2022年7月26日火曜日

読了メモ「ゲルハルト・リヒター 写真論/絵画論」 ゲルハルト・リヒター他



読了。

今年の10月2日(日)まで、国立近代美術館で開催されている
ゲルハルト・リヒター展に行ってきました。

ミュージアムショップで図録を買おうと思ったんだけど、
デカいし、せっかく買ってもパラ見で終わって、
本棚の肥やしになってしまう気がしたので、
絵のサンプルはポストカードで気に入ったものを選び、
書籍として、本書を購入しました。

アブストラクト・ペインティングと言われる抽象絵画が代表的で、
自分の目で見ただけでは、その素晴らしさがちょっとわかりません。
何か感じるものは確かにあったんだけど。。。
その点、本書は活字だし、なおかつインタビュー集なので
少しは理解が進むのではないかと密かに期待もしたのでした。

果たして、知らない画家の名前はたくさん出てくるはで、
やはり難しくはあったものの、
それはどちらかというとインタビュアーの質問の方で
リヒター自身が語る言葉はシンプルで平易だったと思います。
トンガってる話も多くありましたが。

写真を模写する絵画の話になった時、

 「写真を書きうつす場合は、(中略)、
  いわば自分の意志に逆らって書くことができるのです。
  そして、それは自分を豊かにしてくれると感じました。」

と述べています。我々が見ている現実はあてにならず、
自分の見方を客観的に訂正するには、写真が必要だというのでした。
なるほど、写真を撮るのが好きな自分には通じるものがありました。

ベルリンの壁ができる頃
1961年にリヒターは西ドイツに逃れてきます。
この頃の話は、過去のドイツに対する熱のこもった話になり
ページが燃え上がりそうな雰囲気にもなります。
リヒターの絵の前で、ひざまづいて人が涙を流すかという問いに対しては、
絵画にはそんな力はなく、むしろ音楽が向いていると言います。

そして、形式をもたらす偶然性を大いに信頼しているとして
手本となるのは、音楽家のジョン・ケージだと言っています。
雑然とした音響世界から音楽の構造を漉し分け、
一つの形式を与えるのだと。
不意に音楽とのつながりがでてきて、ここは面白いところでした。


最後には、日記のような自筆のノートを掲載しています。
アカデミーという名の芸術大学を猛烈に批判し、
芸術とは、真理と幸福と生命への最高の憧憬として働きつづけ、
一方で、自分が欲している映像とは何なのかと自問し続ける。

そして、イデオロギー、政治家、支配者に対する
異常なまでの嫌悪を粛々と述べて本書は終わっています。

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ゲルハルト・リヒター 写真論/絵画論
ゲルハルト・リヒター他 清水 穣訳
淡交社 2011年

2022年7月15日金曜日

読了メモ「山月記・李陵 他九篇」中島 敦




読了。

ちょっと、今までに読んだことのない傾向の本を読んでみた。
中国の古典や、漢文調のリズムの良さを活かしながら
読みやすい文体で書かれた作品11篇からなる。

どれも人間の浅はかな考えや思慮の無さ、
自己中心な生き方に流れがちなところを
ビシッと打ち止めて、改心を促す作品ばかりである。

本書のような作品は、正直、読めない漢字が多い。
ルビがふってあっても、遡って読み方を確認することもざらだ。
筆順辞典を持っているので、読めなくとも調べることはすぐにできるが
そのまま飛ばして読んでしまうことも多い。
一つ一つ確認し、意味を理解して読むのがよいと思う一方で
文体の流れやリズム感も楽しみたいとも思ってしまう。

タイトルになっている「山月記」は、
詩人の主人公がなんと虎になってしまう話である。
自分の欲するがままに生活をし、
口先ばかりの生活をしていたら、
いつのまにか、毛が生え、四つ足で走りはじめ、
兎を食い殺していたという。
山中で、主人公は友人に会い、虎の姿のまま人間の心を取り戻し
これまで、己が評価されることしか考えず
残した妻子のことを二の次にしていたことなどを悔やみ、
丘の上で咆哮するという話。

西遊記に絡んだ話が二篇あって、
どちらも、沙悟浄の話である。
この沙悟浄が、もうクズで小心者。
何をするにも躊躇し、失敗への危惧から努力を放棄していた生き方を
玄奘三蔵や孫悟空、猪八戒と遭遇して
特に、悟空の思い切りの良さ、自分が決めた道を
まっしぐらに進む生き方に心を動かされる。
時には、悟空と罵り合いもするようになり
身を持って悟空から学びを得ようとする。

西遊記といえば、堺正章が主演のあのテレビドラマを思い出すけれど
ちょうど、岸部シロー演じる沙悟浄の雰囲気がマッチしていて
読んでいてとても面白かった。
ということで、懐かしいオープニングです。


