっている。
「あのときかもしれない」
と
「おおきな木」
いずれも、子どもの成長と
大人の思い入れが読む際のポイントかな。
残念ながら、長田さんは2015年に亡くなった。
もっともっと、長田さんの詩を読みたいと思うこの頃です。
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深呼吸の必要
長田 弘
晶文社 2011年
2020年2月8日土曜日
読了メモ「対話 人間の建設」岡 潔・小林秀雄
読了。
日本の文系と理系の達人お二人による対談....、
いや失礼、対話である。
口絵に出てくる二人の写真の面構えからしても
小林氏が聞き役になっているかと感じる。
事実、大変うまく岡氏の考えを引き出していると思う。
人間の建設というタイトルからして
スタートは学校教育の話からとなっていて、
学問を楽しむように世の中はなっていないのだという。
それを京都の大文字焼きから紐解いていく。
う〜む、のっけから話の進み方が尋常ではない。
自分は「無明」という言葉を知らなかった。
「むみょう」と読む仏教の言葉だそうで、
数学者の岡氏は、この言葉を用いて、
小我をよしとせず、例えとして、ピカソの難しい絵は、
小我を理解させるためには有意義だといっています。
そして、対する大我こそ日本文化の重要な考え方だとしています。
ここで神風特攻隊の話が出てくるので
読み間違えると大変危ないのですが
落ち着いて正しく読み解くことが必要なところです。
世の数学者の先生の方々には、大変失礼ながら、
自分の先入観で、岡氏がここまで奥深く、
事物について達観したお考えをお持ちとは。。。。
自分の発想の閾値をはるかに超えた世界をみた感じでした。
数学はね、最終的には数字や公式で表されるのではないそうですよ。
それは言葉であり、感情で数学は表現することができる。
ということなのだそうです。
すごい世界観ですよね。
小林氏の本は何冊か読んだことがあり、
いつも難解で?がいっぱいでてくるのですが
今度は岡氏の本も読んでみたくなりました。
幸いにも、積ん読には、両氏の本もあることですし
気合を入れて、頃合いを見計って読むことにします。
もちろん、この本も再読しよう。
ちなみに、自分が読んだ本書は1965年発行で
50年以上前の古本ですが、
今でも文庫本で出版されていますので、
気になる方は是非手にとってみてください。
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対話 人間の建設
岡 潔・小林秀雄
新潮社 1965年
2020年1月22日水曜日
読了メモ「海底二万マイル」ジュール・ヴェルヌ
読了。
あ〜、なんでこのお話を
子どもの頃に読まなかったんだろうって
すごい後悔してる。
だって、だって、すごい面白いし、ワクワクドキドキするし、
日本だって出てくるし、世界中の海を渡るし、
なんつったって、ネモ艦長がカッコいい。
ノーチラス号って、ネーミングもいいよね。
ネットで探したらアマゾンでこんな模型を売ってたよ。
かっちょよい!!
ディズニーで映画化もされてた。

登場人物が着る潜水服なんて、
ゴジラの芹沢博士が最後のシーンで潜る時に着るような
ずんぐりむっくりで動きが鈍いはずなんだけど
それで、大きなサメや巨大イカと戦ったりするんだよね。
もちろんピンチがあるんだけど華麗に勝っちゃうわけ。
いや〜冒険活劇ってのはこういうのをいうのだね。
本来は、600ページにもおよぶ大作なんだけれど、
ポプラ社さんは、それをうんと圧縮して
子ども向けに編集してくれたんだそうな。
ちなみに、映画 "Back to the Future Ⅲ" で
ドクとクララが恋に落ちるシーンのキューピット役が
このSFの父であるジュール・ヴェルヌで、
海底二万マイルの話も二人の会話の中にでてくるよ。
二人の間にできる子どもの名前もジュールとヴェルヌだしね。
まだまだ、読み残している本が
いっぱいあるんだなぁと痛感させてもらったお話でした。
みなさんはとっくに読んでますよね。
えっ、まだ!? ならば、ぜし読まないと!!!
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海底二万マイル
ジュール・ヴェルヌ 南本 史 訳
ポプラ社 2000年
2020年1月13日月曜日
読了メモ「ひとりでは生きられないのも芸のうち」 内田 樹
読了。
大好きな内田先生の本である。
相変わらず、内田節が炸裂しており
先生の考え方には大変共感するところが多い。
本書は大きく分けると
・家族の変遷/少子化
・労働とモチベーション
・メディア論/なぜ言ってくれないのか
・グローバル化の果てに
・共同体とはどういうものか
・愛と与え合うこと・死者との会話
各章のタイトルは、きちんとあるけれど
自分が読み終えた後に微妙にキーワードを
つけるとこんな感じか。
「C」が頭文字の某有名ファッション誌を取り上げて
日本が誰に対してもラブリーな唇でウフフな戦略を繰り広げている
という指摘なんかは、そうなのかぁと肯くことしきり。
でもやはり、最後の 愛についての章の
さらに最後に出てくるセンテンスが心に残る。
先生の持論である贈与についての話だ。
I cannot live without you.
先生は、この you にあたる人を増やしなさいという。
赤ちゃんの時は、母親だけだが、成長するにしたがって
増やしていくことが大切な生き方だと。
他の章では、現代の日本の文化や習慣が
こうなってきている、いつのまにか変貌をとげてしまった、
という感じで、どちらかというと批判的というか
この先々を心配されている流れでクロージングをしている。
それは先生自身の嘆きでもあるのであろうが
こういう切り口、視点で現代日本をみることができたり、
見つめることができたりするチャンスをいただけるのは
大変ありがたいことだと思う。
読後には、きっとキャッチボールがしたくなりますよ。
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ひとりでは生きられないのも芸のうち
内田 樹
文藝春秋 2008年2月
2020年1月6日月曜日
読了メモ「暮らしの哲学」 池田晶子
読了。
2020年の一冊目は、「哲学」です。
タイトルは「暮らしの哲学」
あの「14歳からの哲学」を著した池田晶子氏の
哲学エッセイです。
なので、お気楽に読んでも大丈夫かなと思って
ちょっと気を許すと、はて....、何の話だったっけと
中身を見失うことしきり。
やはり哲学「書」を読むときは
心して一言一言を考えて読まなければいけません。うむ。
現象の本質を考えるのが哲学なのです。
典型的な命題として下記があります。
どう生きるかではなく、生きるとはどういうことなのか。
本質である後者の問いを識ろうとするのは
前者の問いの現象を知るためなのだからということだそうです。
現象と本質が別のことであるわけがないのだからだそうです。
よいですか。
読み進めていくと、数の不思議から無と無限を考え
言葉の不思議から宇宙の存在を考えていくことになります。
言葉が人の心を動かすことの凄さ、
人の心はそのまま宇宙であるから、
言葉は宇宙を変える魔法ではないか。
とまで言い切ってくれます。
すごいです。
また人を動かしているのは思想やイデオロギーではなく
「好み」という主観であると。
これはなんだか、わかりやすい気がしますね。
そして幸福とは一体何かの価値転換を
なるべく早い年齢のうちにはかっておくことが大切だそうです。
年をとってからでは難しいそうで.........、あれ?
まぁ、タイトルに絆されて本棚から手に取ったのですが
新年早々、お餅を食べながら、
黙考し、頭をかなり使った一冊だったのでした。
若くして亡くなられたのが、大変残念な思いのする方の本でした。
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暮らしの哲学
池田晶子
毎日新聞社 2007年
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