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山月記・李陵 他九篇
中島 敦
岩波書店 2021年



2022年7月5日火曜日

読了メモ 「侍女の物語」「誓願」 マーガレット・アトウッド



読了。

「誓願」は「侍女の物語」の続編です。
いわゆる、ディストピア小説と言われるお話を
一気読みしてみました。

男女別階層社会、同性間でも階級があって
侍女はその最下位にあたります。
階層別に服も決まっていて、侍女は赤い服です。

物語は、二十二世紀初めに学会か大学のようなところで
議論されるギレアデという共和国に関する話です。
読み進めていくと、このギレアデという国は、
不思議なことに、アメリカ合衆国の中にあるようで、
しかも、存在していた時代は、現代とほぼ近い時代のようです。
1970年代のことを70年代と呼んでいましたから。

侍女は、言ってみれば子どもを産むための存在でしかありません。
食事や洗濯などをする召使の階層もありますが、侍女はさらにその下。
いつぞや、日本の社会的地位のある方が、
女性は「子供を産む機械」という発言をして大問題になりましたが、
ギレアデ共和国ではそれを地で行っています。
本書の中でも、侍女は二本の足をもった子宮にすぎないと書かれており、
女性らしい振る舞いも化粧も禁じられています。

大きな権力を持っているのは、富裕層ではありますが
社会生活の実質的な権限を掌握しているのは「小母」と呼ばれる女性たち。
戒律といいつつ実態は、自分達に都合の良い生活環境を構築しています。
男性の方はというと、司令官という階層が上層にあり、
正妻を持つが、ほとんど夫婦らしい会話もしない。
侍女の名前も、仕える司令官の名前によって変わる。
例えば、グレン司令官の侍女なら、オブグレンというように。
そして、側女として侍女が司令官の子どもを産む。
子どもを産めば、昇進もするし昇級の機会も与えられる。
でも、出産に失敗し続けた侍女の行く末は。。。

続編の「誓願」の後半では、10代の異父姉妹の侍女二人が
隣国カナダへ脱出する話があるのでまだ救われます。
「侍女の物語」は読んでいて、本当にいやな気分になった。

ディストピア小説として有名なのは
ジョージ・オーウェルの「1984」ですが、
これは高校生の頃だかに読んだけれど、
すっかり忘れてしまっており、再読しようと思っています。
ただ、本書2冊を読んだあとすぐには、ちょっと勘弁かな。

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侍女の物語
マーガレット・アトウッド 斉藤英治訳
早川書房 2020年

誓願
マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子訳
早川書房 2020年


2022年6月8日水曜日

読了メモ「容疑者Xの献身」東野圭吾




読了。

東野圭吾さんの作品を読むのは初めてでした。
テレビドラマでは、いろいろ見たことあるけれど。
本書はその代表作ですね。
福山雅治さん演じる物理学者の湯川 学が出てきますし。

話が出来すぎているといえば
もう小説なんで、それまでですけれど、
クライマックスに向かっての
たたみかけはさすがですね。

スタイルとしては、
最初から犯人がわかっているという
倒叙式ではあるんですが、
単に犯人を追い詰めていくだけじゃない
二重のストーリーがあるわけです。
まぁ、ミステリーでもあるし
有名な作品とはいえ、
この程度にしておきましょう。

ちなみに、テレビドラマでは
湯川氏の相方にあたる刑事は女性でしたが、
原作では、同じ大学の友人の男性刑事です。
柴咲コウさんとかは出てきませんのであしからず。

おかげさまで、東野圭吾さん以外の
ミステリー作家さんの本も
結構、積読になってます。

関東地方も梅雨に入ったみたいだし、
雨の日は外に出ないで
読み耽るようにしょうかなっと。

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容疑者Xの献身
東野圭吾
文藝春秋 2006年

※下記は、文庫本でのご案内です


2022年5月30日月曜日

読了メモ「野生の思考」クロード・レヴィ=ストロース



読了。

正直、難しかった。
レヴィ=ストロースを一度は読んでみたいと思っていたが、
たいした予備知識もなく、対抗馬のサルトルのことも
よく理解していないうちに、勢いだけで読むのは厳しかった。

レヴィ=ストロースと言えば、構造主義とよく言われ、
どんなものかと構えていたら、本書は、文化人類学や民俗学の本であった。
オーストラリア北部やソロモン諸島、ニューヘブリデス諸島にある
小さな島々の一つ一つの部族単位ごとの習慣や信仰、習癖などが
こと細かに検証されている。
タブーとされている食べ物や、婚姻にまつわる規定、
これらの掟を犯した場合の罪などは代表的な事例である。
罪を犯した者は、集団の中で食べられてしまうという部族もあるそうだ。
また、動物や植物を思考の象徴に置いた習慣の披瀝が面白い。
あらゆる動物が慣例の象徴であり、タブーの監視役であり、
一方、植物はいつも人間の味方であったりする。

日本はよく多神教といって、山や川、草木、住宅や家具、
あらゆるものに神様が宿っているという話を聞く。
本書に出てくる各部族もはたしてそうであった。
その多神教の考え方が、出生と死、部内の階級に影響しており、
その典型的な型として、インドでは職業カーストとして
民族を分離してしまうという抗えない事例にいきつく。

興味深い教えとして、未開民族は農耕や畜農に無頓着だ
という通念のもとになっているのは、
旅行者が訪れる幹線道路や都市のそばに住んでいて
伝統文化の破壊が最もひどい土地の人間のことを言うそうである。

たとえば、ある部族に自分の氏族神として誰に祈ればよいかと尋ねると
タイプライターや紙やトラックがよいと勧められたという。
それは我々がいつも御厄介になっているものだし、
自分達の先祖から受け継いだものだからではないだろうか。


そして最後の章では、徹底的にサルトルの考え方を批判して終わっている。
この章の意味するところは、サルトルの考えを
少しでも理解しないとわからない部分だ。
今度は、是非ともサルトルの実存主義を一読してみたくなった。

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野生の思考
クロード・レヴィ=ストロース
大橋保夫訳
みすず書房 2016年

2022年5月23日月曜日

読了メモ「アポロって本当に月に行ったの?」エム・ハーガ




読了。

時々、この話を耳にするけれど、
みなさんはどう思いますか。

思い起こせば、
「この一歩は一人の人間にとっては小さな一歩だが、
 人類にとっては偉大な一歩である」
とは、アポロ11号のアームストロング船長の言葉。
翌年の大阪万博での「月の石」の展示。
月着陸船や母船とのドッキングの映像。
そして、月面での活動の様子。
星条旗が立てられた写真もありましたね。

しかし、これらは本当のことなのか。
米国国民の20%は月面着陸を信じていないとか。
本書では、当時のさまざまな写真をもとに
月面での不可解な現象を指摘しています。
はためく星条旗、向きや大きさの違う影、
逆光なのに鮮明に写る飛行士や着陸船のパネル、
星一つ写っていない真っ暗な宇宙。
などなど、他にも言われてみれば。。。。
という写真や映像の解説があります。
もちろん、写真や映像はNASAが公表したものです。

また、アポロ計画の背景にあった
旧ソ連との関係についても触れています。
当時、宇宙開発においては、旧ソ連が優勢でした。
1961年に旧ソ連は人類初の有人宇宙飛行に成功し、
「地球は青かった」
というガガーリン少佐が残した言葉は有名です。

現在、無人ですが火星への探索が開始され、
日本も「はやぶさ1号」「2号」で、
太陽系の探索を始めています。

アポロが月面に着陸したのが50年前。
それを信じるも信じないのも読者が決めることと
都市伝説のようなことを著者は言っていますが、
宇宙への夢を持って生きようと締めくくっています。

ちなみに、著者のエム・ハーガは、
芳賀正光という日本人で
本書を英語で出版し、自身で日本語訳したものです。
さらに、著者は月に土地を持っているらしいです。

本書に結論はありません。

もう一度お尋ねします。
みなさんは、どう思いますか。

私は行ったと思います。

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アポロって本当に月に行ったの?
エム・ハーガ
芳賀正光訳
朝日新聞社 

※下記は文庫本でのご紹介です。


2022年5月15日日曜日

読了メモ「マクベス」シェイクスピア




以前の読了メモから、随分と間があいてしまいました。
これに懲りずにアップを続けられればと思います。


で、読了。

もちろん翻訳本ですが、
初めてシェイクスピアを読みました。

戯曲なので、小説のような地の説明文がありません。
宮殿の広場とか、人物が登場するや退場するとかその程度で
その他は全てセリフです。
ですから、それこそ宮殿の華やかな装飾や
荘厳な雰囲気、セリフに込められた感情や表情を、
自分の脳みそをフル稼働し想像して
頭の中にマクベスの舞台を作る必要があります。
戯曲を読む面白さかもしれません。

スコットランドの王位を巡る話であり、
大きな転換点は「魔女の予言」ですが
マクベスの心のあまりの変わり様、
なぜこんなにまでにマクベスを変えてしまい
惨劇を引き起こす事態にまでなったのかが
なかなか理解できなかった。
自分の頭の中の演出家が頼りなかったかな。

ストーリーはもちろん、
人物の発するセリフの一つ一つに趣と勢いがあって、
シェイクスピアの戯曲ならではの
雰囲気を味わえた気分になれたのはよかった。

でもやっぱり、ゴリゴリに演出の効いた
舞台劇を観賞してみたいと
最後は思ったのでした。

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マクベス
シェイクスピア
安西徹雄訳
光文社 2020年